オーラス7本場:「あの日」の手役
「……終わりだな」
軍星はそう呟きタバコを吸おうとしたところで、雀荘ではなかったことを思い出し胸ポケットにしまい込む。
軍星が和了った手役。大七星。
人によっては麻雀の最高難度の手役と言う人もいる。
もはや幻と言っても差し支えない手である。
「……すご。ボクもそこそこネト麻はやってるけど。初めて見た」
「うわぁ。マジかよ。そんな手、上がれんのかよ……」
鈴木と河下があまりの珍しい手役に、思わず放心状態となっている。
それだけ、この手は奇跡の手である。
否、白崎舞が死した時に使われていた牌。因縁の相手との決着。
ある種、運命といえるかもしれない。
「あぁ……、白夜様。役満ですか……。でも、しょせんシングル。まだ私は生きてますよ……」
今、軍星たちが行っているルール――Aルールと呼ばれる――では、ダブル役満は「役の複合」でしか認めていない。
つまり、「字一色」と「大三元」のように複合した場合はダブル役満と認める。
しかし、「大七星」はあくまでも「字一色」の「七対子形」でしか無いという判定になる。
故にただの役満となる。
「……えぇ、確かにそうですね。あなたを倒すためにはFルールのままであればよかった。でも、そうしなかった理由があります」
軍星は静に、だが丁寧な口調で一色字美に語りかける。
それに対して「……は?」という顔をする一色字美。
「ロン。頭ハネですね」
中原みなみが牌を倒す。
その牌は「中」と「南」の役牌2。
南場の親である以上、和了する権利はある。
この場面で普通はしないだけで。
「みなみ!? キミは何を考えてるんだ!! 六道教諭が和了で終了じゃないか」
「だぜ、中原パイセン。何やってんだよ!! そんなもんに意味なんか!!!」
「……そう、意味なんて無いよ。でも、白夜さんから聞いたんです。い白崎舞さんは意味の無い和了で死ぬことになったって」
その言葉に妹である白崎静が反応する。
「……どういうこと?」
地の底から聞こえるかのような静謐な声。しかし、確かに怒りがにじんでいた。
「一色字美が妹である一色清美に命じて、順位の変わらない和了をさせた。その時のルールで満貫振り込みの罰ゲーム。そのロシアンルーレットで白崎舞さんは無くなった。ほら、見てください。この牌。そのときの血がついています」
明らかにドン引きしている鈴木と河下。
対照的に、軍星へのわだかまりが氷解していく白崎静。
「六道……先生? 何で、言ってくれなかったんですか?」
「……俺が舞を守れなかったのは事実だ。お前にはそんな俺を恨んでいてほしかった。今でこそこんな雑魚の一色だが、当時は危険だったからな」
「先生、後でビンタ一発させてください。それで許します」
「……お手柔らかに」
「知りません」
そんな和気藹々とする麻雀部。
対照的に死屍累々としている一色率いる麻雀部。
「……白夜様。頭ハネ成立で良いんですよね。なら、続行ですよね。早くしてください。まだ、終わってないですよ」
「あぁ、そうでしたね。そんな小さなこと忘れていました」
「……びゃぁくぅやぁあああああああ!!!」
「うるせーよ。あと、息くせーから呼吸すんな。 ……悪いなみなみ。こいつを片付けるぞ。お前の親番から続行な。もう少しだけ、この茶番に付き合ってくれ」
軍星の挑発に面白いように乗ってしまう一色字美。
普段であればこの程度であればスルーできるであろうが、冷静さを失っている。
故に簡単に乗ってしまうのである。
そして、勝負は冷静さを無くしたら負けである。
(で、対局再開は良いんだけどさぁ……。何これバラバラじゃん)
第3トンまで持ってきた段階で刻子や順子はおろか、棟子すらみなみの手牌には存在していない。
いわゆる「お祈り国士無双」を狙うにしても悲しい状態。
また、「九種九牌」で流すには邪魔な数牌もいくつか混入している。
要するに、凡手にすらならないゴミ。
まさかのここに来て中原みなみ絶不調な配牌。
(せめて、4トンとチョンチョンで少しは勝負になる手になれば……)
だが、その期待もむなしく4トンでは見事なまでにバラバラ。
もはやどうしようもない不幸。
だが、チョンチョンで奇跡は起こる。
「中原、その牌で一色を地獄に落とせ」
「分かりました。 ツモ。 『十三不塔』です」
白夜と中原が初めて共闘したあの日。
鈴木純を救いに行った時に和了したその手で、今度は一色字美を――終わらせる。
「この牌で地獄に落ちてください」
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