オーラス5本場:続行する死合
「……ぁ」
一色字美の心は折れかけていた。
かつて敵わずにその命を奪うことで、勝負から逃げた相手。
その姿を中原みなみに重ねてしまったからである。
「…………ぁ」
一色字美の心は折れかけていた。
すべてを見下している人間が唯一勝てなかった相手。
その姿を中原みなみに重ねてしまったからである。
「………………ぁ」
一色字美の心は折れかけていた。
憧れ、尊敬し、そして嫉妬した才能を持っている相手。
その姿を中原みなみに重ねてしまったからである。
「……………………ぁ」
一色字美の心は――折れた。
「あぁあああぁぁぁあぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁあぁぁあああああ」
決して広くない麻雀部の部室に響き渡る慟哭。
聞く人が聞けば「血を流すような絶叫」と感じるかもしれない。
聞く人が聞けば「無意味な咆吼」と断じるかもしれない。
だが一つだけいえることは、終わったという事である。
しかし、それに納得していない人間がこの場に一人だけ居た。
「……おねぇちゃんの敵!」
白崎静が一色字美に襲いかかる。
だが、それを河下更江がとめる。
「はなしてっ!! はなしてっ!!! はなしなさい!!!! こいつは! こいつはっ!! おねぇちゃんを!!!!!! お姉ちゃんを!!!!!」
「お前はアホか。 死んじまった奴の復讐をしたところでなんになる! 復讐は復讐を産むだけだ」
「うるさいうるさいうるさい! 私の気持ちの問題っ!! 部外者は黙ってってよ」
「……なら、関係者なら良いのかな」
言うが早いか、鈴木が白崎静に「腹パン」をする。
その一撃で崩れ落ちる。
「すまない会長。実力行使の方が早いから、殴らせてもらったよ」
そういった外野のやりとりはあるが、それを一切無視して白夜は一色に声をかける。
「何してるんだ一色? 早く牌を取れよ」
「……はっ? 何を言って」
「まだ、何4局じゃない上に誰もトんでいない。 お前のイカサマは、お前を確実に殺すために不問にしてやるって言ってるんだ。 要するに、まだ対局は続いている。 牌を取れ」
ゴミを見る方がまだ暖かいであろう目。
白夜の絶対零度。
その目に見つめられたものは恐怖に支配されるであろう。
だが、一色字美はすべてを失ってしまった。
故に、無敵。
その目を見て、暗い闘志が湧いてきた。クズである。
「びゃくやぁ~、あんたわたしが勝ったら死んでよ」
「嫌だね」
「なら、わたしが負けたら死んであげる」
「お前の死などに何の価値もない。無駄に生きて無意味に死ね」
だが、白夜も負けてはいない。
クズを相手にするときはクズになる。
争いは同じレベルのもの同士でしか起こらないと言われる。
だが、相手にワカラセルためにはあえて争う必要がある場合も存在する。
「なら、どうすれば受けてくれるのよッ!!」
もはや支離滅裂意味不明理解困難な思考をしている。
いや、「思考」という形すらとれていない。
ただただ、思いついたことを言い続けているに過ぎない。
獣以下のクズ。
それが現在の一色字美である。
「……軍星さん、こいつトばしましょう。 こういう馬鹿は言ってもわからないので、殴って分からせるしかないです」
「……俺が言うのも何だが、お前俺に似てきたな」
「彼女ですから」
「彼女じゃねーよ。 ……一色さん。 ではルールを変えませんか? イカサマでも何でもあり。 そのFルール。 これをAルールに変えていただきます。 よろしいですね」
もはやタメ口を使ってやる必要も無い。
故に、敬語を使い出す。
それは相手を立てているようで、よく知った同士の中では無礼に当たる。
慇懃無礼とはよく言ったものである。
つまり、軍星はもはや一色字美と知り合いとすら思われたくない。それを前面に打ち出したのである。
「あはははははははははははっはははは。Aルール、Aルール、いいわいいわいいわ。わたしいちばんとくいなの」
戦いは終わりに近づいていた……。
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