南3局1本場:餓狼の咆吼
そして、交流戦という名の死闘が始まった。
東家に鈴木純。南家には一色字美の学生である高林とかいう生徒。西家は同じく一色のところの学生である柳。そして、北家には河下が座る。
「あ、あの……。お、お願い致します……」
河下が二人に挨拶を行うも、スルーされる。
見ると、その目には生気が宿っていない。死人の方がまだ生き生きしているだろうという印象を受ける。
「……チー」
柳とかいう生徒が哭き、筒子の123を卓に晒す。
(状況的に考えると、チャンタ系の手を狙っている可能性が高い。しかも捨て牌の状況から、役牌は手牌で完成している可能性が高い。となるとあとはどこで仕掛けるかか……)
そう軍星は柳という生徒の手を推測する。
とそこで、
「……ボクが『ポン』って言ったんですけど」
鈴木純の「待った」がかかる。
麻雀に置いて「チー」と「ポン」では、「ポン」のほうに優先度がある。
これは「チー」の場合には、「2・3」であれば「1・4」の最大8枚哭くチャンスがある。
しかし「ポン」の場合、残り牌は2枚。
ゆえに明刻作成が優先されるというルールがあるからだ。
ただし、著しく発声が遅い場合にはその限りではない。
「あ、あの……。な、仲良く、う、打ちましょ? こ、交流戦なんですから……」
「……河下クン。ボクは別に喧嘩する気は無いよ。ただ、彼らは先ツモばかりでイライラしてるだけで」
おそらく、一色字美の策略であろう。
ワザとマナー違反とされる打ち方をさせることにより、こちらのミスを誘う。
卑怯で最悪で醜悪な手段である。
「……番」
「……キミ、高林と柳って言ったかな? ボクは初対面だけど、すでにキミたちの事が嫌いだ」
「……どうでもいいですが、早くツモってください。遅延はやめてください」
感情のこもっていない機械のような声。
だが、確かにある「煽り」や「嘲り」の色。
それにイライラしている様子の鈴木。
軍星は「あぁ、もっと煽りに耐える練習させとけばよかったか……」と柄にもなく後悔していた。
「……はぁ、まあいいや。じゃあ、『北』捨てますね」
「……ポン」
柳とかいう奴が哭く。
オタ風の北を哭いたことで、いよいよチャンタ風味が濃厚となってくる。
そして先の「ポン」で所持がバレてしまっている2筒子を河へ置く。
おそらく次順に3筒子を切るのであろう。
鈴木が1筒子をポンしており、チャンタ系であるのであれば当然の切り方ではある。
(……オレ様の手は正直ゴミ。ここは鈴木パイセンに頑張ってもらうしかないけどさ、どうやって哭かせる? 六道のおっちゃんにもっと手牌の読み方を習っとくんやったな。ちくせう)
河下が心の中で思う。
そして、9索子を切る。
「……チー」
「……だから、勝手に進めないでくれるかな? ポンって発声したんだけど」
「……発声が遅いんじゃないですか?」
「……オマエが手前勝手に進めていくからこうやって揉める。もっと、マナーを守ってくれないかな?」
一色字美が離れたところに座り、「マナーとか笑ってしまいますわ」とか言っている。
裏の世界ではなんでもありではある。それ自体は否定はしない。
だが、今回はあくまでも「交流戦」である。最低限の対局時におけるマナーを守らなければ、卓に頭を叩きつけられても文句は言えないであろう。
「……柳。その辺にしておけ。後3巡でお前の和了りだ」
高林がそうつぶやく。
そして自らの手牌に手をかける。
要するに、「お前に哭かせる」という合図である。
(なるほど、急造とは言えコンビ打ちが出来る程度には練度をあげているというわけか。こいつらにはまだその面は不足している。だから、いい勉強になるだろうな)
軍星はある意味で「呑気」に構えている。
それは、自分の教え子たちの勝利を確信しているからである。
河下の手はおそらく崩壊している。せいぜい3シャンテンもあればいいだろうと軍星は考える。
対する鈴木の手は1筒子と9索子が晒されている状況。
普通であれば、「清老頭」や「混老頭」あたりを警戒する場面。
無論、確率的には低いので無視して全ツッパしてもいいだろう。
「チー」
再び、河に9索子が置かれる。
それを柳が「チー」で自身の手牌に入れ場に「7・8・9」の形で晒す。
二つ晒しているので、聴牌気配が濃厚。
少なくとも、警戒はしなければならない場面。
「ロン」
だが、柳の放った「東」に対して鈴木がロンを宣言する。
「役牌のみ1500」
手牌は1筒子と9索子の明刻、それに東の暗刻。後は2・3・4の形になっている索子。そして1萬子の雀頭。
チャンタ崩れの役牌のみ。
だが、その1索子は柳の手の中にあるだろう。そう読んでの役牌のみ。
そしてそれは正鵠を射ている。
「オマエ、知ってるか? 六道教諭の煽りのほうがよっぽどキツイよ」
餓狼は出るかわからない不確実な手よりも確実な手。
自らの直感に賭け、敵に食らいつき、点棒を喰らいつくす。
その姿は勝利に飢えた狼のようであった。
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