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南2局6本場:餓狼の覚醒

「チー!」

「違う。今哭くな。待ちが狭くなる」


 六道軍星が一番の問題児だと思っている人間がいる。

 鈴木純。

 実力をはかるための麻雀で、「意味のない哭き」をよくしていた。


「おまえ、今なんで哭いた? 説明できるか?」

「……哭けるから?」

「無意味な哭きはするな。その哭きを説明できないのであれば、その哭きは無意味な哭きだ」


 哭きというものは、効果的に使えば最強である。

 他人に番を回さず、自分だけが手を進められる。

 だが、それはあくまでも「効果的に哭いたとき」に限定される。


「だって、なんか、みなみに置いてかれる気がして……、みなみに置いてかれないようにするためには……、こうするしかないかなって……、思ったんです……。六道教諭、間違ってます?」

「お前が中原に執着する理由は知らん。知りたくもない。知る必要すらないと思っている。だがな、お前には言っておかないといけないと思うから言おう。――今のままだと、お前は中原の隣に立つどころかその背中を拝むこともできない」


 中原みなみから鈴木純の性格を聞いている軍星。

 ゆえに、あえて突き放すような言い方をする。


「……みなみの隣に立てない? なら、ボクが生きている意味って?」

「今のままだと無いな」

「あぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「狂ってる暇はないぞ。卓に着け。続けるぞ」


 外から見ると、冷徹としか思えない軍星。

 だが、軍星が白夜として中原みなみに言ったことと同じような問題を鈴木純も持っている。

 彼女は――中原みなみに執着しすぎている。


「あぁ、そうだ、いいこと教えてやるよ。俺な、中原の告白を受けることにした」

「……は?」

「聞こえなかったか? 分かりやすく言い換えてやる。中原みなみの隣には俺が立つ。お前の場所は――ない」


 その執着を断つために、非情になる。鬼になる。悪魔にだってなる。

 それが()()のやさしさである。


「……殺す、殺す、殺す」

「俺を殺したいなら、麻雀で殺せ」

「カンっ!!!!!」

「ドラ3が確定で俺についたな。役牌ドラ3。満貫確定だな」

「うるさいっ! ボクが先に和了ればいいんだ!!!!!!」


 軍星がすり替えでドラ表示牌をすり替える。

 古来から存在する「ドラ爆弾」というイカサマの応用。

 たった1枚を仕込むだけだら、火力と破壊力は凄まじい。


「知ってるか? できる事と、できないことが世の中には存在する。お前のその哭き方では俺には勝てない。つまり、できないことだ」

「……いえ、できます。やって見せます! これがボクの答えだぁ!!」


 嶺上牌を自模る。

 そして、牌を倒した。


「……嶺上開花のみ」

「やるじゃん」


 軍星があえて煽っていたことを鈴木純に謝罪する。

 告白を受けたことも嘘だと認める。


「むやみやたらに哭くな。哭くのは攻撃一辺倒になってしまう。どうしても防御が薄くなってしまう。だからそこを突かれて手痛い失点をすることもある。俺も、白崎の姉に出会ったばっかのころはよくやってた」

「……和了超特急(ほーら―えくすぷれす)時代のことかな?」

「中原か……」


 落ち着きを取り戻しつつある鈴木純に、かつての通り名を言われる羞恥プレイ。

 だが、それが本来の六道軍星としての麻雀の打ち方であることも事実。


「……まぁ、哭き麻雀は俺が本来得意とするものだから」

「なら、どうやって哭けばいいんですか?」

「おまえ、立ち直り早えな」


 哭きを有効に使う方法は2つ。

 手を進めるためと、邪魔をするため。

 一つ目は非常にわかりやすい。

 自身の和了りに向けて一直線。できる限り待ちを広くしつつ攻めればいい。

 言ってみれば、ノーガード戦法による殴り合い。


 そしてもう一つ。

 ある意味ではこちらが哭きの本質と言ってもいいかもしれない。

 相手の「一発」を不可能にする。

 相手の和了牌を消費しつくす。

 たとえどんなに強力な手を相手が張っていても、和了できなければゴミと化す。


「食い散らかすなら、上手く食え。そして、相手の反撃の手を潰せ。それが哭きの本質だ。俺はそう思っている」

「……なら、ボクはどうすればいい?」

「哭く奴は何が河にあり、何が牌山に残っているかをすべて把握しろ。見えないものを見るんだ」


 トランプゲームのブラックジャック。

 そのゲームには「カウンティング」という技術がある。

 ジョーカーを除いた52枚を6~8セット、312枚~416枚。

 そのすべての「何が出て」「何が出ていないか」をすべて把握する。

 カットカードの下も考慮し、自分の手を有利に進める。

 それによって、必勝に近い成績を出す技術である。


 麻雀牌は136枚。覚えなければならないものは半分以下。

 理論上は決して不可能ではない。

 無論、そんなものは麻雀を何十年やっていてもできるものはごく少数。

 せいぜいが、「自分の和了牌は何枚残っているか」を数える程度である。


「あ、俺はやってるからな。できるようになれば手を進めるのも、邪魔をするのも簡単だぞ」

「……やってみます。やればいいんでしょ! ボクだって意地があります!! やって見せますよ!!!!」


 それから数日。

 そこに一匹の餓狼が誕生した。

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