南2局4本場:殺意の麻雀
「みなみ、お前はその牌で地獄に落ちろ。ロン6倍役満」
軍星は裏世界の男、白夜として中原みなみを殺しにかかる。
その手は「四暗刻単騎」「大四喜」「字一色」「四槓子」という、およそ考えられる最悪の部類。
まだ「天和」と「八連荘」を複合させなかっただけ温情かもしれない。
「わかったか、みなみ。お前の弱点が」
「……イカサマを見抜けなかったってことですか?」
「違う。俺のことを見すぎなんだ」
「……大好きな人のことを見て何が悪いんですか?」
「悪いだろ。こんなアホみたいな手に振りやがって。こんなの人生三回くらい終わるぞ?」
中原みなみは六道軍星のことが好きである。
その「好き」という感情が、「隙」を産んでしまう。
「みなみ。もしも俺が人質に取られたときはどうする?」
「助ける方法を探します」
「違う」
軍星は自分のことを好いてくれている人に対して、残酷なことを言い放つ。
「見捨てろ」
それは裏の世界で生きてきた軍星であるからこその忠告。
「良いか? 人質というのは人質であるから価値がある。その価値が無いとなると、敵からしたらただの重荷になる。逆に足かせとして働かせることが出来る」
「……そんな」
「そんなもこんなもない。お前は優しすぎるんだ。殺意を持て」
殺意。
それが軍星が生き残ってくるために必要だったもの。
すべてを中原みなみに伝えようとしている。
「……それでも、私は」
「甘い。だから、こんな手に引っかかる」
国士無双。その十三面待ち。
実に中原みなみはここまで役満8回分。点数にして38万4000点分振り込んでいる。
1000点50円のレートであっても1万9200円分の負け。
軍星は、白夜として中原みなみを潰す。
潰すことで、自身の踏み込もうとしている世界を教えようとしている。
つまり、「お前が好きだと言っている男の世界は殺し合いの世界だ」という事を示している。
「……でも、私は」
「……はぁ、実力のないやつの言葉は大言壮語。いや、そんな高尚なものではないな。子どものワガママ以下だ」
ゆえに、ほかの部員よりも圧倒的に厳しい指導麻雀をしている。
他の部員はせいぜい「普通に強い」と言われる程度までの指導。
その日の昼食代を稼げるようになる程度と言えば分かりやすいだろうか?
だが、中原みなみに行っているのはそんなレベルではない。
「……私はっ! 私は!!」
「その牌で地獄に落ちろ。ロン」
もはや容赦遠慮手心手加減。そんなものはない。
普通の人間であれば心が折れても仕方がない。
軍星の、白夜としての、恐ろしいまでの手牌読み。
それによって、「何を切っても当たる」という恐怖感。
それによって、「何をしても勝てない」という絶望感。
だが、
「それでも私は! 軍星さんの隣に立ちたいんだぁ!! それを、邪魔するな!! 白夜ぁ!!」
執念は時として奇跡を呼ぶ。
「……地和です」
「……よくできた」
白夜が、軍星が中原みなみへの指導麻雀で出した課題はただ一つ。
手段は問わない。俺に対して役満を和了って見せろ。それだけである。
「いいかみなみ。一色程度でも牌に触らせればイカサマをしてくる。ならお前はどうする?」
「……イカサマを指摘して勝負を無効にします」
「違う。させないんだ、イカサマを。そのために、お前はイカサマの技術を磨け。自衛のために手段を知るんだ」
泥棒に入られないための手段としては、泥棒が入るための方法を学びその手段を潰すことが最も有効であると言われている。
ゆえに、イカサマをされないためにはイカサマを知る事が大切である。
そしてそれは六道軍星が「白夜として」、白崎舞に初めて教わったことである。
先日、各自の実力を把握した後で軍星はそれぞれの実力を伸ばしていくことにした。
もちろん一色清美のことであるので、いわゆる「まとも」な人は連れてこないだろうことは想定済み。
ゆえに、白崎静には「立直」を有効に使う方法を教えた。それが「ダマテン」をより強力な武器にできると考えたためだ。
中原みなみは六道軍星の隣に立つために。ただそのためだけに、様々な雀荘へ出入りし実力を磨いてきた。
そのため単純な麻雀の腕であれば十分。相手が女子高校生であると舐めているうちに、試合を決めてしまっていた。ゆえに相手がやり返してくる前に卓を去っていた。
あえて言い換えるのであれば「短距離走」で逃げ切る。そういう打ち方。
だが、その足を掬おうとしてくる人間へは無防備であった。
「……みなみお前2万円くらい負けたわけだけど、お前の金で焼き肉な?」
「……女子高校生にたからないでくださーい」
殺意をぶつけるという形でしか愛を伝えることのできない不器用な男。
それが六道軍星という男であった。
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