南2局3本場:立直の技術
「……なんで立直なんてしなきゃいけないのよ。ふざけないでもらえる?」
「俺にも一応考えがあることなんだ。聞いてくれるか? そのうえでやるかどうかはお前が決めろ」
六道軍星は白崎静に「立直」という手役の活かし方を教えている。
手役としての立直は聴牌した後に、その手と心中することを条件に1翻を貰える手である。
白崎静はその名が表すかのように静かに潜航し、突如浮上。その一撃で仕留めてまた潜る。まるで原子力潜水艦のような打ち方と言えばいいだろうか?
だが、そういう人間にこそ「立直」という手は真価を発揮する。
「良いか、お前の打ち方は『ダマ』で打つ。それは分かる。だが『立直』をうまく使えれば、それがより生きる」
「……どういうことよ?」
「基本的にはダマで良い。でも『立直』をうまく使うと、相手に疑心をもたらすことが出来る。『あれ、こいつは聴牌したのか? していないのか? 分からない』って思わせる。それで相手が勝手に崩れてくれれば儲けものだ」
アメリカンフットボールでQBが骨折し、退場することがよくある。
敵からしたら、チームの司令塔が消えるわけだから当然喜ばしいことである。
だが、その骨折をテーピングで無理やり固定してフィールドに帰還する。
それは「来るかもしれない」というプレッシャーを相手に与える。その示威行為で相手が警戒すれば戦術の幅が広がるためだ。
実際にパスが投げられなくとも、「来るかもしれない」そのプレッシャーが相手を拘束する。
「……つまり、ダマ戦術を活かすための『立直』戦術って事? それなら納得はできるけど、やっぱり立直は好きになれない」
「……逆に聞きたいんだが、なんで『立直』をそこまで嫌うんだ?」
立直は危険な手である。
だが、同時に裏ドラを見る権利を貰える。
危険であるがゆえに点数を上昇させるというメリットも存在する。
それをただただ放棄する。
軍星のように相手の手を読める人間からしたら、意味が解らない。ゆえに、何か理由があるのではないかと考えた。
「……家族で麻雀をしたときにいつもおねぇちゃんに手を読まれてたの。おねぇちゃんは聴牌即立直するくせに絶対に振らない。でも、私はいつも振ってしまう。なら、ダマにしておけば読めないんじゃないかって」
「……確かに舞は手牌読みが得意だった。というより、俺の手牌読みは舞に教わったものだからな」
ゆえにあの日の満貫打ち込みがありえないことで、軍星は衝撃を受けたわけだが。
「だけど、舞は読んでたと思うぞ。俺に読めることが、あいつにできないわけないからな」
「……読めてるんだ」
なんか気落ちした雰囲気の白崎静。
だが、一色清美程度であれば現状でも勝てると思う。
ゆえに一つ上のステージへ上がるための技術として、「立直」をマスターさせたいと軍星は考えている。
「……だけど、お前の手を読みにくくする技術はスゴイ。その辺の雀荘に1週間も居れば1年分の学費くらいは稼げると思う。だが『立直』をきちんと覚えれば、1週間で2年分の学費にはなるかな?」
「……あの、忘れてるかもしれませんけど。私、生徒会長。そういうとこに行く人を怒る仕事」
「……忘れてた」
「……あん?」
中原みなみがしょっちゅう雀荘にやってきては「彼女にしろー」だの、「つきあえー」だの言うので雀荘への出入りがセーフだと思っていたのをバラスと怒られそうなので黙っておこうと決めた軍星であった。
「でも、『立直』か。おねぇちゃんが死んじゃってから、ネト麻のCPU戦しかやってないから意識したことないなぁ……。昔からネト麻はやってたけど、もうここ数年は対人はやってない」
「俺も昔はネト麻ばっかだったな。で『DANCE』さん事、お前の姉に会って裏の世界に行ったからな」
軍星は周りが英単語しか使っていないので、ふざけて「EUGEN」というドイツ語の単語を使っていた。
そこそこ強かったのに加えて、「ドイツ語で目立ったから」という理由で目に留まったと生前の舞が言っていた。
「もうずっと前に居なくなっちゃったんですけど、『ユージン』って人にずっと憧れてたんですよね。打ち方も格好いいし、強い。しかも、ものすごく紳士的。どこかの教師と違ってね」
「……泣くぞ。喚くぞ。吐瀉物スプリンクラーになるぞ?」
「片付け大変だからやめろ」
冷たいを通り越した絶対零度の目。
「すみません」
「わかれば、いい」
「……ま、まぁ、お前はあんまり対人の経験もないってことが分かった。今後は対人戦の経験を積む方向にシフトしていくぞ」
そして、白崎静の立直戦術は至高の領域へと到達することになる。
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