東3局2本場:誇り
「俺は『白夜』だ」
軍星はあえて「白夜」の名を名乗った。
それはかつて傷つけられてしまった自らの「誇り」を取り戻すための決意。
それは乗り越えるべき宿敵への宣戦布告。
そして、それは喪ってしまった恋人への弔いのためだろうか。
「まずは、その関係ない女を開放してもらおうか」
「どこに、人質を解放する馬鹿がいると思ってるの? 軍星、あんた白崎のせいで馬鹿になっちゃったんじゃないの~」
一色清美の嘲るかのような話し方。
それに侮蔑と、ゴミを見るような感情を込めた目で見つめる白夜。
見るものが見れば恐怖を感じ、失禁しかねないような漆黒。
「まぁ、いいだろう。お前が。いや、お前らが人質を取らないと、勝負の舞台にすら上がれない雑魚だっていうのはよく知っているからな。それに、そいつがどうなろうと俺は知ったこっちゃないしな」
脅迫のために送られてきたビデオでも中原みなみへのメッセージはあったが、六道軍星いや、白夜へのメッセージは一切なかった。
鈴木純がその存在を知らなかったためと言われればそれまでだが、中原みなみに対して「自身の命を諦める」ような発言を行っていた。
そのことより、「もはや人質としての価値は無い」というのは明白である。
人質というものは「取られていると困る」から成立するものであり、その価値がなくなった場合はただの重荷と化す。
すなわち、この白夜の提案は100%混ざりっ気のない誠意からなされたものである。
だが、一色清美にその意図は届かない。
「……くッ、わかったわよ。その代わり、対戦が終わるまで帰らせないから」
「お前は何を言ってるんだ?」
「……はぁ? なに、軍星。アンタ頭の中におが屑詰めてカブトムシでも飼ってんの? 私たちとあんたが戦って、勝ったらあんたたちを解放してあげるって言ってんの!!!!!」
「破綻してるな」
一色清美という人間の愚かで、幼稚な様相が現れてくる。
論理が破綻していることにさえ気が付かない。
勝負に勝ったら人質を解放するというのならばわかる。だが、白夜の煽りに屈し、人質となった鈴木純をすでに開放している。(余談だが、中原みなみの巨乳に顔をうずめて幸せそうな顔をしている)
つまり、この時点で白夜たちは戦う理由が無い。
あとはドライブがてら帰るだけである。
「だ・か・らぁ~!!! 軍星が私たちに勝ったら、人質を解放するって言ってんのッ!! わかる!? わかれよ馬鹿!!」
「……軍星さん。いいえ、白夜? さん。 この人大丈夫ですか?」
「ダメだろ」
単純明快にして、誰にでもわかる評価。
それくらい、一色清美は狂っているといえる。
人質に価値がなくなったからとしては異常ともいえる様相。
「清美さん。少し落ち着いてはいかがですか? その調子では、軍星様に失礼ですよ」
「字美ねぇさん!!!!! だって、軍星が!!!!! 軍星が!!!!!!! 女と!!!! しかも、あの爆乳クソビ。チと!!」
「清美さん。あの展覧会で分かっていたことでしょう? 軍星様はこの金髪メスガキに騙されているって事。その目を醒まさせるのが私たちの役目でしょ?」
その自分勝手な思想。
しかし、それが以前に中原みなみが推測したことが正鵠を射ていることの証左である。
一色清美は「幼稚」である。
そして、「幼稚」であるがゆえに好意を表すことが出来ない。
そう考えると、この醜態も説明がつく。
ギラツク目で中原みなみを睨みつける一色姉妹。
今、逃げることは簡単であろう。
しかし、今後同じことが起こらないとは言い切れない。
ゆえに、白夜は決断する。
「はぁ、ラチがあかねぇな。おい、一色、仕方ないから勝負してやる。それで満足だろ」
「軍星さん、本当にいいんですか?」
「みなみ、俺がこんなのに負けると思ってんのか? ……可能性があるとすればイカサマだけどな」
そして、白夜は、軍星は、一色姉妹に対して宣言する。
「俺は、俺の命と自由をかける。もし、俺が負けた時は、俺の人権を捨てる。お前たのあやつり人形として死ぬまで生きてやる。俺が勝った時は、お前ら、二度と俺の前に現れるな。それでいいなら勝負を受けてやる」
「……ぐんせい~、いいわよ。受けましょう。字美ねぇさんもいいですよね!?」
「清美さん、いいでしょう。そして、軍星様は二人で共有ね」
一見すると、煽情的なシスター服を着た姉妹。
だが、狂っているとこれほど醜悪に見えるものもないだろう。
「対局は、東風8回。25000点持ち30000点返し。役満祝儀やチップは無し。 ……まぁ、要するに公式ルールだ。いいな?」
今、漢の誇りを取り戻すための対局が始まる。
恐れ入りますが、本小説の評価をお願いいたします。




