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東2局7本場:過去

 軍星さんは……震えていた。

 自らの過去を、後悔を、そして――弱さを。

 そのすべてをさらけ出し、守るものが無くなった裸の心。

 容易に傷がついてしまうような敏感な心。


「……軍星さん。私は昔、軍星さんに助けられたことがあるんです」

「……あの日の雀荘か?」


 私は軍星さんの身体を抱きしめて耳元でささやく。


「違います。私は()()()()()()()()、軍星さんに会いたくて、お礼を言いたくて、そして……その、彼女にして欲しくて探していたんです。覚えてないですか? 中原鉄工製作所社長、中原鉄也(てつや)のこと」

「……中原社長? しっかりとは覚えていないが、確かヤバいところから金を借りて俺が麻雀で支払ったんだったな」

「……その時に一人娘がそのヤバいヤツラに拉致されたのを知っていますよね?」

「……居たな。すごく長い黒髪が綺麗な娘が」

「もし、その一人娘が髪の毛を金色に染めて、軍星さんの目の前にいるとしたらどうしますか?」


 軍星さんから身体を離し、その目を見つめる。

 明らかに思考を放棄している目をしていた。

 だから私は、家でしか使わない眼鏡を取りだしかける。昔は度が入っていたが、今は度を抜いてただの伊達メガネとして使っている。そして、黒髪のカツラを取り出してかぶる。

 1秒、2秒、3秒。

 時間にして10秒は経っただろうか?


「え、マジ?」

「マジです」


 あまりにもびっくりしたらしく、いつものワザと言い淀むようにする話し方すら忘れて素の反応をする軍星さん。

 人間って驚くと単純な反応しかできなくなるものなんだなぁ……。


■□■□


 お父様は最悪です。

 お父様の会社は不景気の波を受けて、倒産まで秒読みになっております。

 そんな中で、働いてくださっている従業員の皆様へのお給金を支払うために、銀行からの融資や借金を受けています。

 それでも足りず、裏家業の方々からの借金も多数。

 もう、会社を潰してしまったほうがいいのではないでしょうか?

 そう思っていたある日のことでした。


「じゃあ、社長さん。この借用書の通り、娘さんは担保としていただいていきますね。さぁ、こいやっ!! このメスガキがっ!!」


 私は父に借金のカタとして売られました。

 そして、その方々の「事務所」に連れていかれます。

 下卑た笑みを浮かべながら「ビデオ」とか、「内臓」とか言っているのが聞こえてきます。

 これから私はどうなるのでしょうか?

 そんな心配をしていた時でした。


「まぁ、待ちなよおじさん。その子じゃ大して稼げないでしょ。どうです? 俺がその子の負債被るんで、麻雀しませんか? それで俺が勝ったらチャラ。負けたら……そうですね、5倍支払うのでこの子を貰うっていうのは?」


 髪の毛をピッシっという音が聞こえてきそうなくらいにきちんとオールバックに固めて、黒のカッターシャツに紺色のアイロンがきちんと効いたスーツを着た25歳くらい? の男性が裏家業の方々の一番偉そうな人に提案しています。

 ともすれば「軽い」という印象を受けてしまいますが、その言葉の端々からあふれ出す自信。それはまるで「俺が負けるわけないんだよ」という気概。そして、その態度を取れるだけの実力という名の根拠。それが明確にオーラのように見えます。


「大丈夫。俺は負けないから」


 それが私と軍星さんの出会いでした。


□■□■


「……で、軍星さんが勝った後で、私が『彼女にしてください』って言ったら、『ギャルっぽい子のほうが好みだからごめんね』って言われたのでこうして髪の毛を染めて、言葉遣いとかも気を使っていたんですよ?」

「………………マジかよ」

「もう一回言います。マジです」


 軍星さんが頭を抱えている。

 なので、ワザと追撃をかけてみる。


「こうやって、好きな人に好かれるように頑張ったんですよ」

「……適当なこと言うんじゃなかった」


 ……は?


「……適当だったんですか?」


 ヤベッっという顔をする軍星さん。


「ひどーい、私のことは遊びだったんですかー!!」

「……だって、仕方ないだろ。当時は舞と付き合ってたし、一色に絡まれてイライラしてたし、こんなクズみたいな生活している男に良いとこのお嬢さんを巻き込むわけにいかないって思ったんだからっ!!」


 逆ギレする軍星さん。


「軍星さんの言い分は分かりました。 ……()()()()っ! 言い訳なんてして良いわけっ!? 乙女の純情を弄んだ責任をとりなさーい!!」


 私は軍星さんを押し倒す。

 そして、思わず二人で笑い合う。


「……なんだ、そんな前から俺たちは出会ってたのか」

恐れ入りますが、作品の評価をよろしくお願いいたします。

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