東2局4本場:飛蹴
「ここが白夜さんの家ね……」
白夜さん、六道軍星を返してもらいに来ました。
茂索さんのメモに書かれた住所。その一軒家は庭草が荒れ放題になっている。
おそらく、数か月。いや、数年単位で手入れがされていないと思われる。
チャイムを鳴らしてみるも反応が無い。この感じだと、壊れているんじゃないか……と思う。
(そうだ、リビングのほうから中を覗ければ……)
半ば壊れて、いやな音を立てる門扉を押し開き侵入を試みる。
リビングの窓には厚手のカーテンがかけられているが、わずかに隙間が空いている。
そこから覗いた景色は、常軌を逸していた。
リビングの床一面に散らばる――札束。
100万円の帯封が見える限りでも10や20ではない。無数に散らばっている。
そして、部屋の一角に備えられた仏壇に白夜さん――軍星さん――は座っていた。
「びゃくやさーん! あなたの彼女が来ましたよー!」
仏壇に女性の写真が飾られているのが見える。
おそらく、あの人が白夜さんの彼女であった白崎舞さんだろう。
だから、ワザと私は白夜さんが一番聞きたくないであろう「彼女」という言葉を使って呼びかける。
「……お前は、俺の彼女ではない。俺の彼女は舞だけだ」
幽鬼。
今の白夜さんを例えるのであれば、その言葉が一番適切であろう。
人間というのは、丸一日でここまでやつれることが出来るのか……。
いつものくたびれたスーツではなく私と「最後のデート」に行った時の格好のままではあったが、無精ひげが浮かんでいて目が真っ赤に充血している。
徹夜をしたのか寝られなかったのかはわからないが、その充血した目の下にはクマが浮かんでいる。
そんな状態の白夜さんが、窓際までやってきてカーテンを開け放つ。
「……あんまりふざけたことを言っていると、女として生まれてきたことを後悔するくらいにぐちゃぐちゃにしてやる」
白夜さんはワザと私に嫌われるようなことを言おうとしている。
やはり、白夜さんは優しい。
「なら、ここを開けてもらえますか? 私のことを酷い目にあわせたいなら、中に入れなきゃ無理ですよね?」
私の指摘で押し黙る白夜さん。
今の白夜さんになら、口げんかで負ける気がしない。
「……嫌だね。帰れ。俺は、お前のことが嫌いだ」
「私は好きですよ。白夜さん」
「……口だけなら、なんとでも言えるよな。どうせ、口だけだろ? お前ごときが、お前程度の10数年しか生きていないようなガキが好きだの嫌いだのうるせーんだよ!! 俺は、もう、うんざりなんだよっ!!! この手の中から、命がっ!!!! 命が零れ落ちていくのをっ! ただ見ていることしかできないのは!!!!!」
もし、純ちゃんだったらどうするだろう。
私が、今の白夜さんみたいに自分の中に閉じこもって人のいう事を一切聞かない。
そういう状態になったら、純ちゃんならきっとこうする。
「だったらっ! 今度こそ、助けてみなさいっ六道軍星ッ!! 私は、ただ守られるだけの女じゃないっ!!! 私は、あなたの隣に立ちたい!!!! 立って、一緒に歩きたい!!!!!」
私はそう絶叫すると、数歩下がり走り出す。
リビングのガラスに向かって。
日曜日の朝9時から放送している特撮番組でも意外とやらないドロップキック。
砕け散るガラスと共に、私の身体は白夜さんの家の中に飛び込む。
「……負けたよ。中原」
恐れ入りますが、作品の評価をお願いいたします。




