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東2局3本場:幼稚

「いいか、一色清美(いっしききよみ)は危険な女だ。そして、姉である一色字美(いっしきあざみ)も危険だ」


 茂索(しげさく)さんの会社。その会議室に通されて、出されたようかんとお茶に手を付けながら話を聞く。


「……実際にお会いした関係で、わかりました。なんなんですか、この世の闇を濃縮したような女の人は」

「……恥ずかしながら、ワシの元部下じゃ。そして、白崎(しらさき)と白夜。いや、軍星のことを取り合っていた。軍星は白崎を選んだが、それと前後して一色清美は姿を消した。そして、再びワシらの前に姿を現した時には」

「ああなっていたってわけですか」

「……嬢ちゃん驚かないんだな? 白夜、いや軍星のことが好きだったなんて」


 茂索さんのその指摘は間違っている。


「……茂索さん、『好きだった』じゃないです。多分、まだ『好き』なんだと思います」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔の見本として辞書に乗せたら、用例と用法が一発で分かるような顔になる茂索さん。


「……いや、嬢ちゃんいくら何でもそれは無いだろ」

「何か、話しをしていて恐怖と同時に、『幼稚さ』というものを感じたんですよ。それがまた、私の中で恐怖心になったんですけど……」


 まるで小学生が好きな女の子に、ワザと意地悪をするような幼稚さ。

 それが、大人になって薄汚い欲望と結びつき、醜悪な色に染まってしまったような幼稚さ。

 要するに、子どものまま精神的な成長をしないまま大人になってしまったような幼稚さ。


「……確かに、嬢ちゃんのいう事が正しいような気がしてきた。一色はとある宗教の教祖一家。その長女と次女。確かに、望めばなんでも手に入ってきたような人間じゃろう」

「でも、その時初めて手に入れることが出来ないモノ。いや、人が出てきたとしたら」

「……白崎(しらさき)を排除すれば手に入れられるに違いないって考えたっていうわけか。 ……筋は通るな。 ……通ってしまうのか」


 茂索さんは顎に手を当て、ぶつぶつ言いながら何か考えている。

 その間に、私は自分なりに情報を整理してみる。

 まず、白夜さん。いや、わかりやすく本名の軍星さんとして考えよう

 軍星さんは茂索さんの会社に居た。

 そこで、白崎舞さんと一色清美に出会った。

 二人から取り合いをされた結果、白崎舞さんを選んだ。

 それに対して幼稚な恨みを持った一色清美は会社を辞めた。

 再び再会したときには、軍星さんたちの敵になっていた。

 おそらくこんなところであろう。


「……嬢ちゃん、一つ聞きたいことがある。白夜は白崎舞がいなかったとして、一色清美のことを選んだと思うか?」


 私は白崎舞さんのことはよく知らない。

 一色清美も一度会っただけで、その幼稚さと気持ち悪さは感じたが、実態はよくわからない。

 でも、これは確実に確信をもって言い切ることはできる。


「いいえ、白夜さんは絶対に一色清美は選ばないと思います」

「なら質問を変えよう。白夜は、お前と白崎だったらどっちを選ぶと思う?」


 茂索さんは真剣な目で私に問いかける。

 それは覚悟を試すような。

 それは根性を試すような。

 そして、それは六道軍星という男にふさわしい女かどうかを試すかのような――目。

 私の答えはたった一つしかない。


「わかりません。そんなことは白夜さんの心の中のことなので。でも、私は選んでもらえるように頑張るだけです」


 茂索さんは目を伏せる。

 そして、顔をあげた時には……。


「やはり、一色清美とお前は違うか。一色は似たような質問をしたときに『もちろん私。邪魔するものは排除します。たとえ茂索さんでも』って言っていた。じゃから、お前を試した。もし、嬢ちゃんが一色と同じような答えをしたら、嬢ちゃんを魚の餌にするつもりじゃった」


 そういって、笑った。

 そして、私に一枚のメモ用紙を手渡す。


「白夜の今住んでいる家の住所じゃ。あいつは、白崎舞を助けられなかった後悔から、二度と大切な人をつくらないと言っている。じゃが、ワシはそんなものは幼稚な考えじゃと思っておる。嬢ちゃんなら、いや、嬢ちゃんにしか白夜を六道軍星に立ち直らせることが出来る人間はいないと確信した」


 茂索さんは、お茶を一口飲み息を整える。


「一人でいることで得る強さもあるとは思うが、そんなものは本当の強さではない。嬢ちゃん、ワシが許す。ぶん殴ってでも蹴っ飛ばしてでも、幼稚な考えに囚われている白夜の目を醒まさせて、六道軍星として甦らせろ」


 その真剣な口調に対して私はただ、


「はい」


 とだけ答えた。

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