東2局1本場:悪意
「白夜さん大丈夫かな?」
滝のような汗をかきながら、白夜さんはトイレへと向かっていった。
多分、トイレに行くっていうのは口実で私から逃げたかったんだろう。
昨日、茂索さんから「白夜を、いや軍星を支えてほしい」ってメッセージが届いた。
白夜さんが負った心の傷は、簡単に治ることはないだろう。
だから、支えてやってくれと言われた。
「……そこのお嬢さん、何かお悩みかな? もしよろしければ、お話くらいは聞いて差し上げますよ。それが、私の信じる神の御意思ですから」
ふと気が付くと、そこには修道服を来た美女が座っていた。
胸はそこまで大きくないけど、純ちゃんよりはある。
(いつ、この人って私の隣に座ったの?)
いくら白夜さんのことで気がそぞろになっていたとはいえ、純ちゃんが胸を揉もうとしてくるのを避けようとすることで身についた気配の察知。
それが、まったく機能しなかった。
ましてや、完全に初めて出会う人間に対して。
だから、私は。
わざと当たり障りのない話をすることにした。
「……えぇ、少し太ってしまいまして。どうやったら痩せられるかなって考えてたんですよ」
「ふふっ、まぁ、女性の悩みなんて、大体は体格ですよね。でも、大丈夫ですよ。――軍星はそんなの気にしないから」
ヤバい。
席を立とうとするが、いつの間にか腕を掴まれて立てない。
「そんなに、ビビらないで、ガールズトークしましょうよ? おなじ男に対して、特別な感情を持っている同士」
「あんたっ! がっ! 一色清美っ!!」
ダメだ、逃げられない。
逃げたところで、おそらく私のことを知っている。
白夜さんが言っていた通りとしたら、白夜さんを苦しめるために私に手を出してきてもおかしくはない。
油断していた。
大好きな人とデートが出来ると思って浮かれていた。
「ほら、軍星って、苦しむ顔が可愛いのよ。あの苦痛に歪んだ顔。 ……想像するだけで、濡れてきちゃう」
この女はヤバい。
私だって白夜さんの写真をベットに貼って、朝一番に挨拶をして、夜寝る前に挨拶をしてってやっていて、自分としても気持ち悪いよなとは思っている。
でも、この女は違う。
私とベクトルが違う。
異常者
危険だ。
逃げなくちゃ。
焦る。
喉が渇いてひりひりする。
汗が止まらない。
「あなたを痛めつけたら、軍星のかわいい顔、見られるかしら? あの時みたいに」
「あ、あのときって……」
「あら、軍星から聞いていないかしら? 汚らわしいメス豚の事。美しい軍星を汚した豚を駆除して、美しさを取り戻してあげたのぉ~! もともと美しかったのに、まるで水晶のように綺麗になったわぁ~!」
ダメだ、気持ち悪い。
こんな女を白夜さんと、舞さん、茂索さんたちは相手にしていたっていうの?
「ほら、好きな人には苦しんでもらいたいじゃない? そして、その苦痛が、その人を輝かせるのよぉ~!」
「……あなたは、間違ってる」
かすれた声で、私は呟く。
「はぁ?」
一切の感情がこもっていない目で私のことを見る。
「……好きな人には、幸せになってほしいものじゃないですか」
「あんた、意味わかんないんだけど。あんまり変なこと言ってると、消えてもらうわよ?」
深淵のような冷たい目。
感情が読みとれない。
だけど、私はその目を見つめ返す。
その闇から、何かを読み取ろうとして……。
「……その女から離れろ、一色清美っ!!」
白夜さんが叫ぶ。
顔色は良くないが、体調は少し戻ったみたいだ。よかった。
「あぁ、軍星。私の水晶……」
「……逃げるぞ、中原っ!!」
白夜さんの叫び声。
その声で、私の手がいつの間にか一色清美から離されていたことに気が付く。
この程度のことも気が付かないほど、平静を装っていたけど相当ビビっていたみたいだ……。
そして、私たちは恍惚な表情を浮かべた一色清美を残し、「麻雀の歴史展」の会場を後にした。
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