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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第17章 愛は流れない
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17-2 2体の怪物


 チェザレアを捕食した『ガル=ディ』は、次いでルジェ達を無視してファーマーン軍と共和国軍の戦場へと向かう。

 

 両軍とも、既に『ガル=ディ』を目視していたが、一度始まった戦闘は直ぐに収拾できるものではない。

 

 前線では今だ激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

「な、何だあれは……!?」


 チェザレアの連絡を受け、ガイアスを一個連隊に襲撃させた共和国第一師団司令クニーヒも、その怪物に対しては何の知識もなかった。


「ま、魔神、魔神だッ!!」

 

 ファーマーン軍を率いていたのは、アル=サイードの個人的側近であったが、アナーリの即位まで隠遁生活を送っていたウッディーン。

 

 彼の方が、今の状況を素早く理解した。

 

権威者スルターナの作戦は、恐らく成功したのだろう。後は奴を倒すだけだ。共和国軍に休戦の使いを送れ!!」


 しかし、軍使が共和国第一師団司令部にたどり着くより早く、怪物は戦場上空に到達していた。

 

「こ、この世の終わりだ……」


 先ほどまで勇ましく戦っていた両軍の兵士達は、その姿を見上げるなりに潰走し始める。

 

 その逃げていく兵士を、『ガル=ディ』は大量の鳥の首を伸ばし、次々と捕食していった。

 

「逃げるな、踏みとどまって戦えッ!!」

 

 一部の士官はなおも兵士達を督戦するが、

 

「にげ……ひ、ひああああああッ!!!」


 鷹の顔についばまれ、肉を引き裂かれて無残な最期を遂げる。

 

 

 クニーヒは必死で砲兵を説得し、それを撃つ様に言うが、

 

「駄目です、あの高度に飛ばれてはとても大砲では届きませんッ」


「駄目で元々だ、脅しにはなるッ!!兎に角奴を兵士達の上空から離せッ!!」


 抗議する砲兵たち。

 

 それでも何門かは弾を発射するが……

 

「ぎゃあああああッ!!」


 逃亡する兵士達に命中する有様だった。当然、『ガル=ディ』の本体のいる高度、上空100メーほどには届きよう筈もない。

 

 そもそも照準を合わせる手段が彼等には無かった。

 

「馬鹿な……」


 クニーヒは、唖然としたまま、その空の怪物を見上げる。

 

 ファーマーン軍からの魔法が、何発か尾を引く花火の様に命中したように見える……が、それは『ガル=ディ』をエスティールにつなぎとめる、強烈な術式の前にマナを吸われ、被弾前に消散していた。

 

 『ガル=ディ』は魔法の来た方向に、鴨やら梟やら、大量の首を飛ばして応戦する。命を奪われる者の悲鳴が一帯に轟いた。

 

 

 ……彼等は、ただ望んだ。英雄の到来。全てを任せられる存在の到来を。

 

 

「魔神殺しのルジェ……奴なら、何とかできないか……?」


 クニーヒは、今その場に、チェザレアの傍にいる筈の男の名を答える。

 

 

 期待をかけられた青髪の青年は、項垂れたままだった。

 

 彼の目の前で、彼が先ほど放り投げた『*虚無ニヒル*の欠片』は、彼自身の命より大切だと彼が思っていたものを奪い去った、ルジェはそう思っていたから。

 

「ルジェ君、立ちなさい」


 黒髪の乙女、先ほどまで衝突し合っていた万軍の内一方の主は、冷たさと暖かさ両方を込めた口調で彼に呼びかける。

 

「……先ほどあなたは『名も無き魂たちの復讐』と言いましたね。……セトによって用意されたあなたの運命に、あなた自身とお嬢様もようやく気付かれたのですね」


「アナーリさんも、それの事を知っていたのか」


「あの夜、……私があなたを止める為、槍をあなたの胸に突き立てた後に彼から打ち明けられました。分かりますか?あの時私は、あなたを殺すつもりだったんですよ?」


 あの時、アナーリは絶対の自身を持って、ルジェの心臓を狙った……だけど、外したのだ。

 

 只の田舎上がりの一青年に、そんなことが出来るはずがない。

 

「さあ、立ちなさい。『名も無き魂たち』はここであなたに朽ちることを許しはしません。……だから、それを、『*虚無ニヒル*の欠片』を、立って取りなさい」


「……それじゃあ、呪いじゃないか……」

 

「あなたはそれを手に取った時から呪われたのです。幾千幾万の血を吸う定めを『*虚無ニヒル*』と共有したのです。……例えその運命をあなたと共有しようとしたお嬢様が亡くなろうと、もう、後戻りは出来ません」

 

 ……ルジェは、立ち上がった。

 

 そのまま、『*虚無ニヒル*の欠片』を手に取る。

 

 眼前には、冥府もかくやと呼ぶべき光景が広がっていた。魔神はとどまることなく、両軍兵士達を一方的に虐殺している。

 

「……俺の居場所は、もうあそこにしか無いんだな」


「私がついています。だから、」


「……あなたはこの剣が怖くないのか。……あなたの父、アル=サイードの血を吸った剣だぞ」


 その言葉を聞くと、さしものアナーリも少し目を細める。

 

「怖いですよ……だから、あなたにしかそれは持てません。あなたしか使えないのです。『*虚無ニヒル*の欠片』の力は」


「……それじゃあ、仕方ないな。行こう、アナーリさん。幾万の屍の上にある、その道を」


 ルジェは、笑顔を見せた。……うつろな、笑顔を。


「……はい」


 二人と、僅かな供回りはそこへ向かって走り始めた。

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