17-3 解放軍司令奮闘す
戦場から次々と潰走していく兵士達。最早ウッディーン、クニーヒ両将にもそれを差し止めることが出来ない。
しかしいまこの場に来た、一人の青髪の青年には、それが出来るのだ。
「権威者アナンタより命じられた我『解放軍指揮官』ルジェーロ=ドミットル・デ=マィオーニが汝らに命じる。敗走をやめろ!!」
ルジェは、アナーリと共に再び真正面から『ガル=ディ』と相対した。その姿を見て、兵士達の一部が覚悟を決める。
「おい、魔神殺しのルジェだぞ」
「というかあの隣にいるのって……まさか、権威者本人!?」
「ど、どうする」
「どうするったって、言う通りにしなきゃダメだろ。俺たちがここで退いてどうする」
彼と権威者の参戦によって、両軍はどうにか全軍潰走を食い止めた。
「あれが、精霊宮の攻防で活躍した突撃のルジェか……」
ウッディーンも若き英雄の到来を歓迎し、
「権威者、全軍の指揮権をあなたと彼に返却します。そして……」
その傍らに、クニーヒも到着した。
「私も残存戦力を彼らに預けよう。権威者、どうかご指示を」
合流を果たした両軍に、再び『ガル=ディ』の首が襲い掛かる。
「撃て!」
ルジェの号令が飛ぶ。両軍の最前列の兵士が、銃を発射して首を叩き落していく。
思わぬ痛手を被った『ガル=ディ』の攻撃が一旦止むも、しかし、上空にいる本体には手出しが出来ない。
「アナーリさん。大砲の弾に呪文をかけることは可能か?」
「……呪文を?」
ルジェは以前、チェザレアから見せてもらった彼女の父ヴァシリーの形見の腕輪、クーデター派からの逃亡の決め手になったそれを思い出した。
……いや、万骨達が正解を思い出させたというのが正しい。
「……チェザレアの腕輪には風魔法A・フェザーの魔法と風魔法B・クイックの魔法を組み合わせた高速飛翔の魔法が込められていた。同じように大砲の弾を、宙に打ち上げられないか?」
「……やってみましょう。最前線の指揮は任せます」
「分かった」
そのままアナーリは一旦司令部(と言っても『ガル=ディ』と戦っている最前線から200mも離れていないが)へ後退し、
「神官団に権威者として命ず。風精魔法に長ける者を集めよ」
従軍してきた神官たちは5日間戦争の際にアスウァンを陥落させられた事で、今だアナーリに敵意を持つ者が多い。
あえて権威者は直卒することで、彼らからの忠誠を試そうとしていた。
やがて10名ほどの神官が集まり、アナーリは彼らを連れ共和国軍の砲兵陣地へと移動する。
「解放軍司令のアイデアなら、恐らくは可能です。……ただ、狙いを上手く付けられるかどうか」
砲術士官はそう言うが、
「無生物にフェザーやクィックの魔法を掛けるなど聞いたことがない。これは戒律に関わる……」
神官団は屁理屈をこねてアナーリの指示を聞こうとしない。
「なれば新しい戒律を作ればいい、急がねば味方は全滅します。的は大きい、届きさえすれば撃てば当たりますよ」
アナーリは屁理屈に屁理屈で返し、彼等を強引に納得させた。
ルジェは最前線で兵士達を率い、『ガル=ディ』と死闘を繰り広げていた。
それは今の作戦を、『ガル=ディ』に悟らせないためでもある。
次々と繰り出される頭に、短剣を突き立て続けるが、
「ルジェ、小賢しい奴め!!死ねッ!!」
『ガル=ディ』がどうやって喋っているのか、ガイアスと同じ声を発すると、
空中にインコの頭を20体程方々に伸ばし、
「GARU=DA=JIM……!KURSY、FREEZE!」
「ODO=GAM=D……!」
「BAHA=BO=DORU……!!」
一斉に呪文詠唱を始める。
「チイッ!」
本来魔神と精霊はそのものが巨大なマナの器であり、呪文を発動するのに術式を必要としない。
しかし、多数の頭、多数の脳を用いてあえて詠唱を行う事で、大量の呪文の同時発動を行うことが出来るのだ。
フリーズの魔法による氷塊とライトニングの魔法による電撃、更にはフレイムボールにストーンブラスト、
次々と襲い来る魔法が周囲に被弾し、兵士達にかなりの損害を受ける。
そして、ルジェ自身も流石に回避しきれない。ルジェの脳裏に、黒焦げになった自分が浮かぶ……
― 刹那
ルジェの見た未来は、現実のものにならなかった。呪文詠唱の為に止まった『ガル=ディ』本体に、黒い鉄球が直撃したのだ。
『ガル=ディ』によるマナ制御は狂い、ルジェにフレイムボールの魔法が直撃する前に霧散する。
「い、生きてる……」
ルジェは、万骨達の未来視が外れる可能性を初めて知った。




