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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第16章 流血の6月
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16-9 バイハラは守られた


 

― 天精の年、6月13日 10:00 バイハラ市 浄水場


 

 浄水場はバイハラ街壁の北側、北街区と南街区の境にある。同時にここは、バイハラ川の水を地下へと流す、地下運河の起点でもあった。

 

 飛空艇団接近を目視で確認したセトとカーラは近くの潜伏場所から出て、警備を行っていた憲兵二人をブランディングフラッシュの魔法で目つぶしを行った上で縛り上げ、内部に侵入する。

 

「こんな重要な施設に、警備兵が二人しかいないなんて」


「主要な部隊はガイアスと一緒に出ている。手が足りてないんだろう。」

 

 巨大な魔石に上水管がとぐろを巻くように配置された浄化、送水システムが二人の眼前に現れた。

 

「……どうして、此処なんです?セトさん」


「まあ見てて」


 セトは奥の部屋、閂の施された重厚な制御室への入口扉の前に立つと…

 

「『ラ・シューラ・セト』……」


 閂がひとりでに抜ける。

 

「良かった、3月の時点で裏コードをオクシアナ先生とセットしておいたが、解除されていなかったようだね」


 ……制御室に入ると、無機質な石レンガで出来た4平方mメーほどの狭い部屋に、レバーの並んだ制御盤が置かれていた。

 

「『ラ・ビクタ・セト』……」


 セトが力ある言葉を放つと、レバーがガチャガチャとリズミカルに音を立てながら、ひとりでに動き出す。

 

「な、何が始まるのかな?」


 目の前で上水道管の形がどんどん変わっていく姿に、カーラはどこかときめいていた。

 

「こ、これは……大砲?」

 

 

 

 勿論、単なる放水で飛空艇が撃墜できる訳ではない。機械的な照準システムで高速で動く飛行艇に命中させるのも至難の業だ。

 

 しかし……

 

「照準システムにマナ供給。『弾薬』準備」


 ここに用意された術式に通せば、直線距離20kmキロメーの射程内ならば地上から25メー以上(つまりバイハラにあるあらゆる建造物より上に)浮いた対象に命中することを『定義』することが出来る。

 

 大統領のファーマーン行とその後の5日間戦争の間に、オクシアナとセトが共同開発した対飛空艇戦用の切り札がこれであった。

 

「放水開始」


 上水道管が組変わった大砲から超高圧、超音速のウォータージェットが上空に向けて放たれる。

 

 ウォータージェットは照準システムにより、射程圏内なら空気抵抗による拡散と重力の影響を無視できた。すなわち、物理的に敵の船体を破壊、切断可能な威力を維持するのである。

 

 

 船を傾けてバイハラ市内への砲撃を開始した『バイフー』の船員は、よもやこれだけ上空(1000メー)にいて反撃が来るとは一切思っていない。

 

 彼等が被弾したことを理解する時間が、果たして与えられただろうか。

 

 ウォータージェットの砲撃を受けた『バイフー』の船体は両断、破壊され、バイハラ近郊の地上へと落着爆散した……

 

 

「ダーっ!1年かけて建造した俺たちの飛空艇がッ!!」

 

 ガルバトロも流石に口をあんぐり開ける。

 

「……チッ、どうやら手前の推測が正しかったようだぜ、クラウザー。……で、どうする?」


「見たところ固定砲台の様だな。……損害さえ無視できれば多数の飛空艇で同時爆撃するという選択肢があるが」


 クラウザーは一応、強攻する手段も提案するが、


「んな事出来るわけねーだろ」


「だな。ここまではどうやら届かないようだし、バイハラ市上空を大きく迂回、インランドシー上空にて待機する」


「『ガル=ディ』の救援には向かわねぇのか?」


「切り捨てると言っただろう。……むしろ奴と共和国軍、ファーマーン軍が食いあえば、敵も、そして味方も大ハトゥンの講和案を受け入れざるを得まい」


 講和を敵が断った場合は、カジャーン大陸中央部から主力部隊、総勢12万を上陸させファーマーン、ドゥネ=ケイス共和国双方へ侵攻を行う作戦案が浮上している。

 

 すなわち、まさしくドゥネ=ケイス戦役の再現と呼ぶべき地獄の戦場が待っているのだ。それをファーマーンとドゥネ=ケイス共和国が望むとは思えない。

 

「さて、……お手並みを拝見させてもらおうか、権威者スルターナアナンタ……恐らくは生きておろうチェザレア大統領、そして『*虚無ニヒル*の欠片』よ」




 『バイフー』の撃墜によって、バイハラ市内での暴動は完全に制御不能となった。

 

 一か所を憲兵隊が鎮圧しても、また市内のどこかで火の手が上がる状況に、最高司令官も人員も欠く憲兵隊は対処できなかったのだ。

 

 やがて様子を見ていた中央街区の一等市民たちも暴動に加わり、13日夜には憲兵司令部を含む政府施設から憲兵隊を追い出して臨時政府を形成した。


 憲兵隊は逆に追われる身となり、虐殺された隊員の死体が暴徒によって市中に引きまわされる始末。……彼等もかっては、国家市民の為に力を尽くす事を誓ったはずなのだが。




 以上の惨状は、ガイアスの耳に一応は入っていた。しかし彼は無視を貫く。

 

「分かったぞ、全てはファーマーンの陰謀だな……!糞ッ」


 確かにそれは真理だった。アナーリは昨日1日をかけて、ガイアスの暴挙に対するカウンターを仕込んでいたのだから。

 

「……なれば全てはファーマーン軍を撃破すれば解決する。軍は、軍だけは最高司令官たる私について来てくれているのだからな」


 ガイアスはファーマーン軍の撃破、明日の会戦に最後の望みを託した。

 

 

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