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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第16章 流血の6月
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16-8 流される血の意味


 

― 天精の年、6月13日朝 ガランドゥール近郊の海岸



 間一髪、であった。

 

 四方から炎が迫ってきたとき、アナーリが機転を利かせてオクシアナの部屋から持ち出した転移機を使わねば、全員焼け死ぬか酸欠で死んでいただろう。

 

「……」


 ルジェとチェザレアの気分は複雑だ。ゴドフリーの部下の憲兵隊員たちを完全に見捨てる形になってしまった。

 

「貴方がたは部下を戦略的に犠牲とすることを覚えるべきです。……それに彼等は、貴方がたと共に死ねると思って喜んで死んでいったでしょう」


「……だけど」


「貴方がたの行く道は万骨の上に舗装されています。今更数百人犠牲が追加されたところで何ですか。それよりほら、外が明るくなってきましたよ」



 寝床にしていた海岸洞窟を出て、3人は朝日を拝みつつ話し合う。海上から上がろうとしている太陽の光を、海面が反射して全てのものが茜色に染まっていた。

 

「……まるで、血の赤だな」


 月並みな感想だが、バイハラで昨日流された血の量を考えれば妥当だろう。

 

「5日間戦争でも、ファーマーンはアイラン人を退去させるために犠牲を払いました。……まだまだ、死者は増えるでしょう。貴方がたに出来るのは、その数を出来るだけ少なくすることだけです」


「……アナーリ……」


 チェザレアは、後ろめたさに髪が引かれる想いである。それは死者を多数出した為だけではない。

 

 脱出後、二人は猛烈な睡魔に襲われ、半ばそのまま寝てしまったのだ。何せ10日にあの記事が出てからほとんど寝ていない身、遂に限界が来たのだった。

 

 その後二人を洞窟に運んで寝かしつけたのは、全部アナーリがやった事なのだろう。

 

「『ハールーン』からお二人が起きる前に連絡がありました。=ドゥネ=ケイス軍所属の飛空艇団を北の空に確認したと」


「……セトが考えてあるっていう連中の足止め、何とかなるんでしょうね」


「けん制にはなるでしょう。お嬢様には不本意かも知れませんが、一旦バイハラを彼らに占領される可能性もあります」


「それは……出来れば避けたいな」


 ルジェも率直に意見を述べる。何せ、これから戦う魔神は本命、ダグに取りついていた奴とはが違うだろう。勝つとしても、軍は相応に消耗するはずだった。


「なので、一つ手を打ってあります」



― 同時刻 バイハラ南街区



 『子羊の戯れ』に一度憲兵による捜査が入ったことは、これまで国家の保護を受けてきた冒険者の宿の運営が怪しくなるという危機感を所属する冒険者たちに抱かせるに十分だった。

 

「なあマスター、連中をこのまま我が物顔で暴れさせていいものかねぇ」


 朝から少し酒の入ったリコレッタが、主人に絡む。

 

 バークス、ダグを含む、大金を得た結果として人生が狂ってしまった連中の思い出を、吐き出すかのように。

 

「……それなんだがな、実は昨日、アナーリの嬢ちゃんから依頼を出されたんだ。報酬は先払いで1000ディルハム、成功報酬でもう1000ディルハム出すと言っている」


「何だいそりゃ、……金額からして結構危ないヤマのようね」


 リコレッタにとって、アナーリの名は不吉を感じさせるに値した。バークスやダグの人生が狂ったのはあの日からだったから。

 

 それに、ファーマーンの指導者となったはずの彼女がどうしてここに依頼を出すのだ。

 

「……何々……ファーマーン軍がガイアスの支配からの『解放軍』として来ている事をバイハラ中に伝えろぉ?」


「というこった。共和国軍が総帥ガイアスの直卒で昨日夕方慌てて出撃したが、その理由がコレだ。そして奴が自分の護衛の為に人数を割いた為、今市内にいる憲兵は実はたいした人数じゃない」


「つまり……『憲兵の恐怖』というフタを、これで私らにこじ開けろという事か……」


 リコレッタは少し考える。確かにこれは危ないヤマだ。しかし、このままガイアスの支配が固定化されれば、この街に冒険者たちの居場所はなくなるだろう。

 

「良し分かった、そいつを受けるわよ」


 リコレッタは奮起すると、宿中に聴こえる声でいう。

 

「野郎共、仕事だぞ!手のすいている奴は私を手伝え!」


 

 

 アナーリは同様の依頼を、今日付けで冒険者たちに公開するようあちこちの冒険者の宿に報酬金と共に出していった。

 

 そして冒険者たちは存分に活躍した。垂れ幕を出す、大声で叫ぶ、新聞社へ殴りこむ……

 

 率先して活動した彼らの行動に、憲兵隊に対する恐怖から行動を起こせずにいた市民もいよいよ蜂起の機運が高まっていった。

 

「横暴な専制者ガイアスを倒せ!奴らは全市民を死に追いやるつもりだぞ!」


「昨日議会で虐殺があったのは新聞の通り!このまま奴ら魔神信仰派にこの街を売り渡す気だぞ!」


「ファーマーン軍は5日間戦争の恩返しをしてくれるつもりだぞ!歓待しろッ」


 憲兵隊は初動を誤ったと言えるだろう。ルジェに深い関係のある『子羊の戯れ』はともかく、他の冒険者の宿は完全にノーマークだったからだ。

 

 人手が足らず、まともな監視体制が取れておらず、そして、気付いた時には大規模な暴動が発生し手遅れになっていたのである。

 

 

― 同日10:00 バイハラ近海上空 飛空艇団旗艦『ファンロン』甲板上

 

 

 =ドゥネ=ケイス飛空艇団はファンロン級飛行艇12隻からなる魔神信仰派の最精鋭である。

 

 気嚢浮力・フェザー魔法の魔法陣化によるマナ浮力併用型、全長500メーのファンロン級飛行艇は、ガレオン船そのままの船体からマストを取り払い、代わりに策具を通して船体と同じ長さの気嚢で持ち上げられた形となっている。

 

 気嚢内の空気は火属性の魔法で常に温められ、体積以上に大きな浮力を発生させていた。推進力として風の魔法を利用したマナジェットエンジンを2基搭載。

 

 更には死霊術ネクロマンシーを利用した霊話機が各艦に設置され、リアルタイムでの相互通話が可能。

 

 あらゆる意味で、当時の魔法技術の粋を集めた巨艦であった。

 

「市街地にて暴動発生の様子ありとの見張りからの報告があった。……やはり、『ガル=ディ』は市街の掌握に失敗したと見える。奴を呼び出せ!」


 クラウザーの指示が飛び、甲板要員が霊話機を起動させ、甲板上に『ガル=ディ』の生霊が現れる。

 

「『ガル=ディ』応答せよ、こちら飛空艇団旗艦『ファンロン』、こちらはバイハラ近海まで到達した、そちらの位置を伝えよ」


「……現在、接近中のファーマーン軍との応戦の為出撃中、現在バイハラより10kmキロメー西の地点。もう20kmキロメー先で会敵する予定」


 その報告を聞いて、クラウザーは危機感を募らせた。

 

「『ファンロン』より訪ねる。ファーマーン軍は国境を超えたのか!?」


「こちらガイアス。彼等は既に国境を超えて進撃中。今朝の伝令からの情報だと既にガランドゥールへ接近していると」


 ファーマーン軍が国境を超えた事で、大ハトゥンの当初の戦略の前提は一つ崩れた。しかしバイハラの暴動を放置しては……


「……バイハラへ退却せよ。バイハラで暴動が発生している、それを先に抑え込め」


「……暴動程度なら残してきた憲兵隊だけで何とかなる。それにチェザレア、ルジェ両名を含む主要な危険人物は処理した。そんな事よりファーマーン軍の対処が先だ。何より、そこまで来ているのなら暴動鎮圧を飛空艇団が援護してもいいのではないか?」


 クラウザーとしては舌打ちを禁じ得ない。何とかなっていないから暴動が発生しているのが目視で確認出来るのだろう。そして『処理した』というあいまいな言い回しも気になる。その二人はまだ生きているのではないか?


「……良かろう。これにて通信を切る」


 ……『ガル=ディ』にもう何を言っても無駄な事が分かった。

 

「おいクラウザー、奴を見捨てるのか?」


 飛空艇団の指揮官、海覇王ガルバトロ……彼も魔戦士インカナティオによる複製体だが……は、クラウザーに詰問する。

 

「大ハトゥンのお考えはバイハラ・ファーマーン側との講和だ。……それに邪魔な者は『ガル=ディ』でも切り捨てる」


 クラウザーとしても、自身の策略が『ガル=ディ』に台無しにされ、大ハトゥンにちゃぶ台を返され悔しいのだ。しかし、命令は命令である。

 

「それにしても、バイハラの暴動を捨て置くわけにもいかんだろ」


「……あの状況である以上、有効な対空手段が暴徒側の手に落ちている可能性がある。混乱期の我が国からバイハラに渡った者の中に、オクシアナ女史を始めとする技術的天才がいたのを忘れたか?」


「にしたってなぁ……講和するにしろせめてバイハラを切り取りたいだろ、ええ?1隻ちょっと、威圧に回してみてそれで判断すっか」


 ガルバトロは、飛空艇団の中から1隻、『パイフー』にバイハラ上空へ接近し、威圧行動を行う事を指示した。

 

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