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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第16章 流血の6月
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16-7 ファーマーンからの手



 信じられない、という顔と動揺がルジェ、チェザレア、そして彼女を見たことがある憲兵隊員に広がる。

 

 ルジェ達に救出確保された身のチェザレアはともかく、普通こんなところに国家の最高権力者が護衛なしでいることなどあってはならなかった。

 

「た、確かに……『ハールーン』は今日入港している筈だけど……」


 チェザレアも驚く。

 

「抜け出してきました。大丈夫、計画に既に組み込まれていたことです。憲兵隊の暴走は流石に予定外でしたが……」


 アナーリは平然と答えた。声には強い自信が感じられるようにルジェには思える。

 

「……そ、それで、奴らをバイハラからおびき出す手ってなんだよ、アナーリさん」


「お嬢様、ルジェ君、今国境の情報は入ってきていますか?」


 アナーリの言葉に、首を振る二人。そもそも二人はここ数日国家的な情報を知りえない立場だった。

 

「それはいけませんね。……現在、ファーマーンは2個師団を国境へ展開中です」


「ちょっと、待ちなさいアナーリ!まさか私が弾劾された場合軍事侵攻するつもりだったわけ!?流石にそれは……」


 チェザレアが顔を真緑にして言うが、アナーリは平然と答える。

 

「ですよ。……そして、憲兵隊の暴走によりそれは現実のものとなりつつあります。ところで、今共和国軍は貴方がたの待命中です」


 アナーリがそう言って、盾の裏から取り出したのは、あの羽飾り型通信機だった。

 

「わ、私の……そ、それをどうやって?」


「今回の騒乱の中で、憲兵隊は後方がかなりお留守になっておりまして……司令部から盗み出してまいりました。彼等の意図は既に直接確認済みです」


 チェザレアはそれを受け取る。

 

「今日中に、ファーマーン軍は国境を超え共和国領へと侵攻します。大統領代行としては、反撃を指示せざるを得ないでしょう……そこで、」


「今通信機を使って指示してください。『大統領代行の指示に従って従軍せよ、但し、代行本人の直卒を要求するべし』と」


 アナーリは具体的な作戦を既に立案済みだった。


「つまり、ガイアスの奴を戦場におびき出して、そこを奇襲する……」


「劣勢に陥ったことを悟れば、彼は魔神の本性を現すでしょう。ファーマーン、共和国軍の総力を上げて彼を倒します」


「奇襲部隊の人選を勧めておくわ。貴女自身も使って大丈夫?」


「勿論です。アナーリとして従軍しましょう」


 仮にも国家元首が平然と答えることではない。

 

「……一つ気がかりなのは、魔神信仰派が援軍を送らないかという事よ、例の飛空艇、もう完成しているんでしょ?」


「……それに関しては、セトが対処するための作戦を考えています」


 そういうアナーリの盾の裏には、もう一つ、大きな魔石が煌めいていた。




 セトはカーラを連れ、ひそかに街壁の内部に設けられた隠し部屋に潜んでいた。

 

「ねえセトさん……怖いよ、この街で何が始まろうとしているの?」


 間一髪だった。『子羊の戯れ』に憲兵隊員が入る寸前に、セトはカーラを連れて逃げることが出来た。

 

「……粛清だよ。ここに隠れなきゃ、君もやられていた」


「どうしてあの人たちは、そんなひどいこと出来るの?議事堂で何が起きたか、セトさんも聞いたでしょ!?」


 議員大量処刑の話は、既にバイハラ中へ出回っていた。


「……もう傀儡と化しているのさ、ガイアス、いや魔神のさ」


 淡々と答えるセトだが、その声からは確かな怒りの成分がにじみ出る。

 

「普通の人間が魔神へ魂を売る事は、僕は決して許せない……」

 

 先ほど顔を出したアナーリの話では、既にオクシアナ先生が手にかかったという。奴らは破壊者だ、あらゆるモノの。

 

 自身の内にそれが存在しているからこそ、セトには分かる。

 

「アナーリはファーマーン軍を動かして、彼等に一泡吹かせるつもりらしい。……その後背を、僕に守ってほしいらしいんだ」


「守るって、……何から、何を、どうやって?」


 カーラはきょとんとする。


「敵が呼ぶ可能性のある飛空艇から、バイハラの街をだよ。……手段は、この外壁を伝った所、浄水場にある」


「浄水場に?」


 

 

 一方、ガイアスは手をこまねいていた。

 

 彼が議員を処刑させている内に地下運河でその辺の木片や廃材で構築されたバリケードは、かなり多重に渡るものだった。

 

 運河の全ての出口を封鎖したものの、一か所に配置する人員がまるで足りない。

 

「……穴倉に隠れているのはハッキリしているのだ、何なら燃やしてしまえ。そうすれば、奴らも酸欠で出てこざるを得まい」


 ガイアスの指示により、全方位から一斉に炎魔法で燃やすことが決定した。

 

「閣下!国境を警備していた機動憲兵第一群より連絡!ファーマーン軍が国境を超えました!」


「何……奴ら使節団の命が惜しくないのか。よし、海軍に連絡し、『ハールーン』を撃沈あるいは拿捕せよと伝えよ。また第一師団へ連絡。かねてからの防衛計画に従い出戦せよと」


 ガイアスの対応は、明らかに場当たり的なものなっていった。事前計画として定めていたのは『権力を握った際に誰を処刑するか』だけで、『握った権力をどう維持するか』に関しては具体的な計画が無かったのである。

 

 やがて軍からの返答が来る。それは、『拝命いたします、但し隣国との戦争という国家の一大事故、国軍の総司令官である閣下の直卒を要求します』というものだった。

 

 それとほぼ同時に、憲兵司令部に保管されていたチェザレアの通信機が何者かに盗まれたことが発覚する。

 

「何……」


 ガイアスは改めて、事前計画のなさを痛感していた。盗んだのはチェザレア派の何者かに違いない。ゴドフリーが死に、その残兵が地下にいる今、そんなことが出来る人間がいるとは……

 

「どうする……」


 あの通信機には国家の要職の者たちへのホットラインが通じている。勿論自身にも。……軍部が、チェザレアと連絡を取り合っている可能性は低くない。

 

 しかし、このままファーマーン軍の包囲をバイハラで受けるのか?ただでさえ炎覇王から大量処刑に苦言を呈された身、これ以上のバイハラへの損害は避けたい。なればファーマーン軍を野戦で撃破すべきだ。兵力は互角だが明日になれば飛空艇が来る、奴らを撃破し、バイハラの支配を確定させるのだ。第一、チェザレア達は今地下運河で焼け死んでいる筈ではないのか?ならば軍を直卒するに問題はあるまい。

 

 ……情報の処理能力が、ガイアス、いや『ガル=ディ』一体の閾値を超えた瞬間だった。彼の推論には多数の穴があり、それを埋められる者はここにはいない。ガイアスには下僕はいても、相談できる上司はカハンにしかおらず、信頼できる部下は一人もいなかった。

 

「いいだろう、全軍に通達。ファーマーン軍を野戦で撃破する。ガランドゥール周辺に明後日正午までに部隊を展開し、奴らを迎撃するぞ!」


 ガイアスは出戦を決意した。共和国親衛隊を自身の直衛に回し、残りの機動憲兵第三群で首都の警備……いや占領と呼ぶべきか、を続ける形とする。

 

 

 

 ― チェザレアの自宅

 

 議員の大量処刑の情報を入手した後、バダラカとビビッティは孤児たちがチェザレアに対する人質にされることを防ぐため、彼らをある場所に避難させていた。

 

 ……それは、現在は新しい孤児院の建築現場になっている場所のすぐそば。1月末の孤児院炎上で亡くなったレーラの墓の隣に、もう一つ、架空の孤児の名前の刻まれた墓があった。

 

 ……その地下が、孤児たちの避難場所としてひそかに整備されていたのである。

 

「オトナしく、して、いなさい」


「う……うん」


 半ば無理やり連れてこられた孤児たちの顔は、不満そうだった。

 

 ただ、一人だけ何が起こったかをある程度理解している孤児がいる。彼……ダーラの顔に後悔の念が浮かぶ。

 

 元々『新市民の兵士』の記者に彼があの事を証言したのは、チェザレアにあのウンコ野郎……ルジェと別れてもらいたいからだった。

 

 だけど、実際に市民公会で難詰されたのはチェザレアの方だというのだ。こんな理不尽があるか。

 

「ちく……しょう……」


 たどたどしい言葉で、ダーラは言った。そしてチェザレアが無事戻ってきたとき、彼女に謝らなくてはならないという気持ちが芽生えていた。

 

 ……恐らく、『他人に謝る』という行為を彼がしなければならないと言う気持ちになるのは、彼が産まれて初めてである。

 

「チェザレアお姉ちゃん、ごめんなさい」


 他の孤児たちが謝っているのを見て、彼もそれを覚えたのだ。そうすれば、彼女は許してくれる。

 

 だけど、チェザレアが無事でなかったら?自分の行為が最終的に彼女を死に追いやったとしたら?

 

 ……ダーラは、恐怖に振えていた。

 

 

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