第24話
「シェリー!」
――ダダダダッ!
「…………!」
月の光が差し込む美しい庭で、3人の男女の目の前でわたしはキスをされていた――アレックスに。
「……アレックス?」
「はあはあ……ローレン! 謀ったな!」
「たばかる? それは穏やかじゃないな……ただちょっと、わたしの親友の娘にかけられていた魔法を解いただけだ」
「あんたの……親友の娘だと? シェリーは、ローレンの関係者だったのか?」
「親戚ではないがな。金の鍵の所有者の一族だ。ところでアレックス、そろそろ種明かしと行こうじゃないか。その女をどうするつもりだったんだ?」
「ローレン……余計なことを……!」
「ローレン、これはアレックスとわたしの計画で……」
「クレオ、もういいぞ。これ以上、女のフリは……虫唾が走る」
「だけど……これはあんたの計画で……!」
「おまえは魔法は今一だが、女装は似合っていたからな! だが、やり過ぎだ」
「なんですって……じゃあ、クレオはやっぱり……」
――パサッ……。
「ああ、そうだよ。おれは男だ。敵を騙すにはまず味方からってね。すまない、シェリー殿。辛い思いをさせた……」
「それは……」
クレオは長い黒髪のカツラを脱ぎ、単発の黒髪でわたしに頭を垂れた。よかった。彼は男だった。アレックスは浮気者なんかじゃない。ノースウィッチを壊滅させる計画のために動いていただけなのだ。
「アレックス……」
「シェリー……すまない。辛い思いをさせるぐらいなら、最初から結婚すべきではなかった。でも、どうしても君と一緒になりたくて……。途中、ローレンに君を捨てるように言われたときは、それぐらいなら、いっそ一緒に死のうと思ったぐらいだ。それぐらい、君が……」
「アレックス……あの……いままでの殺人事件は……」
「わたしたちの計画よ」
いままで黙っていたレイラが、突然、口を開いた。彼女は怒りに燃え真っ赤な顔をしていた。
「レイラ……そんな……じゃあ、魔法協会の捜査官も、スペンサー夫人も……」
「そうよ。捜査官は大学でクリスマスパーティが行われていた晩に、こそこそと裏門のそばの泉を調査していたわ。彼はシェリーのメガネを泉の底から見つけ出し、わたしが空けた山の上の湖に繋がる穴の存在に気付いた。わたしはクリスマスパーティを抜け出して、捜査官を泉の水に沈めて殺し、そのまま水底から山のてっぺんにある湖へと転送したわ。捜査官と争ったとき、真珠の髪飾りを取られたわ。それが、わたしたちの計画が狂ったすべての発端ね……。ルイがあの髪飾りをわたしにプレゼントしなければ……ギャツビーがあの山に登らなければ……2人とも殺しておけばよかったわ」
「レイラ……あなたが……」
「そうよ。わたしこそ、北の国から来たノースウィッチの総裁、レイラ・アルデラよ!」
「レイラ……どうしてレイク国の大学を選んだ? ノースウィッチを作った偉大なる師のためか?」
「アレックス……その様子だと……わたしの正体に気づいていたのね? いったい……いつから?」
「……ぼくはバーナビー教授と北の大地を調査に行き、ノースウィッチたちがすでに帝都に入り込んでいることを知った。シェリー……クリスマスパーティのときにマッキントッシュ教授が言ってたろ? 昔、嘘吐きで詐欺師の、傲慢な天才児の魔法使いがいたって。彼はライバルを毒殺して王立魔法大学校を追われ、北の大地へ逃げてノースウィッチの集団を作り上げたんだ。帝都を乗っ取ろうと企んでいたが、数年前に病に倒れた。ぼくとバーナビー教授が調べられたのはそこまでだった」
「……師匠亡きあと、わたしたちノースウィッチは計画を前倒しにして行動を開始したわ。各地に潜む帝都の隠密を殺し、色仕掛けで政治の中心に入り込んだ……やっとここまで漕ぎつけたのに……!」
「レイラ……もしかして、ギャツビーとの婚約は……?」
「わたしがあんな男と付き合うと思う? ギャツビーの家を破産させ、親友と婚約させてサッサと別れてやったわ。親友は、結婚せずにギャツビーを捨てる計画だったのに……」
「シェリー……マッキントッシュ教授が以前、言いっていた先入観だよ。ぼくたちは、まさか身近に敵がいるとは思ってもみなかった……完全に、やられたよ!」
「レイラ……スペンサー夫人の屋敷の門に毒を塗ったのは……?」
「わたしよ。シェリーと帝都に行ったとき、塗っておいたわ。まんまと引っ掛かって死んでくれた。敵の魔界の通路を塞いだから、あのあと仕事がやりやすくなったわ。アレックス……今日の舞踏会に誘われたとき、てっきりわたしに気があるんだと思ったわ……」
「レイラ、そんなわけないだろ? ルイの心を弄ぶ君は、最初からぼくは敵対視していたからね。シェリーの手前、付き合っていただけだよ。シェリーはノースウィッチの疑いがあった。なぜならシェリーは、北の女性独特の金髪で、魔法も使えたからね」
「魔法ですって! アレックス……わたしは今は魔法は……」
「いいや、シェリー……君は魔法が使える。ぼくが……キスの魔法で使えなくしていただけだ。自分の髪を見てごらんよ。光り輝く絹糸のような色に変わっているだろ? 魔女は皆そうだ。その美貌で男を惑わし、マジックに掛ける。いやだったんだ……シェリーが美しく成長して、男共の視線を集めることが……!」
「わたしが……なに……?」
念のため、自分の髪を持ち上げて月光に透かしてみた。いつもの麦藁のように煤けたハリネズミヘアーではなく、しっとりと滑らかで、キラキラと金色に光り輝いている。
「だからわたしが言ったろう? シェリーメイは美しいと……。それに、魔法の匂いがするって。アレックスがややこしいことをするから、シェリーメイがノースウィッチじゃないかと疑っていた時期もあったんだぞ。だからアレックスに、シェリーと別れるように提案したんだ。アレックス、おまえもいっとき、シェリーメイがノースウィッチの末裔じゃないかと悩んでいたろう?」
「ローレン……あんたは……重ね重ね余計なことを……!」
アレックスがローレンを睨みつけた。そういうことか。だからローレンはアレックスに、わたしと結婚しろと強制しておきながら、あとから止めさせようとしていたのだ。
おもむろにレイラが口を開いた。
「わたしがノースウィッチと確信した理由はなに?」
「お譲さん……君は入試のときの、化学の魔法問題をスラスラと解いていた。解答用紙を見せてもらったが、あの解き方は、相当高度な魔法の使い手のものだ。そんなにすごい魔女が、物理化学を専攻するとは思えないからな」
「あの解答用紙から、そこまでわかるの? もしや……あの魔法問題はあなたが考えたのね? そう……あんな高度な問題が作れるなんて……あなた、何者なの?」
「どうだっていいだろ? 君を捕らえて幽閉する。観念しろ!」
「まあっ! アーハハハハハ、ハハッ! わたしが捕まると思う? すでに王宮の内部は掌握したわ。覚悟するのはそちらの方よ! みんな! 捕まえた皇帝をちゃんとブラックボックスに入れた?」
――ザザザザ、ザザザザ-ッ!
「わわっ! こんな大人数の……!」
「クレオ、落ち着け! 相手は女だぞ」
「そうだぞ、クレオ! 腕力だったら敵わない。衛兵! 衛兵! 集まってくれ! おや……? あの箱か? 皇帝が入っているのは?」
レイラの周りを一斉に金髪の美女軍団が取り囲んだ。真ん中に真四角の黒い箱がある。たいへんなことになってしまった。
「レイラ……やめてちょうだい! 自首して!」
「シェリー……いちいちうるさいわね! あんたのお陰で、わたしの華々しい大学デビューと数々の計画が頓挫したわ。本当は帝都の天才児アレックスを色仕掛けで落とすつもりだったのに……! こんな……煤けた髪のそばかす女がいただなんて! あら? そう……あなた、本当は美人だったのね……」
「えっ……?」
レイラがわたしの顔をしげしげと見つめてそう言った。
――スッ!
わたしの前にアレックスが立ちはだかった。
「シェリー、危険だ! 離れて! こいつらは殺人集団だ」
「レイラ……」
「シェリー……騙して悪かったわ。ルイにも……でも、わたしたちには使命があるの。覚悟……!」
――ドッガーアアアアンッ!
「おのれ! 待てー!」
突然、レイラの周りに煙幕が張られた。ブラックボックスごと美女軍団が消えた。わたしはアレックスの背中に思わず取りすがった。
――ワアアアーッ! たいへんだー! 宝物殿が爆発したぞー!
「クレオ、アレックス、宝物殿へいくぞ!」
「「はい!」」
「それーっ!」
「きゃああー!」
ローレンの掛け声と共につむじ風が起こった。わたしたちはあっという間に天高く舞い上がり、気付いたときにはアレックスに抱きついたまま、とても立派な部屋の中にいた。
「ここは……」
「宝物殿内の皇帝の間だ。おおっ! 見ろ! さっきのブラックボックスがある!」
「中に誰かいるぞ……!」
クレオが箱を開けると、中から気絶した男が出てきた。
「……皇帝の影武者ですか? 息はある……怪我はしていませんね」
「皇帝だと思って殺さずに放置したな……。この男に皇帝の杖を持たせておいたから、ノースウィッチどもは王宮のシールドを通過できたんだ……。ノースウィッチたちはどこに行ったんだ?」
「あれ? ローレン、あの小さなドアは……?」
「しまった! あいつら地下の財宝を盗み出すつもりだ! アレックス、クレオ! 付いてこい!」
「「はいっ!」」
わたしも彼らのうしろから、部屋の片隅に開いている小さな扉の中に入ろうとした。そのとき――。
――パカッ! ザザッ!
「キャアアアーッ!」
ブラックボックスから突如レイラが出てきて、すごい力でわたしを引きずり込んだ。わたしは、あっという間にブラックボックスへ閉じ込められた。
――ドンッ! ドンドンッ!
「たすけてー!」
「……シェリー……そこでジッとしていなさい。わたしはあなたのフリをして彼らと行動するわね。シェリー、あなたは何も悪くないけど……あなたはちょっとばかし、優秀過ぎたわね」
――カッカッカッカッ……。
レイラの足音が遠ざかっていく。
わたしはビクともしない箱を、これ以上開けようとするのは止めにした。魔法がかかっているようだ。
「魔法……? そうだわ!」
こどもの頃のことを思い出した。わたしはこの程度のボックスからなら、なんなく脱出することが出来ていたはずだ。
精神を統一し、一心に箱の外の風景を思い出した。豪華な部屋で、絨毯は高級で天井からは高く大きなシャンデリアが下がっていて――。
「きゃっ!」
などと想像していたら、いつの間にか箱の外に出ていた。
「やったわ! 魔法が使えるようになったんだわ……!」
アレックスがわたしの魔法を封印していたのは、本当のことだったんだわ。
「いけない! レイラがわたしになり済ましているはず! いそいでアレックスたちを追いかけなきゃ! えっ……?」
だが、部屋の隅の小さな扉は無くなっていた。ぐるりと周りを見まわたしてみたが、出口はどこにもない。
「困ったわ……この部屋はきっと魔法で守られているのね……あら?」
突然、胸に下げた金の鍵がキラキラときらめきはじめた。
――チャリンッ……。
手の平に取り出してみると、金の鍵から強い光が放たれていた。その光の先には――。
「……金の扉だわ!」
何もなかったはずの壁に金の扉が出現していた。
――ダダダダッ!
いそいで近づき、鍵穴に金の鍵を差し込むと扉を開けた。
――ギギー……ッ。
金の扉の向こうに、狭い石畳の通路が見える。わたしは躊躇なくその中に足を踏み入れていった。
――カツーン……カツーン……。
通路をまっすぐ進んでいくと、やがて先に真っ白な光が見えてきた。その光がわたしに迫ってくる。思わず目を瞑り瞼を再び開けると、目の前にアレックスたちのうしろ姿が見えた。王宮の前庭の広場で、衛兵と共に金髪の魔女たちを取り囲んでいた。アレックスが魔女たちを問い詰めていた。
「レイラはどこだ? 財宝は?」
「……アレックス、ノースウィッチは一筋縄じゃいかないぞ。わたしたちは騙されているのかもしれん……。何か見落としているんじゃ……」
そのとき、わたしに化けたレイラが、ローレンのうしろからナイフを振りかざすのが見えた。
「ローレン! 危なーい!」
――チャリーイイイインーッ!
わたしは咄嗟に、わたしに化けていたレイラに金の鍵を投げつけた。金の鍵から光が放たれ、レイラを取り囲んだ。レイラが叫び声を上げた。
「キャアアアアーッ!」
「シェリー! 大丈夫かー! えっ……? こっちにも、シェリーが……?」
アレックスがわたしに気が付いた。皆の目が一斉にわたしを見た。
「ギャアアアーッ!」
――ワアアアーッ!
わたしに化けていたレイラの変装が解け、元の姿に戻っていく。だが、その姿は老婆のようにとても醜かった。
「レイラ……これはいったい……どういうことなの……?」
「これが、その女の真の姿なんだろう。ノースウィッチの総裁なら、かなりの高齢かもしれんな……」
「ローレン! そんな悠長なこと言ってる場合かよ! シェリー! 危ないからぼくうしろに……!」
「わああーっ! 伏せろー!」
――ドオオオオーンッ!
老婆と化したレイラが突然、両手の先から光を放った。それはすごい破壊力で、広場の真ん中に大きな穴を作り上げた。
「アレックス! クレオ! パワーを集中するんだ! 魔女に焦点を合わせろ!」
「「はいっ!」」
――ドッガアアアアーンッ!
アレックスたち3人が、レイラ目がけて手から光を放った。光のシャワーがレイラに降り注ぐ。
「ギャアアアーッ! おのれー!」
レイラが泣き叫びながら苦しみはじめた。
――ダダダダーッ!
「キャアアアアーッ!」
なんとレイラが、わたしの目の前に走り込んできた。たちまちわたしはレイラに羽交い絞めにされ、すごい力で抑えこまれた。
「シェリー……! レイラ、シェリーを放せ!」
「アハハハ、ハハハハーッ! この女を、もっと早くに処分しておけばよかったよ! いつもいつも、わたしの邪魔して……!」
「キャアアアーッ!」
レイラが万力のような強いパワーで、更にわたしを締め上げる。意識がだんだん遠のいていく。アレックスたちも手が出ないようだ。
「これでもくらえ!」
――バシャンッ!
「えっ……?」
ローレンが懐から瓶を取り出し、蓋を開けて中身を振り撒いた。
「ギャアアアーッ! ぐ、ぐるじいー……!」
「ううっ……!」
毒だった。レイラと一緒にわたしも苦しみはじめた。気が遠くなっていく。
「ローレン! なんてことを!」
「アレックス! 早くシェリーに解毒剤を与えるんだ!」
――ダダダダッ!
「シェリー!」
ローレンから解毒剤を受け取ったアレックスが、傍らへ走り寄ってきた。毒に苦しむわたしを抱き起こした。わたしの意識はすでに朦朧としていた。
――ポンッ!
アレックスは解毒剤の蓋を取り去り、それを一気に口に含むと、わたしに口移しで飲ませはじめた。
「……コクッ……コクンッ……」
「シェリー……?」
「アレックス……」
そのままわたしは気を失ってしまった。
「シェリー……シェリー……?」
「……アレックス?」
目覚めたとき、目の前にアレックスの心配そうなブルーの瞳がこちらを覗き込んでいた。
「大丈夫かい……? よかった……毒の後遺症はないそうだ」
「アレックス……レイラは? ローレンたちは?」
「レイラは……解毒剤を飲ませて地下牢に入れた。一生、幽閉して罪を償わせるつもりだ……」
「アレックス……」
「シェリー……ごめんよ。君にとても辛い思いをさせた……。一生、罪を償うよ……」
「そんな……アレックス、あなたに罪はないわ。国を救った英雄よ、あなたは……」
「でも……いくら魔法でとはいえ、ぼくらはたくさんのノースウィッチを殺した……そして、君の心も……」
「いいの。あなたはいつでも、やさしいわたしの愛人だったわ。わたしを愛してくれて、どうもありがとう……」
「シェリー……」
わたしたちは互いを抱擁し、キスを交わした。呪文無しの熱烈な口づけを。
「ローレン……さま……皇帝陛下だったのですね……」
「ローレンでいいぞ。まだまだ若いし!」
「そう言ってる時点でじじいなんだよ。シェリーに色目使ったらただじゃおかないぞ」
「アレックス……君とクレオぐらいだ。わたしにそんな口を利くのは……」
ローレンの正体はなんと、皇帝陛下だった。優秀な魔法使いとして高名な彼は、自ら魔法大学校を設立しそこで指導をしていたのだ。彼はわたしの本当の両親の財産をわたしに相続させ、正式な金の鍵の継承者として認めてくれた。
「これからも金の鍵を守り、存続させていってくれ……」
「はい……」
「そんなに重要な鍵だったのか……。もっと早くにぼくが気づいていれば……」
「金の鍵が、それを望んでいなかったのだろう。何事も運命だ……」
ローレン皇帝の言葉が、心に染みた。これもすべて、金の鍵が望んだ運命だったのだろう。
わたしのかつての容姿はナリを潜め、すっかり大人の美しい女に変身を遂げていた。釈放されたギャツビーが驚いていたっけ。ざまーみろだわ。人を見かけで判断するからよ。
アレックスの両親や親戚はレイク国へ復帰した。わたしもアレックスとレイク国へ帰り、孤児院の運営に力を注ぐことにした。小さい頃から夢が、遂に実現したのだ。
「アレックス、シェリー……今回はどうもありがとう。ぼくもやっと、目が覚めたよ……」
「ルイ……」
「そうだ、ルイ、真珠の髪飾りを返すよ。どうもありがとう。これのお陰で、今回の事件は解決したんだ」
「……レイラに面会したよ。レイラとは思えないぐらい、劣化した姿だった……。化学が得意だったのは、本当らしい。ちょっとばかし自慢し過ぎたって言ってたよ……それで、足元をすくわれたって……」
ルイはさっぱりとした笑顔を見せていた。ギャツビー以上に彼はレイラの行動に傷ついているはずだ。
「だけど、悪いことばかりじゃなかったさ。レイラのお陰で泉の水を飲料水にする研究が進んだ。特殊なプランクトンの研究は、自分の首を絞める結果になったけどね……。マッキントッシュ教授の言葉は当たってた。『魔法が使える化学バカ』は、まさにレイラのためのものだったな」
「レイラ……」
その後、わたしは2度とレイラに会うことはなかった。
わたしはアレックスとの間にたくさんの子供たちを産み、孤児たちを養いながら幸せに暮らした。
その間もずっとレイラは、暗い地下牢に幽閉されながら我が国を呪い続けていたそうだ。
「ねえ、アレックス……あなたには、魔法が掛けられていない、わたしの本当の姿が見えていたの?」
「おおっ……シェリー……!」
見違えるように美しくなった自分の姿を鏡に映しながら、夫のアレックスに聞いてみた。
「そんなことはないよ。皆と同じようにしか見えない。だけどシェリー……ぼくにとっては、君の容姿がどんなであれ、関係ないよ。たとえ地下牢のレイラのように醜い容姿でも、ぼくは君がこの世でいちばん美しく見える。それは、いつまでも変わらないことなんだよ」
「まあ……アレックスったら!」
今も変わらずわたしに向けられる夫の美しいブルーの瞳には1点の曇りもなく、わたしを愛する光がキラキラときらめいている。わたしの胸の上で輝き続ける金の鍵のように、美しい永遠の光が。
(やさしい夫は暗殺者 ~魔法使いと金の鍵~ おわり)




