07. お姫様抱っこ
「 …! 」
立ち上がろうしたところ、先程何度も味わった痛みが足を襲う。白い彼の手に体重をかけてもまた、その場に座り込んでしまう。
「 足、擦りむいてるね。ーーそれもそうか…あんなにハデに転んでいたもんね 」
コンクリートの地面に片膝を付け、しゃがみ込み、傷を痛々そうに見られる。
自分のことのように顔を歪ませている純白の彼。ちょっとした疑問を浮かべつつも、優しいヒトなんだと思う。
「ちょっと…ごめんね 」
なぜ謝るのか不思議に思いながら莉桜は彼を見上げていると体の膝裏と背中に手が回り、軽々と持ち上げられる。
「よっ、と 」
体が宙に浮き、今ある状況に動揺して彼の腕の中でキョロキョロする。
そんな莉桜を見て、口元を緩ます。
「手当ては君の家についてから。 だから少しの間、我慢して」
さっきと同じように安心させるような優しい笑みを浮かべられ、莉桜は思った。
彼が言う『我慢』は、傷の痛みを我慢することとこの態勢を我慢する。どちらの意味も含まれているような気がする、と。
-*-
二人の会話を聞きつつも、純白の彼の安心させてくれるオーラに不思議な気持ちになりながら、彼の顔を眺めていた。
「ルカもちゃんとついてきてね」
ルカに振り向く。自分では気づいているのかいないのか、頬を緩ませて。
いつものことだが今の笑みは、ちょっとした初々しさを感じる。
というのは、新しい出来事に楽しい想いを馳せている感じだ。
それに気づいたルカは、心の中で小さく溜め息をつき、呆れていた。もちろん、表には出さず。
「言われなくてもそうする」
彼を目に止めつつも、それからは視線を合わせず、当たり前と言うかのように返した。
「ーーそれじゃあ、行くよ」
それが合図だったかのように、軽く飛ぶ。
この時、自分の身に何がおこっているのか分からなかった。視界に映っていたものが消えてしまったようで。一瞬の出来事。
それもそうだ。傍に立っている木の上に、一回ジャンプしただけで飛び乗ったのだから。
-*-
気がつくと、視界に映るものが一変し、視界にはたくさんの木。さっきまではコンクリートの道路や草の風景だったのに。
もしかして道路からこの森の中に飛んで来たんだろうか。それも木の上に。彼の腕の中から下を覗くと、やはりけっこうな高さ。
「これから走るけど、怖かったら目瞑ってね」
またもや気遣った言葉に彼の顔を見ると、こちらを安心させるような笑みが浮かべられていた。
その言葉に一度頷く。彼も同じように頷くと、腕に力を込め、さっきよりも体の密着度が高くなった。
ドキッと心臓が鳴る。けれど彼が走り出したことによって、驚きがその気持ちを消し去った。
走るってーー…
今、木の上を走っているんだ、と。
次々と違う木に乗り移り、前へと進む。
車に乗り、走っている時、窓から景色を見るのと同じような光景。そのくらい速いスピードで走っているという事だろう。
人だったらこんな事はできない。試したら確実に途中で落ちてしまう。
人ではないのかも。相手を前にして恐怖より、好奇の強い眼差しで見つめてしまう。
白い髪が風に揺れている。素直に綺麗だと思う。ストレートで肩につくぐらいの長さ。
肌も透きとおるような白さで、美形。普通の学生よりかっこいいと思う。
もし人なら、高校生かな。わたしはまだ中一だから、三年は年上。
「どうしたの?」
ぼーっと眺めていたら彼がチラッと流し目を向けてきた。
ハッとしてから顔を何回も横に振らせ、恥ずかしい想いで俯く。
頭上からクスッと笑い声が聞こえたのは、気のせいだろうか。
-*-
「鍵、ある? 」
家の前まで着くと、莉桜は抱っこをされたまま彼に見下ろされる。
「あ、あります」
ここに来るまで風にあたってきて冷静になった頭。容姿からして年上かもしれない思い直し、ちゃんとした敬語で答えるけれど、不意打ちだったため反射的に答えていた。
ポケットにある鍵を取り出し彼に渡せば良いのかなと迷っていると、鍵穴がちょうど挿せる所に移動してくれた。
「ちょっと、開けてもらってもいいかな? 」
素直にその鍵穴に鍵を挿し入れカチャッと音がすると純白の彼は後退し、数歩後ろにいる彼の名を呼んだ。
「ルカ」
目を見ただけで何が言いたい分かったルカは、無言で歩みよりドアを開けた。純白の彼は手が塞がっていて無理、莉桜が開けるよりはルカが開けたほうが手間をかけずに済む。そう思い、ルカに頼んだんだろう。
「ありがと」
ほら、と言うような雰囲気でドアに手を掛けたまま無言で立つルカにお礼を言うと、彼の横を通り過ぎそのまま家の中へ入ろうとする。
「あ…ありがとう」
莉桜もお礼を言わなきゃと思ったのだろう。焦りながらも言葉を出すと、さっきまでどこかにやっていた視線を向けてきて。通り過ぎる前に一瞬だけ二人の視線が交わった。
-*-
やはりその瞳からは何も感じられなかったーー…




