06. 純白の剣
今まで目の前で行われていた光景を木の上で立ったまま他人事のように見ていた男は、ふっと口元で笑い、僕の出番かなと声を出す。
「さすがルカだね。 僕の出る幕なんてなかった」
急に聞こえてきた声に驚いた莉桜は、自分を見ている彼かと思ったが、それは違うと分かった。彼の口は動いていないから。
(誰?)
首を傾げそうになりながらも、聞こえた方……木々を見てみる。
すると、言葉をいい終えると共に一つの木から誰かが飛び降りてきた。軽く着地すると彼はルカと呼ばれる男に微笑む。
「別に、ただの雑魚だっただけだ」
ルカは莉桜から視線を外し、彼を見たと思ったらすぐに視線を逸らす。
片手に持っている剣を、腰にある鞘にしまうと、不思議なオーラを放つ彼の笑みから逃げるように、斜め下を見る。
褒めた彼はそんな彼を見て、またも苦く笑み。その表情のまま、莉桜に視線を向けた。
彼をずっと見ていたため、すぐに目が合うものの、この二人の微妙な空気に不安になる気持ちのせいなのか無意識に視線を下げ、コンクリートを見続けた。
怖いという感情が表に出ている莉桜の顔を確認すると、そのまま彼は歩み寄る。
ルカの横を通りすぎ、尻餅をついている莉桜の前まで来ると、手を差し伸べた。
「君、大丈夫? 怖かったよね。 立てる? 」
-*-
意外にも気遣った言葉。俯いている莉桜の視界に差し出された手が映った。
なにかされるのかと思っていた莉桜は拍子抜けしたとともに、さっきまでの不安な気持ちが嘘のように軽くなった。
「あ…の……」
声が震える。彼を見上げ、言葉にならない声を出す。不安な気持ちが少し無くなったとしても、まだ怖いという感情はある。
黒い彼と違って、天使のようだと言ったら大げさかもしれないけど。この行動といい、この純白な容姿といい、まるで天使そのもの。
漆黒の彼とは正反対で白い髪、白い服装。
白い瞳。瞳は複雑な色をしている。たぶん銀色も混ざっているんだと思う。
羽織っているコートも白。
ーー白い彼が天使なら、黒い彼は悪魔か
視界に二人をいれ、ふとそう思った莉桜は、差し出されている手を見て想う。漆黒の彼よりは信じても良さそう、だと。
けれど一つ、気になることがあった。
差し出された手を受け取ろうと、無意識にしていた行動を止め、彼の顔を見る。
「め… 」
またもや声が震えてしまう。そんな莉桜を見て白い彼は不思議そうな顔をしてから、首を少し傾げて優しい瞳で見つめた。
わたしが最後まで言うことを待ってくれているようだ。
そんな風に思った莉桜は、ちゃんと言葉を口にした。
「目が、欲しいの? 」
さっき、わたしの目を狙ってきたアレは人ではなく異常なモノ。だからこのモノたちとアレは同じなんじゃないかと思う。
剣を持っているなんて異常だ。
もし同じなら…同じ目的があるんじゃないかと、回らない頭の中で推測した。
どんな言葉が返ってくるのか身構える。
そうだと言われたら、何が何でも逃げなければいけない。
莉桜の心配をよそに彼は柔らかく笑った。そんな心配する必要はないと言うかのように。
「大丈夫だよ。僕たちはさっきのヤツとは違うから」
彼の安心させようとする笑みが、莉桜の恐怖心を和らげた。
-*-
わたしの目を狙っていたモノとは違う。
安心させようとするような微笑み。
もうなにも怖がることなんてない。
この笑みがそう言ってくれている。
単純かもしれないけど、そう思ったんだ。
だからその手をとった。
差し出されていた手を。




