10. 無防備な人質
ネコミミくんに担がれ連れてこられた場所は森の奥。静かに降ろされ、じっと見られる。背中には木があり、その視線から逃れることができない。
「なに……? 」
耐えきれずに訊いてみた。
「君の目に氷力石が本当にあるのかと思って」
その言葉に思わず固まる。木に背を合わせ、足を斜めにして座っているわたしを屈んで覗き続ける彼。嫌な予感がし反射的に後ずさろうと手が地についた時、ネコミミくんは立ち上がった。
「オレ、あいつのことが嫌いなんだよね」
弾ませるように明るく声を出しているのに、細める目で遠くを見る表情はどこか寂しげで。
「だからあいつを倒すために力が必要なんだ」
ルカと同じ、心ない瞳となった。まるで本当の気持ちを押し隠しているように見えて。
「どうして嫌いなの? 」
「あいつがオレの事を嫌いみたいだから」
「そんな理由で……? 」
一瞬何を言ってるのか分からなくて、少し経ってから自然とそう問いかけていた。
「だってずるいじゃん。オレがあいつのこと嫌いじゃなかったら、どうすればいいの? 」
逆に答えを求められてしまう。
何も答えられずにいると、わたしを見つめる瞳は悲しい色から何か企んでいるようなものに変わった。
「その目にあるもの。それがあればあいつに勝てるんだけど…… 」
深く、望みのあるような真っ直ぐとした目。射抜かれるような感覚を味わう。
「やっぱいいや 」
途切れさせた言葉を続け、ニコッと笑った。
「自分の力でいつかあいつに勝ってやるから。キミの目にあるものはキミのもの。オレはそれを取らない 」
潔いネコミミくんの笑みに偽りはない。
吹っ切れたとかではなく、何か嬉しい事があったかのように自然と頬を緩ませている感じ。
ーー……軽い沈黙の中、視線だけが交わる。
近づいてくる彼。
「ありがと。オレを見逃してくれて 」
その言葉には他の意味も込められている気がした。〝守ってくれて〟〝助けてくれて〟
お礼を言われたことに驚く暇もなく頭にポンっと手を乗せられ、暖かい笑みが向けられる。そしてそのまま顔が近づいてきて……。
髪の上からおでこにキスをされた。
通常よりも見開き瞳を揺らす。ただ呆然とするしかなくて。
「また会えたらいいねっ 」
声が出せないまま、ネコミミくんと別れた。最後に見たのは彼の満面の笑みと、背を向けて木の上へとジャンプした姿。
熱のこもる頬よりも微かに残る感覚が恥ずかしくて、自然と額に手を伸ばしていた。
触れる手が、また先程の感触を呼び起こす。




