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魔法心理学科・渡良瀬ゼミの相談室 【第3話:逆さ吊りにされた恋心】

 

 エンデちゃん 20歳

 シン君の友達 幻影魔法が得意。



 医療系の講義が終わり、テキストとノートを大きなカバンに詰め込み、帰る準備をする。


 階段を降り、講義室のドアを開け、長い廊下を渡る。


「シン君、少し良いかね?」


 後ろから声を掛けられる。振り向くと、助教授の姿が有った。


「君のレポートを読ませてもらった。もう少し煮詰めれば良い論文になる」


「頑張りたまえ」


 また後ろから、助教授の声がする。


「何をやっとるのかね、君は?」


 彼の後ろと前に、同じ声、同じ姿の助教授の姿が有った。


「君こそ何をやっとるのかね、悪い冗談は止なさい」


 意味が分からなかった。


 後ろの助教授が、深いため息をつく。


 そのまま彼の横を通り抜け、同じ顔の男の肩に手を掛ける。


「私は左の目が水色だ。君は逆だ」


「なにを見とるのかね?もう少し観察しなさい」


 そう言い残すと、助教授は去っていった。


「いやぁ……さすが助教授だね。一発でバレちゃった」


 彼女は幻術を説き、元の姿に戻る。


 彼もまた、深いため息をつき、帰路へ急ぐ。


「ちょっと待ってよーー!」


「シン君、少し変わったよね」


「かわってないよ」


「なんか、良いことあったの?」


 彼女は、僕の前に回り込み、悪戯っぽく聞いてくる。


「相談しに行ったら、酷い目に合っただけだよ」


「相談ねぇ……」


「ねぇそれって、どこにあるの?」




 屋根の上で水玉が踊る。窓ガラスが風で時折りカタカタと音を鳴らす。


 提出用のレポートを、机の上でトントンと揃え、カバンに詰め込む。


 ドアをノックする音が聞こえる。


「そうぞ」


 ゆっくりとドアが開かれ、女性が顔をのぞかせる。


「ここは、カウンセリングルームですか?」


「そうですよ、どうぞお入りください」


「お邪魔します」


 彼女は傘をたたんで、ドアの側に置く。


 僕は椅子に座るよう、手をかざし促す。


「お茶でも入れましょうか?」


「いえ、お構いなく……」


 そういうと、彼女は丸椅子に座る。


 僕は、彼女の正面に座り、テーブルの上で手を組む。


「私、シンの友達で……」


「シン……あぁ、治癒魔法の」


「彼には、申し訳ない事をした」


「彼は、その後どうだい?変わったところは無いかい?」


 彼女は自前の水筒を取り出し、栓を開け口にする。


「シンは、以前より少し変わったような気がしました」


「なんか……かっこよくなったような……」


(前までのシンは、弱弱しく情けない男だと思ってたけど……今の彼は……なんだか、凄くかっこいい……)


 彼女は恥ずかしそうに、目を泳がしている。


「そうですか、それは良かった」


「君は、どうしてここに来たんだい?彼の近況報告ではないでしょ?」


「……」


「私は、小さいころから、幻術魔法が得意でよく友達や両親の真似をして、遊んでいました」


「遊んでいるうちに、声も姿も喋り方も、完璧に再現できるようになりました」


「でも、彼の前に立つと、幻術が上手く出来ないんです……」


「どうすれば良いと思いますか……?」


 僕は立ち上がり、机からカバンを取り、肩にかける。


「今日は、実験棟で面白い実験が有ります。一緒に行きましょう」


「大丈夫ですよ。きっと君の役に立ちますから」


「いや……でも……」


 彼女はその場を離れるのは、抵抗があるようだった。


「さぁ、一緒に行きましょう」


 彼女を笑顔で説得し、実験棟へ向かう。




 屋根のある渡り廊下を渡り、受験棟の五階に上がる。


 ドアを軽くノックし、二人が中に入る。


 そこには、まだ若い教授と長身な女性二名がいた。


 若い教授は、地面に魔法陣を敷きながら、古ぼけた本を片手に長身の二人に

 何か講義をしている様だった。


「あっ……渡良瀬先生。こんにちは、どうしてここへ?」


 彼女は、頬を赤らめながら、恥ずかしそうにしている。


「ここへは部外者の立ち入りは、禁止されている」


「出ていきなさい……」


 若い教授はそう言い放つと、僕に近づきてきた。


 僕は手を差し出し、彼をとめる。


「すぐ出ていくよ、でも彼女を少し借りたいんだ」


「彼女!!……」


 その言葉に、長身の女性は顔を真っ赤に染める。


 僕は長身の彼女に近づくと、手招きする。


 長身の彼女は、身をかがめながら、話を聞こうとする。


 僕が幻術使いの彼女との関係を説明すると、長身の彼女の目の色が変わり、荒い息遣いが聞こえる。


「よくも……先生を!」


 長身の彼女は、幻術使いの彼女の前に立つと、足につかみかかり、持ち上げ、逆立ちにする。


「きゃぁぁ!何なの?」


(な、なにこの娘!? 意味がわからない! どうして急に襲われてるの!?)


 幻術使いの彼女は、何が起こっているのか、全く理解できていないようだった。


 長身の彼女の足元に魔法陣が形成され、幻術使いの彼女を、ジワジワと熱し始める。


「さぁ、素直になれないチキン娘ーー!」


「彼女には、君が僕に誘惑を仕掛け、困っている。と話しておいた」


「このままじゃ、本当に彼女に焼かれるぞーー」


(なんなのこの男!?頭おかしい……!)


 足と腕をバタつかせながら、彼女は叫びだした。


「ば……馬鹿じゃないの?あんたなんかに興味は無いのよ!」


「馬鹿?先生が?」


 長身の彼女がさらに、幻術使いの彼女の足をさらに高く上げる。


「ただ単に、情けない自分に蓋をしてただけだろ?」


「幻術で胡麻化して、逃げてるだけだろ?」


「それとも、何物でも無い自分が恥ずかしいのか?」


 僕は胸ポケットからメモ用紙とペンを取り出す。


 幻術使いの髪の毛が、熱気でゆらゆらと揺れる。


 毛先が少し、焦げ始める。


「そんなことない……私はただ……」


 圧倒的な力と、火力を前に幻術使いの彼女は、身震いしていた。


「さっさと認めなよ、逃げる事が得意なエンデちゃん」


 彼女は、涙目になりながら必死に、絞り出すような声を上げる。


「そうよ!私は、シンに嫌われたくなかっただけ!」


「私を見てほしかっただけなのーー!」


(言っちゃった……ついに言っちゃった……。格好悪い、最低の告白だ……)


 長身の彼女は、そのままエンデの足を離し、正気に返る。


 エンデは、ドスンと音と共に地面に落ちた。


 地面にいつの間にか、書かれた魔法陣がクッションとなり痛みは無い。


 僕は、エンデの前にしゃがみ、微笑みかける。


「やっと言えたね」


「幻術は姿形を変えられても、自分は変えられない」


「人は関係性の中で、変われるんだよ」


「ありのままの自分を、見せてごらんよ」


「きっと彼も、君を受け入れてくれると信じている」


 そう言うと彼女は、俯きながら頷いた。


 長身の彼女に向き直り、手招きする。


 彼女は気まずそうに、僕の前でかがむ。


 僕は彼女の頭を撫でながら、微笑みかけた。


「ごめんねミノちゃん。勘違いさせて」


「今度、食事をおごるよ」


 彼女は笑顔を浮かべ、頷いた。




 その夜


 幻術使いによる自己逃避及び、自己肯定感の否定による考察


「よし。順調だ」


 ドアがノックされ、若い教授が入ってくる。


「相変わらずだなお前は……私の邪魔ばかりする」


「邪魔してないよ、少しミノちゃんを借りただけ」


「あぁ、それとこれ」


 渡し忘れた、レポートを教授にわたす。


 教授は頷き、レポートを受け取る。


「お前の実験には口を出さない」


「だが、私の実験を邪魔するのだけは止めろ」


「あぁ、分かったよ兄さん」




次回【第4話:魅了使いを底なし沼に沈める方法】です。



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