第9話 口コミの評判
神殿に魔力回復飴を初回納品してからしばらく、毎日一定数をお届けしているのだがついに噂を聞きつけてお店に買いに来る人が現れた。
いかにも魔女っ子です! といわんばかりの帽子にローブ、魔石の付いた木の杖を装備した古き良きスタイルの少女だ。
「あの、神殿の神官さんが話していた飴を買いに来たんですけど……」
金髪碧眼の少女は可愛らしい声でそう言うと、俺の返事を待っている。
あれ? 店内に置いてあるんですけど……。もしかして形まで伝わってない!?
「えっと、こちらですね」
とりあえず近くの店にある商品と同じ包装のものを取り出して目の前に置いてあげる。
「こ、これが……」
どうやら実物を見たのは初めてらしい。
「こっちは試供品です。後試食もあります」
お試し用無料の小さなパッケージの魔力回復飴とお一人様1粒限りの試食も用意している。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
きれいな目をキラキラと輝かせながら1粒口に運ぶ魔女っ子。
「おいしいいいいいい!!」
どうやらお気に召したようだ。
「買います!」
「お買い上げありがとうございます。食べ過ぎにはくれぐれもご注意ください。あとただいま商品お買い上げ1点につき試供品1つプレゼントしておりますのでどうぞ」
「あ、ありがとうございます!!」
どうやら魔法を使う系の職に需要がありそうなので改良版も用意しておこうと思う。
とはいえ飴程度だと自ずと回復の上限は限られてくるんだよね。
う~ん、次の商品はどうしようか……。
「イリスちゃんまるで別人みたい。あのイリスちゃんをしっかり躾けるなんて神殿おそるべし」
「ミューズ、思っていても言っちゃだめ。もし嫌われたらどうするの?」
「それは困る。グレモリー様に雇われているとはいえ半分はイリスちゃんのためだもん」
「そうよねぇ」
なんかミューズさんとウィルさんがうるさい。
でも考えてみれば、俺の周りは精霊が特に多いように思える。
やっぱりスキルのせいもあるんだろうけど……。
「いつかイリスちゃんに力を貸せるようになるのかなぁ」
「最初はエミルちゃんに取られちゃったしねぇ~」
ここでも話題はエミルちゃん一番乗りの件だった。
そこまで気にすることなんだろうか?
ちなみにブランはあれからだいぶ不機嫌のようだ。
「はぁ、あんたらねぇ。いいかい? エミルは条件が良かったんだよ」
「「グレモリー様!?」」
今日も珍しく聖域の森からこっちの店舗に出向いてきたらしい。
売れ行きでも気になっているのだろうか?
「と、申されますと?」
恐る恐る話の続きを聞き出そうとするミューズさんとウィルさん。
なんとなく師匠の顔を見ると頭が痛いと言わんばかりの表情をしているのが見えてしまった。
「エミルはまだまだ小さな子供だよ。心の距離も成長したお前たちよりもずっと近くて素直だ。そんな子がイリスの心に近づきやすいのは当然といえば当然だろう?」
「「た、たしかに」」
「それにだ。エミルはまだ見習いの光の職業精霊。もっとも難易度が高いんだ。逆にあんたらはどうだい?」
師匠にそう言われて心当たりがあったのか、胸の辺りを抑えてハッとする2人。
「私もミューズも上級精霊の地位ですね」
「ですです」
「イリスのスキルはまだまだ成長するんだ。つまり、成長していけばあんたらとも繋がることができるってことだよ」
「「なるほど!!」」
どうやら納得してくれたらしい。
ちなみにあんな感じにダメダメなブランだが、一応光の職業精霊としては大精霊という管理職の地位にある存在らしい。
まぁ俺にとってはずっと昔からそばにいるお姉ちゃん的存在なんだけどね。
ブランがいてくれたからどこに行っても物資の補給に困らなかったし、勇者が無駄遣いしてもすぐに補給できていたんだ。
感謝してもしきれない存在だと思っている。
まぁ同時に、兄妹の確執の元でもあるんだけど。
「師匠。ブランに伝えておいて。あんまり不機嫌なら嫌いになるからって」
「おや、珍しいね。分かった、伝えておくよ。それで新商品の売れ行きはどうだい?」
早速師匠が魔力回復飴の売れ行きについて確認してきた。
「口コミはいい感じに広まってるようです。先ほど1名買いに来たので期待できそうです」
「そうかいそうかい。じっくり売れていくならそれでいいよ」
うちの商品は基本的に品質がいいのでそれなりのお値段がする。
なので量販店ほど人が多く来てごった返すようなものでもないので、お店は大体静かなものだったりする。
「すみませ~ん。こちらに魔力回復飴なる物があると聞いてきたんですが」
「魔術師組合の仕入れ担当です。こちらに良い商品があると神殿で聞いてきたのですが」
早速ばらばらと口コミを聞いた人がやってきたようだ。
「ほほう。これは期待できそうだねぇ」
「甘いものは需要高いっと。次のアイデアに生かしてみようかな」
その日の魔力回復飴はなんと100セットが売れたのだった。
ちなみに作り置きのストックが切れたのでその日は夜遅くまで頑張って追加100セットを作る羽目になったんですけどね。




