第10話 新商品を作ろうその1
魔法錬金とは新たな創造そのものである。
これは師匠の言葉だ。
まぁぶっちゃけ対価を払えば自然の法則を超えた素材や品々を無理やり生み出すことが可能となるわけだけど。
「そういえばイリス。あんたは精霊の力を使えたね」
「ん? そうですね」
魔力回復飴を売りつつ接客をしていると師匠が急にそんなことを言い始めてきた。
どうしたんだ?
「エミルの回復魔法だけど」
「うん」
「それを使って何回か使えるヒールストーンのようなものを作れたりしないのかい?」
「……。それだ!!」
師匠の助言で次なる商品が頭に浮かんだのだ。
精霊の魔法は2つある。
1つは人間の魔法と同じく言葉を使い、自然界に漂う精霊力を利用して魔法を使う方法。
こちらは一般的な方法である。
もう1つは漢字の崩し字のような精霊文字を書いて力を籠めるというものだ。
一応文字に力を籠めるという行為は人間でもできるけど、普通の状態では魔力は集まりやすく拡散しやすいという性質があるので長い間効果を発揮させるのは難しい。
その点、精霊力は拡散しにくいので、いわゆる置き魔法が可能になる。
もし人間の魔力で同じことをしたいのなら、常に魔力を供給できる魔力回路のようなものを作る必要があるだろう。
「じゃああとは任せたよ。こっちは納品用の魔法薬作りに戻るからね」
そういうと師匠は姿を消してしまった。
さて、師匠からアイデアを貰ったけど持ち運び用の素材はどうしようか。
木材は軽くて持ち運びしやすいけど耐久度に難がある。
石材は頑丈だけど重くて加工がしにくいのが難点。
そして粘土は加工がしやすいけど焼成という手間が入る上に条件によっては割れやすい。
「う~ん……」
「イリスちゃん、何を悩んでいるの?」
「お悩みならお姉ちゃんたちにお任せよ~!」
早速職業精霊2人組がこっちに近寄ってきた。
う~ん、いい案が出るだろうか?
「精霊文字を書いたタブレットのようなものを作りたいんですよね。内容は回復魔法。複数回使えてかつ壊れにくくて加工しやすくて持ち運びしやすいことが条件です」
こうして羅列してみると条件が多すぎる気がする。
「う~ん……。樹脂とか?」
「それ加工するのに時間かかるわよ?」
「あ、そっか。そうなるとなんだろう?」
「そもそもイリスちゃん、それ、手作業でやるつもりなの? それとも魔法錬金?」
「魔法錬金ですね」
「ふぅん……」
ウィルさんは何かを考えているようだ。
それからしばらくして、ウィルさんがこんな問いかけをしてきた。
「下地になる精霊力の素材は精霊石も使うの?」
「そうですね。素材自体に精霊力を纏わせないと文字を描いても通らないので」
「じゃあ革とかどう? 肝心な文字は焼き鏝でもいいし。最後の工程でイリスちゃんが精霊力を使いながら文字をなぞれば同じ効果を得られるわよ?」
「革かぁ。焼き鏝も盲点でしたね……」
無難な素材である革、それに1回作れば何度でも押せる焼き鏝。
完全な盲点だった。
「それでいきましょう。で、精霊文字の焼き鏝ってだれに頼むのがベストですかね」
「それなら精霊鍛冶師のルビーちゃんに頼みましょうか」
「ルビーちゃんなら2つ返事でOKしてくれそうだね!」
先輩2人の助言もあり、一先ず商品完成形が見えてきた。
次は焼き鏝の準備ということで精霊鍛冶師のところへ行く必要があるわけで。
「ところで商品名はどうするの?」
「仮ですけど、【回復の護符】にしようかなと」
ただし火気厳禁だけど。
というわけで早速店を出て俺は精霊鍛冶師の店に行くことにした。
精霊鍛冶師の店はちょっと変わった場所にある。
具体的に言うと神殿の北側の住宅地や商店街から離れた場所にあるのだ。
で、どちらかといえば外に近い位置にある。
「中央の商店街は普通の鍛冶屋ばかりなんだよなぁ。人間、ドワーフ、エルフ、獣人系に魔族系。それぞれ特徴的なものを作ってるから客層が被りにくいのはいいんだけど……」
この多種多様な種族が集まる街にはその種族の特徴を反映したお店が多く存在している。
例をあげると、どの種族が買っても同じように使える武器があるのだけど、この武器の製造方法や素材の加工方法が種族秘伝だったりする。
例えば、魔族の中でも悪魔族という種族がいるのだけど、彼らはインフェルノシリーズという武器をよく作る。
基本は火属性か氷属性か闇属性の属性武器なのだけど、高耐久かつ壊れにくいという特徴がある。
その理由の多くが彼らの使う魔界鉄という鉄にある。
この魔界鉄の加工方法、なんと悪魔族にしか伝えられていないらしい。
ちなみに悪魔族は種族特性でこの魔界鉄で作った武器を軽々と扱うことができるのだけど、他の種族にはその特性がないのですごい重量がそのままのしかかってくることになる。
「そう考えると精霊鍛冶師って一番謎なんだよなぁ……」
精霊鍛冶師の作る武器防具はある意味誰でも使うことができる。
ただし、条件として精霊の友であったり認められている者、または精霊力を扱える者に限られる。
まぁほとんど職業精霊専用といったところだ。
その代わり恩恵はすさまじく、名だたる人物がこの武具を求めているのだという。
ほとんど認められたことはないようだけど。
「精霊ってやっぱり変わってるよなぁ。人類の隣人であり友人だけど力を貸すことには積極的じゃないし」
その最たる理由が神殿での回復術士不足だろう。
光の職業精霊が手伝いに行けば回復術士不足はあっという間に解消するのだから。
まぁその光の精霊が関わっているからこそ人類は神聖魔法を使えるわけだけど……。
言葉にするとやっぱり矛盾している気がする。
「まぁとりあえず精霊鍛冶師にどうにか話を付けに行きましょうかね」
「おっ? アタシが何だって?」
突然声を掛けられたので振り向くと、そこには赤い髪をした長身の女性が立っていた。
それは火の職業精霊だった。




