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第60話 大きな商機とフレアさんの思惑

 フレアさんとの取引が終わり、直接物件に移動する。

 大きさは4階建てで奥行きがとても広い物件だ。

 ターレスの街と同じく倉庫や荷捌き場が付いているタイプで搬入出をするにも便利な物件となっている。

 そして屋上にはなんと温泉が付いているというのだ。

 

「なんというか贅沢だなぁ」


 目の前に聳え立つ物件を見ながらそう漏らす。

 ただ屋上温泉って水漏れとか湿気とか諸々のことは大丈夫なのだろうか。

 その辺りが少し心配だ。

 とはいえ、従業員にとっては問題さえ起きなければ憩いの場になるかもしれない。


「最新の技術を使用しておりますので快適さは保証できます。ただ、少なくとも半年に1回は点検された方が良いかもしれません」

「温泉ですもんね。配管に問題出ることは確実でしょうし」


 実際どのくらいで廃刊に問題が起きるかはわからないので週1で従業員には点検をお願いしておこう。

 早速人員を集めないといけないけど、やっぱりエイリスに相談するほうが良いよね?


「イリス様。早速こちらで管理の人員と店舗責任者を選出したいのですがよろしいでしょうか?」


 すぐにエイリスが反応してくれたので二つ返事でお願いしておく。

 ターレスの店舗と言いこっちといい、エイリスにはお世話になりっぱなしだなぁ。


「エイリスはこういうのが得意なのよ。だからあまり気にしないで大丈夫よ? でも、たまには報酬を与えてあげるといいと思うわ」

「はい。ブランの言う通りです。適材適所ですのでお気になさらずに。元々秘書的なものでもありましたので」


 ブランもエイリスのことはよく知っているようで、時折関わり方について役立つアドバイスをしてくれるので非常に助かっている。

 エイリスを労う時も相談させてもらおうとしようかな。


「二人とも、ありがとう」

「では内部をご案内します!」


 フレアさんに案内されるまま俺たちは建物の中に入っていく。

 建物入口入ってすぐには大きなホールとカウンター、鉄格子の取り付けられた比較的小さなエリアなどが存在していた。

 鉄格子の奥に扉があり、多くの棚があることから金銭もしくは貴重なものを取り扱うために用意された場所なのだろう。

 さすが商会用の物件だな。


「商業組合と提携していただけますと銀行業務も内部で行えるようになります。奥にある設備などはそのためのものですね。よろしければアルタイ商業組合から人材を出向させたいのですがどうでしょうか?」


 ホール内部をじっくり確認していると、フレアさんからそんな説明が聞こえてきた。

 銀行業務かぁ。

 そういえばそういったことは考えたことがなかったな。


「フレアちゃん? そのお話って他にもしているのかしら?」


 何かを感じたのか、ブランがフレアさんに問いかける。


「さすがはブラン様です。他の方々にはご案内していない内容です。本来銀行業務は信頼のある組織にしかお願いできないものです。ですが、アルタイ商業組合としましてはイリス様との繋がりを大切にしたいというのもありまして……」


 ちらりとこちらを見るフレアさん。

 どうやら俺に対してある種の下心があるらしい。


「まぁいいんじゃないかな。俺としては裏切られなきゃ問題ないと思うけど。建物の支払いや今後の入金の管理が楽になるなら一番いいし」

「そうねぇ。ところでフレアちゃんはアルタイ商業組合を独立した大きな組織にしたいとか、そういう希望はあるの?」


 俺の言葉に同意したブランはフレアさんにそう問いかけた。

 ブランの口調からして、おそらく何らかの勧誘をしているのだと推測する。


「そうですね。イリス様に再会できる前ならアルタイ商業組合を国一番の商業組合にして理事会を牛耳るつもりではいましたけど、イリス様としっかりした繋がりができるのなら、些細な目標になるかもしれません」

「どういうこと?」


 俺はフレアさんが何を言っているのかがわからなかった。

 今まで通りの野望を抱き続けるなら、俺と再会しても問題なく達成できるような気がするからだ。

 つまり、俺を通してさらにアルタイ商業組合の価値を上げ、すべての商業組合より上になることができれば理事会を牛耳ることも夢ではないと思うからだ。

 にも拘らず、フレアさんは若干別の方向を向いているような気がする。


「そう。ではまずはアルタイ商業組合を一番にすることが先になるわね。で、フレアちゃん? そのあとはどうしたいのかしら?」

「さすがにブラン様は騙せませんね。アルタイ商業組合を一番にするのは父の目標でもあるんです。ですが私としてはやはりエイリス様やブラン様と一緒にイリス様に再びお仕えできればと。もし叶うのなら、この仕事で培った能力をイリス様の元で発揮できそうですし……」

「なるほどねぇ。エイリス、どう思うかしら?」

「人材は必要ですわ。わたくしはそれで構わないと思います。わたくしたちの拠点を起点に、精霊の国にも影響を与えられそうですから」


 ブランとエイリスは何やらひそひそと相談をしている。

 え~っと、もしフレアさんが俺たちの陣営に鞍替えするとしたら、まずは拠点の資金管理担当になるだろう。

 となると、店舗関係やそのほかの運営にもかかわることになるだろうし、精霊たちとの物品の取引関係にも大きな影響が出るかもしれない。

 今はまだ小さくやってはいるけど、このままいくとちょっとどころじゃない大きな商売にもなりそうだし……。


「フレアちゃん? 守秘義務や契約関係に問題がなさそうなら、私たちの拠点の金銭管理も手伝ってみないかしら?」

「えっ?」


 突然のブランの勧誘に驚きを隠せない様子のフレアさん。

 ただその瞳には好奇心の色が宿っているように見える。


「本当は一か所を贔屓しちゃいけないんだけど、このアルタイ周辺は少し特殊らしいの。その関係も考えて、少し手を貸そうかなと思うのだけど……。どう?」


 ブランの言う通り、職業精霊である精霊族は人間種にあまり積極的に力を貸すことはない。

 ただブランの話すようにこのアルタイ周辺は星の里も関係しているので、人間種だけの範囲の話で終えるには少々複雑な面がある。

 あとで星の里にも話を通すことになるだろうけど、もしかしたらこのアルタイだけ特別に精霊族が力を貸すなんてことも起こりうるかもしれないのだ。


「ど、どう答えたらいいかわかりません。他の人たち相手の商売のことでしたら豊富な経験があるので決断もすぐにできますけど、ブラン様たち精霊族、さらにはイリス様まで関わってくるとなると正しい答えが出せそうにない気がします」

「そうねぇ。その辺りはこの近くにある精霊の里である星の里やグレモリー様を交えてお話ししましょうか。その方が分かりやすいかもしれないし」

「そうですわね。代表者が集まれば話を通しやすいでしょう。まぁグレモリー様がイリス様のことで拒否するなんてことはあり得ないと思いますが」

「そうね。というわけでフレアちゃんのためにも、この話は一旦保留ね。もし通ったら精霊素材の流通が今までよりずっと増えるもの」

「そ、そうですね。私も一度整理したいと思います。あ、銀行業務には【アナ】を派遣する予定ですので、後程説明に来させますね」


 フレアさんはそう答えると苦笑しながら派遣予定の担当者について教えてくれた。

 はてさて、これから俺たちはどう動くことになるんだろうかね。

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