第61話 星の里の月の遺跡にて
フレアさんたちに一通り建物を案内してもらった後、その場の管理を直接任せて俺たちは一度星の里へと戻った。
星の里に到着するとすぐに宗家さんがやってきたので、アルタイの街で取引することになった旨を伝える。
「そうですか。それはよいことと思います。我々だけでは人間との取引には消極的過ぎてほとんど交渉などしませんからな。一応我々が興味を示すものを持ってきてくれた時のみ取引には応じているので、全く関わりがないというわけではありませんが……」
一応星の里側でも多少の取引はしているらしい。
ただ毎度のごとく欲しいものや興味を引くものが乏しいので、大々的な取引は行われていなかったようだ。
「そうねぇ。だから私たちが間に立つことで人間側が欲しいものと精霊側が欲しいものを良い感じに提供できれば一番よねぇ」
「そうですな。その点は全く心配しておりません。辰巳殿の眼鏡にかなった以上心配するようなことは皆無ですからね」
宗家さんはそう口にすると俺のほうを見てほほ笑んだ。
精霊たちの俺に対する信頼感がすごすぎてどうしていいかわからなくなる。
「良いものがあるかはわからないですけど、大したものじゃないですけど【月光鉄】を渡しておきますよ。どうぞ」
商品の参考になればと今回は無償で月光鉄を1本渡すことにした。
まぁ量産はできるので10本くらい渡しても何の問題もないのだけど。
「ありがとうございます。……こ、これは!?」
何やら月光鉄を受け取った宗家さんが驚きに満ちた声を上げる。
視線を向けてみると、月光鉄を持ったまま固まっている宗家さんを確認することができた。
何してんだろ?
「ねぇイリスちゃん。月影ちゃんが持ってる刀の素材ってしってるかしら?」
「あん? んなのしらねえけど。なんかの属性鉄じゃねえの?」
不意にブランがそんなことを問いかけてきた。
月影兄の刀の刀身は、たしかうっすらと白く輝いて見えてたような……。
「あの刀は【月光刀】っていってね、大昔に作られた刀なの。月の女神様がいた時代のね」
「へぇ~」
なんだかすごそうな刀だな~っておもってたけど、そんな年代物だったのか。
それはたしかにすごいわ。
「エイリスちゃん~。イリスちゃんがまったく関心を持ってくれないの~」
「ブラン、そこは諦めましょう。古い時代のことに興味を持たれないのは普通のことだと思いますわ」
「うぅ~……。せめて素材が月光鉄だってことに興味を持ってほしかったのに~……」
「あ、そうなんだ?」
エイリスに泣きつくブランから奇妙な言葉が漏れ聞こえてきた。
どうやらあの刀の素材は月光鉄だったらしい。
昔は結構ありふれていた素材だったんだな。
「はっ!? 私としたことが……。イリス様、月光鉄をどのようにして入手されたのですか!?」
フリーズ状態から無事再起動した宗家さんが俺に詰め寄る。
なんでそんなに必死なんだよ……。
「いや、俺が作ったんですけど……」
「なんと!?」
宗家さんはまたもやフリーズしてしまった。
一体何なんだよ……。
「はー、よくわからないけど、とりあえず辰巳さんとの約束通り、月の遺跡とやらに行ってみるか」
「そうですね、その方がいいでしょう」
「賛成よ」
「面白そうです!」
「月の遺跡、興味があるわ」
「月の遺跡といえば書物に描かれていたわよね」
「ん」
他のメンバーも特に異論はない様子。
というわけで、さっそく出発だ。
「ではこちらです。わたくしが案内いたしますわ」
「お願いします」
そんなわけでエイリスを先頭に、俺たちは月の遺跡を目指して歩き出したのだった。
月の遺跡まではそんなに時間がかからないようで、1時間ほど歩いたところでとある廃墟にたどり着いた。
廃墟の中心には三日月のようなモチーフとオベリスクのような物が1つ。
その周囲は元々建物があったのだろうが、崩れて瓦礫の山と化していた。
「ここが月の遺跡ですわ。元々何かがあったらしいのですが、わたくしたちも詳しくは知らないのです。ただこの塔を中心に周囲にいくつかの建物が建設されていました。主には礼拝堂の用途でしたけど」
「あー、懐かしいわね~。たしか書庫とかもあったはずよね」
「はい。そちらは無限図書館に移動しています」
どうやらこのオベリスクのような小さな塔の周辺には色々な施設があったらしい。
その当時の姿はわからないけど、それなりに栄えていた場所なのかもしれない。
街っぽいかと言われると違うけど。
改めて周囲を確認してみると、中心付近以外にも崩れた廃墟がいくつも存在していることが分かった。
「やはり何もありませんね。ここはずっと謎のままでした。従者たるわたくしたちでさえ何も知らなかったのです」
「ふぅん」
エイリスの説明を聞きながら周囲を確認する。
やはり廃墟以外には何もないようだ。
結局なんなんだろうか、ここ。
とりあえずオベリスクのようなものを少し確認してみよう。
というわけで本当はあまり良くないのだろうけど、中心のオベリスクのようなものをよく確認するために軽く手で触れることにした。
もしかしたら文字とか絵とか刻まれているかもしれないし。
ほら、エジプトとかそんな感じっぽいじゃん?
「なぁ、この塔みたいなのって調べたりしたのか?」
一旦だれか調べたのかを確認してみることに。
するとエイリスに抱き着いていたブランから「調べたことはあるわよ~?」という返事が返ってきたのだ。
「で、どうだったんだ?」
「それがね~、何も彫られていないつるつるとした表面だったのよ~」
「あー、そういう感じか……」
ブランの言葉を聞いてふと頭に浮かんだのは宇宙からやってくるタイプのオベリスクだ。
表面に何も刻まれていないということは、何かの記念のものとは考えにくいだろう。
もし何か記念のものだったら、そういったものが刻まれているからだ。
「まぁ、見てみますか」
とはいえ、謎のオベリスクは男心をくすぐるというもの。
早速俺はその表面に軽く振れた。
「は?」
するとどうしたことだろう。
オベリスクは俺が振れると同時に一瞬光を発し、俺をずぶずぶとオベリスクの中に引きずり込んでいくではないか。
「イ、イリスちゃん!?」
「イリス様!?」
ブランをはじめみんなが驚く中、俺は一瞬みんなを見ることができただけですぐに引きずり込まれてしまったのだった。
そう、まるで沼に入り込んでそのまま沈み込んでいくように。
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