第55話 星の里にて
精霊の国は人が辿り着くことのできない場所に確かに存在していた。
俺たちはしばしその場に立ち止まり、遠くに見える城や街を見ながら思いを馳せる。
少なくとも普通に生活していたら見られない光景だっただろうからな。
「本日は素通りですが次回は向えるように調整致しますわね」
「はい、お願いします」
「おねがいしまーす!」
人間側である俺とあいなはそっちにも興味津々だ。
ぜひ精霊の国の探索もしていきたいところ。
まぁとりあえずは【アルタイ】の街へ行くことが先決なんだけど。
「ではこのまま進んでいきますわね。【アルタイ】方面はそこまで遠くはありませんので」
エイリスの言葉に従い、俺たちは虹の橋を進み続ける。
しばらく歩き、精霊の国の景色が遠ざかり始めたころ、別口の光の渦が現れたのを確認。
そのままエイリスが進んでいくので、俺たちも続いて進んでいく。
「ここが【アルタイ】の街近郊にある【星の里】です」
「ここが……」
光の渦を出てすぐ目に飛び込んできた光景。
それは日本の片田舎のような長閑な農村の風景だった。
服装は様々なようでドレアでも見かけたような服を着た精霊や、この辺りの服ではない装いの精霊、日本の古い歴史に出てくるような装いの精霊たちがそこにいた。
建物は茅葺屋根に土壁だったり石造りの建物だったりが混在している。
通りには茶屋があり、団子と漢字で書かれた幟が立てられていた。
「漢字ですね? まさかこっちでもお目にかかれるとは」
あいなは漢字に興味を示しているようだ。
そういえばこっちの世界でのことをちゃんと教えてなかったな。
「漢字は【武蔵国】や【龍国】でも使われてるぞ。移民者たちの国だしな」
「ほぇ~、そうなんですね」
「前に話したと思うけど、結界塔の中に梵字が刻まれてるって言ったろ?」
「そういえばそうでしたね! すっかり忘れていました!」
ドレアとかほかの地域では使われていないだけで漢字は確かにこの世界にも存在しているのだ。
漢という国がなくてもね。
「それにしても、穏やかなところですねぇ~」
「だな~。俺も来たのは初めてなんだよ。まぁ勇者パーティーにそのままいたら【アルタイ】くらいまでは行ってたかもしれないけど」
「なるほど」
勇者パーティーにいたころは主に人族メインの国であるアルトマ国が中心だった。
そのためエルフの国であるアイネティスの方面はほとんど来ることがなかった。
「でもその勇者パーティーはいつかこちらに来るんですよね? 何しに来るんです?」
「前聞いたろ? 王家の秘宝である【精霊の鏡】が必要って。そのためだよ」
「あぁー! 興味がないのですっかり忘れてました」
「お前なぁ。まぁいいけど」
実はその精霊の鏡にはちょっとした罠というか、真の力を解放するための仕掛けがされているらしいのだ。
ライルのやつはそのことを知らずにそのまま使うだろうから、どうなるか楽しみだな。
ちなみに俺はその仕掛けについて師匠に聞かされている。
まぁざまぁじゃねえけど、ちょっと愉快なことになるから楽しみにしていてほしい。
「どうしたんですか? イリスさん。ニヤニヤしていますけど」
「ん~? な~んでもねーよ」
「ふむ? なんだかニヤニヤした顔が悪い顔みたいに見えてちょっと背徳感を感じます!」
「なんでだよ……」
こいつの感性はよくわからん。
「【星の里】は初めて来たわ」
「【星の里】は来る用事なかったものね」
どうやらエリアとグレースもここは初めてのようだ。
俺も初めてなので何があるのかすごく気になる。
「おい見ろよ、人間だぞ? どうやってここにきたんだ?」
「周りに中級精霊と大精霊がぞろぞろいるぞ。どうなってんだ」
「あの先頭にいるの、エイリス様じゃねえか?」
「はぁ? ほ、本当だ。どんな一団なんだよ……」
周囲では特に男性の精霊族がこっちを見ながらひそひそ話をしているようだった。
一応ここでは職業精霊のことを精霊族と呼んでいるので、今後そのように呼ぶことにしようと思う。
「さ、行きましょう。里長のところへ向かいます。こちらです」
エイリスに先導され、星の里の中を突き進んでいく。
色々と好奇の視線に晒されながらも、しばらく歩いた後、一際高い場所にある少し大きめの屋敷へとたどり着く。
屋敷の前には門番が2人。
どちらも戦闘系の精霊族だった。
「これはエイリス様。ようこそおいでくださいました。お連れの方については聞き及んでおります。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます。さ、イリス様。こちらへ」
門番に先導され俺たちは門を抜け屋敷の中へと入っていく。
屋敷は大きな庄屋の屋敷のような形をしており、いくつもの建物が渡り廊下で繋がっていた。
その中には里の業務を担当する部署の部屋などがあるようで、行政庁舎のような役割も担っているようだ。
「いくつもの建物があります大部分はこの地域に関する建物であったり資料室になっています。里長の執務室は奥のほうにありますがそこまで遠くはありませんよ」
「なるほど」
正直あちこちに建物と部屋があり、それぞれを渡り廊下で繋いでいるせいでどこに何があるのかさっぱりわからない。
中庭もあるのである程度目印にはなるようだけど、1人だったら迷って途方に暮れているかもしれない。
そんな大きな屋敷の中を俺たちは少しずつ進んでいく。
やがて周囲に建物が少なくなり、一際大きな建物が見え始めた頃、先導していた精霊族の人がこちらを振り返った。
「こちらが里長の執務室です」
そう案内されたが、その建物は大きい以外には何の特徴もなく、里長の執務室と言われなければ何もわからないような装飾もないものだった。
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