第42話 薬と店舗と肖像画
ロリババアである師匠に身体が成長しない呪いを掛けられたのでさっさと聖域の森を出てドレアの店に戻ってきた。
するとウィルさんが現れて俺に伝言を伝えに来てくれたのだ。
内容は「ジェームスさん来た。承諾した。帰った」という謎の短文。
察するにブランかアルテミシアが対応したのだろうけど、たぶんブランだ。
ブランは俺の秘書的な役割も担ってくれているからな。
で、伝言を残したのはアルテミシアだろう。
「ウィルさん、ありがとう。とりあえず商談は纏まったらしいから一旦ターレスに戻るよ」
「うん、イリスちゃん、気を付けてね」
ウィルさんと別れて早速ターレスの店舗へと戻る。
すると今度はブランがこちらにやってくるのが見えた。
「イリスちゃん、おかえりなさい。ジェームスさんが来てたんだけどこちらで条件整えて承諾したけど問題なかったかしら? 一応事前に話し合っていた通りにしたんだけど」
「あぁ、それで問題ないよ」
ブランたちとは事前にジェームスさんが来た場合の商談の意識合わせを終えておいた。
条件はそう多くはないが以下のものがあげられる。
1.鉄の含有率は70%あるため70%未満という結果が出た場合商談を取りやめる。その場合再度こちらで確認する。
2.突然の買取価格引き下げを伝えられた場合商談を取りやめる。ただし引き上げについては問題なし。
3.採掘場との交渉権はこちらにのみ存在し、譲渡や買取は不可能。
たったこれだけだ。
「鉄の含有率は70%以上でどれも最高品質なこと、10キロあたり450ブラウで買取を行う。採掘場との交渉権についてはターレス商業組合は関与しないし買取や譲渡の交渉も行わない。で完了したわ」
「さすがブラン」
上々の成果と言えるだろう。
特に買取価格の引き上げは嬉しい。
「純度の高い鉄鉱石なら色々と助かることもあるでしょうしね。全量売りに出すとかなりの儲けになるけど、100キロずつの小出しにするのよね?」
「その予定。まぁあとでまた採掘場に行って交渉してみるつもりだけど。あぁそれとこれ、師匠から爺さんにって」
俺は乳白色のポーションを取り出してブランに手渡す。
「これ、何かしら」
「魂の傷を癒せる魔力回復魔法薬だってさ。例の」
しげしげと瓶を眺めながら確認していたブランに鑑定結果の効能を告げる。
するとブランの動きがピタリと止まり、こちらを見つめてくる。
「それ、本当? となるとルナクルス様からかしら……」
「たぶんね。ちょっと届けてきてよ。俺はこっちにいるからさ」
「そうね、ちょっと行ってくるわ」
ブランはそう言い残すとすぐに祖父の邸宅へと向かっていった。
師匠の言葉ではこの魔法薬の作成者はバレてはいけないようだけど、まぁぶっちゃけ興味はないので成果も結果もまるまる全部師匠に押し付けてやるつもりだ。
「そういえば珍しく誰もいないな」
誰もいないターレスの店舗を見回しながら1人で呟く。
どうやら他のメンバーは全員外に行っているみたいだ。
「さて、俺もちょっとだけ見て回ってくるかな」
1人で見て回りたいのでメンバーには見つからないようにしたい。
「とりあえずは商店街か市場かねぇ」
というわけで早速移動を開始。
-- ターレスの街中央商店街 --
早速やってきたのは中央付近にある中央商店街だ。
ここは他よりも大きな商店街らしく、色々なものが揃っているらしい。
そんな中、1つの商店の品物に目が留まった。
題名【美しき魔女グレモリー】と題されたその肖像画は身長の高い大人の美しい女性として描かれている。
「ぶはっ、こ、これが偽りの姿ってことか! めっちゃうける!!」
思わず吹き出してしまった本人とは完全にかけ離れた嘘の姿。
いやぁ傑作傑作。
これ買っていって本人に見せてあげるべきだろうか。
そんなことを考えていると、ふいにわき腹をつねられてしまった。
「いてっ!?」
振り返るとそこには笑顔で怒っている師匠の姿があったのだ。
「いい度胸だねぇ」
「いや~、これはさすがに笑っちゃうでしょ。あー面白い」
「仕方ないだろう? あいつらの前にこの姿で出て行ってみな。侮られるだけじゃなくて子ども扱いされるだろ? だから必要なことなのさ」
若干困惑顔で、諦めたような表情を見せる師匠。
思わずまた余計な一言を言ってしまう。
「う、美しきだって! あはは! お、お腹痛い~! どっちかというと愛らしきだろうに! くひひ」
「お前ねぇ、あんまり馬鹿笑いするでないよ。あたしがお前に折檻しないからって……」
「いや、ほんとうにごめん、でも、これは、さすがに……」
ひとしきり馬鹿笑いをしていたら周囲から怪訝な顔で見られてしまった。
だけど、そんな視線の先にいる俺と師匠の姿を見て周囲はすぐに和んでしまう。
小さい子と思われるのは癪だけど、こういうときだけは便利だと思う。
そういえば、ふと思ったがこの街で師匠の姿を知っている人はどれだけいるのだろうか。
周囲の反応を見る限りでは師匠の姿と言えばこの絵画の姿なのだろう。
本当の師匠の姿を知っている人間はあまりいないのかもしれない。
「ひぃひぃ。いやぁ、笑った笑った。まぁ師匠が来たことにも驚いたけどね」
「ふん。開通したようだから来てみただけさね。しかしなかなかの物件を用意できたようじゃないか。そこまでの資金なんてなかっただろう?」
どうやら師匠はこちらの様子を見に来てくれたらしい。
そんなところに爆笑している俺がいたもんだからむくれてしまったようだった。
「資金ならアルマたちが用意してくれたものを使ったよ。十分返ってくるはずだしな」
「そうかい。言えばこちらから資金も出したんだけどねぇ」
「いやいいよ。どうせいずれ必要になるものなんだし。それにアルマたちもこういう時のためにって用意してくれてたと思うんだよね」
俺的には今回の店舗確保に当たって師匠には資金の捻出を求めたりはしなかった。
小さくても稼いだお金で店舗を用意しようと思っていたし、そこまで師匠にお願いするのも気が引けたからだ。
「お前がまた別の街に行くときはちゃんと言いな。しっかり管理してやるからね」
「うん。お願いするよ」
しばらくはこの街のこの拠点をどうにかして、それからまた旅に出ることになるだろう。
いつか大陸中の街に店を構えることになるのかな。




