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第41話 奇妙な病の話を聞いた日の出来事

 不思議な声を聞いた翌日、朝食の席で祖父から奇妙な話を聞いた。

 なんでも祖父の妹さんの息子さんの娘さんが奇妙な病にかかってしまっているのだという。

 俺からすれば、たしか【またいとこ】というやつだったか? まぁそんな感じの子だ。

 ちなみに俺は一度も会ったことはないし、その子は別の国に住んでいるらしい。


「それが奇妙な病でな。魔力はあるし魔法も使えるようなのだが、魔力が溜まるどころか抜けていくそうなのだ」


 そう事情を話す祖父の顔は真剣なものだった。

 どうもその影響は体調にも及んでいるらしい。


「常に魔力が抜けるのでふらつくことも多く、頭痛も多いようなのだ。頭の病気ではないことはわかっているし、魔力を一時的にでも保持できているので、元々魔力がないわけでもない。考え得るのは魔力を溜めておく部分が損傷していることだけだが、魔力を溜めておく器官は人間の身体には存在しないのだ」

「魔力は精霊力と同じく魂で保持するのよ? だから魂に何らかの問題が起きればそういった影響も出てくる。でも魂の修復なんて出来ないわ。人間にも精霊にも」


 祖父の話を補うようにブランがそう口にする。

 つまり問題は魂の部分ということだが……。


「魂ねぇ。師匠は……まぁ関わらないだろうな」

「グレモリー殿にお願いすることは避けねばならんのだ。いや、正確にはできないといったほうが正しい」

「そうねぇ」


 祖父に限らずうちの師匠である母方の祖母グレモリーは人間の願い事を聞き入れることはほとんどない。

 せいぜい知り合いを紹介して問題解決をはかるだけだ。

 つまり、この奇妙な病の治療はそもそもが不可能ということだ。


「それにグレモリー様は魂の修復は専門外よ。ルナクルス様もしくはとっくに失われた月の女神様だけね」

「なるほどなぁ。つまり手詰まりってことか」


 こればっかりはどうしようもないという話で、この件は打ち切りとなった。

 母にも師匠にもできないのなら俺にもどうこうすることはできない。

 ルナに頼んでもいいけど、ルナに頼んだ対価を他の者が払えるわけがない。


「どこかで勇者やそれに連なるような英雄が治療できる神器のようなものを手に入れないと解決しない話か」


 残念だけど、またいとこの問題を解決することはできそうになかった。

 運よくライルのやつが手に入れでもしない限り無理だろう。

 聖女であるソフィですら無理なのだから。


 その後、俺たちは揃って一度ターレスの街の購入した店舗へと向かった。

 ジェームスさんが来る予定があるからだ。


「さて、ターレスの街に店舗を確保したのでドレアの街の店舗と転移陣を繋げるぞ」

「ん!」

「これであの退屈で長い時間が0秒に短縮されるんですね!」

「まぁ1分くらいはかかると思うけどな」


 ともかく、7日間の道のりがあっという間に短縮できるのだから転移陣はある意味で商業破壊行為と言えるのかもしれない。

 それから少し後、アルテミシアが店舗内に転移陣を描き、ドレアの陣と直接繋ぐ作業を完了させた。


「ん。完了」

「よし、ありがとな。それじゃ向こうに行って師匠に伝えるか」

「ん!」

「そうね~」


 俺はくっついてくるアルテミシアの頭をぐりぐりと撫でて次の行動を決める。

 そんな中、寂しがりのあいなが羨ましそうにアルテミシアを見ていたので俺はスルーすることにした。

 過度に甘やかしてはいけないのだ。


「イリスさん! 私にも甘やかしが必要だと思いませんか!?」

「そうは思わないな」

「思ってください!」


 せっかくスルーして視線を逸らしたのに食い付かれてしまった。

 行動早くない?


「あーもー。しゃーねーなー。ほれ」

「にゅふふ~」

「笑い声がきもいんだが」

「つーん」


 やはり過度な甘やかしはだめだな。

 そんなこんなで甘えん坊の対処をしつつ、俺は1人ドレアの店舗へと転移した。

 ついでに少し師匠に相談したいことがあったためだ。


「ただいま~」

「あれ!? イリスちゃん!? いつ来たの!?」


 一声かけるとすぐに現れたのは水の精霊ミューズさんだ。

 まぁ大抵店舗にいるのでウィルさんと同じく簡単に捕まえることができる。


「今さっき。ターレスに店舗を確保したから一回戻ってきたんだよ」

「おぉ!? うそほんとまじ!?」

「どんな驚き方だよ……」

「いやいや、さすがにびっくりしちゃって。でもこれである意味イリスちゃんの城を手に入れたってことだよね~」

 「かもな」


 ミューズさんのテンションはいつも高めだ。

 まぁまぁドジっ子でもあるのであいなと同じく愛され系なのだろう。

 なんだかんだ言って人気は高いようだしな。


「そうだ、師匠いるか?」


 早速もう1つの本題に取り掛かる。


「今は聖域の森だね~。そっち行ってみたらどうかな?」

「あー、そっか。わかった、ありがとう」

「気にしないで~」


 どうやら師匠は今聖域の森にいるらしい。

 まぁちょうどいいので、俺も店内の転移陣から聖域の森の小屋という名の師匠の家兼俺の家に直接移動することにした。

 

 転移陣から直接聖域の森の小屋に転移するが、小屋の中には誰もいない様子だった。

 師匠の生活痕はあるのでちょっと出ているだけだろう。

 なので俺も小屋の外に出る。


「なんというか7日ぶりってところか」


 聖域の森は不思議な光に溢れている。

 地面から湧き上がる光の玉は上へ上へと昇っていくと聖域の森上空にある虹色の光の層に溶け込んで消えていく。

 そう、この森はある種の別の領域なのだ。

 

「おや、お帰り」

「ただいま」


 しばらく外を見ていると師匠が返ってきた。

 相変わらず年寄り臭い言動のくせに若々しい見た目をしている。


「なぁ、師匠ってなんでいつもその姿なんだ? さすがに成長した姿あるだろ?」


 ちょっと気になっていることを師匠に尋ねる。

 これは保身のためでもあるのだ。


「あるわけないだろ。お前が常にロリババアって言ってるようにこれが本当の姿だよ。人前に出るときは嘘の姿をしたりはするけどね。お前もいい加減諦めな」

「はは……。さすがに俺は師匠よりも成長するよ。きっと大きくなって胸もこうどーんと」

「ないね。あたしだってぺったんなんだ。ティアナが特別だったんだよ。それでもあたしより少し高くて少しだけ大きい程度だったしね」

「嘘だろ!?」

「さらに酷なことを教えてやるよ。お前はあたしより小さい。つまり一番小さくて貧相ってわけだ。受け入れな」

「や、やめろよ……」


 このばばあ、ひどい呪いをかけてきやがった。

 まさか、俺が師匠よりさらに小さいままだって? 悪い冗談にもほどがあるというものだ。

 見ていろ、きっとすごい成長をしてやるから!!


「っと、そうだ。師匠の体型をいじっている場合じゃなかった。アルテミシアの拠点で作ったものなんだけどさ、この魔法薬どう思う?」


 そう言って師匠の前に昨夜作った白い魔法薬を手渡した。

 ミルクのような色合いなので乳白色ポーションとでも言っておこうか。


「……。一体どこでこれの作り方を学んだんだい?」


 そう話す師匠の表情は真剣そのものだった。


「んー。昨夜深夜にアルテミシアの拠点にある錬金術室にいたんだよ」

「ほう」

「そこで月を見ていたら、どこからか声が聞こえてきてさ。その声が教えてくれたんだ」


 あれは不思議な体験だった。


「それだけかい?」

「声の主はいなくて、声は俺自身だって言ってた」

「そうかい」


 師匠はそれだけを口にすると、小さな手の中で魔法薬を確認し始める。

 そして一通り確認すると結果を教えてくれた。


「これは月の光で作る魂を癒す魔法薬だね。一度にある程度の魔力を回復し、その後も徐々に回復していく継続効果がある。それと同時に魂の傷を癒すものさ」

「そんな効果があるのか」


 師匠は感慨深げにそう口にしたのだった。


「このことはアルテミシアやブランには言わなくていい。もちろん月影にもね」

「? まぁ言うなってんなら言わないよ」

「そうしな。あぁ、そういえばあの爺の妹の息子の娘が魂に損傷を受けているらしいね。この魔法薬なら治療できるだろう。爺にあたしからだって伝えて渡しな」

「あ、あぁ。わかった」


 師匠は俺に白い魔法薬、乳白色ポーションを返してきた。

 そして再び口を開く。


「それともう1つ分かったことがあるよ」

「ん? なに?」

「お前はやっぱりそれ以上成長しないってことだよ。身長も胸もね」

「なんでだよ!」

「ふん」


 このばばあ言うに事欠いて……。

 前世が男だとしても今は女の身体で生まれて来たんだから絶対に成長してやるからな!!

 今に見ていろ!

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