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第40話 月に導かれて

 その日、俺たちはなぜか宿屋ではなく祖父の邸宅の一室に泊まることになった。

 宿屋の方には別途連絡してくれるとのことだったのであいなの希望もありそうなったという感じだ。


「はぁ……。なんだか散々な目に遭った気がする……」

 

 今俺は誰もいない拠点の錬金術室にいる。

 祖父の邸宅の一室をこの場所に繋げ、夜間だけでも逃げ込んできたという具合だ。

 というのも、久々に俺を見つけたお付きのメイドたちによるお世話攻撃を受け続けていたからだ。

 挙句お風呂のお世話までされてしまったのだから俺だって困惑して逃げ出したくなるというもの。


「しかし、こんな時間になるとさすがに誰もいないか」


 部屋からこっちに来た時点で22時くらいだったはずだ。

 ちなみにこの世界も1日24時間だったりする。

 そしてこの世界も、俺が今いる拠点のある空間も月は1つだけだ。


「月かぁ。最近はゆっくり見る機会はなかったな」


 久々に見る月はなんだか目に染みた。

 こう表現しがたいのだけど、月に不思議と懐かしさを覚えることがある。

 どう見ても地球の月と同じで生命も空気も存在しない空虚な衛星でしかないのにだ。


「やっぱりこの空間の月も向こうの月も、同じ空虚な衛星なのかな……」

『そう。でもあの月の先には特別な空間が作られている』

「?」


 突然聞き覚えの無い女性の声が聞こえて来た気がした。

 周囲を確認してみても誰もいない。

 精霊の気配もないのだ。


「見えない存在……? 幽霊とかかな?」

『私は幽霊じゃない。でも、私の声は貴女にしか聞こえない』


 どういうことだろうか? 仮に神の声だとしても今の俺にはルナの声も聞こえない状況なのでありえないことだと思う。

 相応の場所以外で神の声を聞くには神託スキルが必要になるからだ。


『神様なんかじゃないよ。貴女が【精霊を繋ぐ力】を手に入れたから私は話しかけられるようになっただけ』

「じゃあ精霊?」

『それも違う』


 謎の声は神でも精霊でもないという。

 となると、残された可能性は本来この身体に宿るはずだった魂だろうか?


『貴女の身体にはもともと宿る予定の魂はなかった。神族の子は適正のある魂を受け入れて完成するから。だからその身体は貴女自身の身体で間違いない』


 謎の存在はなんとなく、色々なことを知っているなと感じた。

 本当に何者なんだろうか。


「だとしたら俺には適正があったと? それとなんで今まで話しかけられなかったんだ?」

『貴女にはもともと適性がある。今まで話せなかったのは常に誰かがいたから。今はいない。それが違い』

「じゃあ追加でもう1つ。いつでも出てこられるのか?」


 一番気になるのは、この謎の声はいつでも俺に話しかけられるのかだ。


『いいえ。月が出ている深夜のみ。そして貴女と私だけがいる場合だけ。場所もここだけだよ』

「つまり今ってことか」

『そう。ねぇイリス』

「なんだ?」

『貴女は魔法錬金を覚えた。だから貴女にしか作れないレシピを貴女に教える。他の存在には再現できないレシピ』

「俺だけのレシピ……?」


 謎の声は俺に独自のレシピを教えると言い出した。

 これでさらに謎が増えたわけだけど、1つ分かるのはこの声は魔法錬金に詳しいということだろう。


『まずは魔法液を釜に満たす。そして火の精霊の力で火を熾す』

「火の精霊とはまだ契約してないんだけどな」

『大丈夫。まだちゃんとした繋がりは得られてないけど、ルビーの力を貴女は導けるから』

「?」


 繋がりを得られてなくても力を導けるとはどういうことだろうか。

 相手の力を使うには、最低でも同意を得る必要があるはずだ。

 そんなのどこで……。


『ほいよ。んで、当然アタシとも契約するんだよな??』


 そうだ、ルビーはずっとそう言ってた。

 そうか、本当はもう繋がってたのか。

 正式な繋がりとして契約しなかっただけで……。

 だとしたら、ブランも……?


『思い出せた? ならそのまま火を熾して』


 謎の声に導かれるまま、釜に魔法液を満たし、火の精霊の力をいつもの火の代わりに配置する。

 しばらくすると魔法液はいつもと同じように沸騰を始める。

 魔法液は不思議な液体だ。

 どんなに多く入れても一定の温度で必ず沸騰を始めるのだ。


『じゃあまずは薬草からいつもの魔法薬の元を作って』


 導かれるままに、魔力回復効果のある【クリネ】の粉末、精霊石の粉を釜に投入する。

 すると釜の魔法液の色は水色となる。

 ここまでは通常の魔法薬の作り方だ。


『次。空に月が見えるでしょ?』

「うん」

『手を翳して、月の光を掴んで見せて』

「月の光を、掴む……?」


 謎の声は突然意味不明なことを言いだしたのだ。

 ヒカリを掴むとはどういうことか。


『握るようにして』


 言われるがままに月の光に手を翳し、軽く握る。

 すると握った手の隙間から白い粉が零れ始めたのだ。


『それを釜に入れて』


 指示通りに謎の粉を釜に投入する。

 するとさっきまで水色だった魔法液は白色に変化したのだ。


「なんだ、これ……」


 こんな魔法薬は全く聞いたことがなかった。

 魔力回復の魔法薬といえば青系で体力回復の魔法薬は赤系がほとんどだったからだ。


『この魔力回復の魔法薬は摂取した瞬間にある程度回復させて、じっくりと効果が切れるまで継続して回復させる。月の光と大地の恵みが合わさって生まれた物。これは貴女にしかできないもの。その理由はいつか貴女が思い出したら教える』

「いつか、思い出す……? なぁ、お前の名前はなんだ?」

『私はイリス。貴女だよ』


 声はそれを最後に聞こえなくなった。

 釜の中に白色の液体だけを残して。


「何者なんだ……?」

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