第39話 祖父の邸宅での出来事とあいなの推理
一度夕食を食べた俺たちは、なぜか休むこともなく外を歩いている。
向かうは祖父の別荘的な邸宅なわけだが……、正直行きたくない。
でもブランはせっかくだからと言って強く勧めてくるので断り損ねたのも事実だ。
というかたぶん断れば祖父の体裁が悪くなるからだと考えたんじゃないだろうか。
俺たちは無言の祖父に続いて歩き、とある大きな邸宅の前にやってきた。
するとさっそく祖父を見た門番が驚いた声を上げて出迎える。
「お、御屋形様!? ずいぶんお早いお帰りで」
「あぁ、なに。ちょっとな。少々連れもいるのでそのまま入らせてもらうぞ」
「お連れ様、ですか? しょ、承知いたしました!」
門番の男性はそう口にすると、さっと左右に分かれ頑丈そうな門を開ける。
祖父が進むと俺たちも続く。
その一瞬だが、門番は俺たちのことを確認するように見ているように感じた。
「あんなお若い方や精霊まで引き連れて、御屋形様はどうなさるのだろうか」
「さぁな。俺にはわからんよ。買ったという雰囲気ではなさそうだ」
「気になるなぁ。メイドたちに聞いてみようかな」
「それはやめておけ。俺たちは別口で雇われているが、中の人間はさらに別口だ。余計なことを知ったらどうなるかわからん」
「だよなぁ……」
そんな会話を背後で聞きつつ、俺は祖父に続いて邸宅の中へと入っていった。
「ほえ~。外観も大きかったですけど中も広いんですね~。なかなか質素な見た目ですが品が良いというかなんというか」
「はは。華美な物は好まぬだけよ。質素に見えても品が良いならそれが良い」
「なるほど、奥が深いです」
「お前は本当に色んなことに興味津々だな」
「もちろんです! 今のこのよくわからない状況にもわくわくしています! あ、まだネタバレは禁止でお願いします! 今推理していますので!」
「そうかよ……」
あいなの頭の中は一体どうなっているんだろうか。
一度覗いてみたい気分になるよ。
「お帰りなさいませ、旦那様。それとお連れ様方……ブラン様!?」
「あら~、元気そうね? 今は職を変えたのかしら?」
「えぇ、おっしゃる通りです。代替わりしましたため、新たに旦那様のために創設された家の執事長を務めさせていただいております」
「キレ者の貴方がいなくなると困るんじゃないかしら」
「そうかもしれませんね。しかしブラン様がいらっしゃるということは……」
「えぇ、いるわよ?」
ブランがそう口にすると、そっと俺を前へと押し出す。
「よ、よう……」
いつも通りの挨拶。
昔もこうだったが、そんな挨拶を聞いた執事長は目に涙を浮かべて微笑みながら俺を歓迎する。
「い、イリス様……。よくぞ御無事で……。じいは……じいは……嬉しゅうございますぞ」
「おおげさだっつーの。うちの母方の祖母が迎えに来たのは知ってるだろ?」
「えぇ、存じております。ですが、やはりこうして再び再会できたことが嬉しいのです……」
「お、おう……」
どういうわけか、父は平等に子供を可愛がっていたが父方の祖父は俺をこれでもかというほど可愛がった。
その影響は現執事長やほかの祖父に使えている使用人たちにも及び、まるで一国の姫かのように可愛がられてしまったのだ。
そうなると面白くないのは俺より上の兄妹である。
俺の能力もそうだが光の大精霊である職業精霊のブラン、父方の祖父、その使用人がまとめて俺を可愛がる光景に嫉妬しないわけがなかった。
まぁその結果が今何だけども。
「イリス様がいらっしゃったと聞きましたが本当ですか!?」
「イリス様はいずこに!?」
あちこちから集まってくる老若男女の使用人たち。
俺が知る限り、祖父の使用人のほか母の侍女たちも混じっていた。
どうやら俺の関係者は全員一か所に集まっていたようだ。
「相も変わらずお可愛らしい」
「一番成長される10代前半を見守る機会を丸々失うとは……なんと運の無いことか」
「昔からやんちゃでしたが今も変わらず男らしい口調なのですね」
などなど、俺は言われたい放題撫でられたい放題となってしまっていた。
「そういえばイリス様、お聞きになりましたか?」
「ん? 何をだ?」
不意に使用人の1人が俺に問いかけてきた。
「イリス様の妹君は現在お二人いらっしゃるのですが、イリス様を慕っていたすぐ下の妹君がイリス様の捜索依頼を出されているそうです」
「あー。ちらっと聞いたな。けどあっちには俺は行かないぞ? 今回ここに居るのもあくまでうちの祖母の意向だからな」
「なるほど、それで……。承知致しました。私どもも今回のことは報告に載せないことに致します。グレモリー様との契約もございますので」
「頼む」
ちなみにこの使用人は改めて俺の妹の人数を確認したが、俺が出た後に生まれた子なのでその二人目には会ったことがない。
なので俺の認識ではまだ妹は1人ってわけだ。
「いずれは妹と会えるといいわね? イリスちゃん」
「タイミング次第じゃねえの。しらんけど」
「ふふ、そうね」
ブランは悪戯っぽく微笑む。
「イリスはやっぱり不思議な子ね」
「やっぱり半分がアレだからじゃないかしら」
「まぁアレだものね」
「そうそう、アレだから」
「お前らアレアレ言うのやめてくれ……。変なやつとかおかしいやつみたいに聞こえるだろ……」
この双子は絶対分かっててやっている。
真のいたずらっ子はこの2人だろう。
小悪魔系なのかメスガキ系なのか、普通に判断に困る。
「ん!」
「お、おう。そうだな……」
アルテミシアはもはや何のアピールかもわからない。
だけど俺の何かしらを肯定しているらしい。
「なるほどなるほど」
そしてあいなはというと、しきりに頷きながら何かを考えている。
そしてかっと目を開いたかと思うと、あいなはとんでもないことを口にした。
「ようやくわかりました。今までのイリスさんの評判や情報、街で聞いたあまり関係なさそうな噂。混ざらないと思っていたものがついさっき混ざりました! ずばり、イリスさんの正体はアイネティス国の失踪したお姫様ですね!?」
その瞬間、場は凍り付いた。
あるものは困惑し、あるものは苦笑する始末。
そしてブランはというと額に手を当て俯いてしまっていたのだ。
こいつは天才か大バカか、どちらにしても大物であることには間違いない。
「ばーか。んなわけねえだろ? もしも俺がお姫様だったら間違いなく国が滅んでるよ」
だから俺はそう伝えてやるのだった。




