第38話 宿屋で夕食を
あいなが突然訳の分からないことを言いだした。
話を聞く限り、あいなの犬系女子的な行動のせいで犬っぽいと思われていることが嫌だったようだ。
でも結局のところそんな問題は一切合切解決し、また犬系女子ポジに収まっている。
あいなもお年頃という感じだな。
「というわけで宿屋の夕食のお時間です」
「ふむ」
今日は泊まっている宿屋で食事をする日だ。
すでに料金は支払い済みでお任せで頼んでいるので現在着席して料理を待っている最中だ。
「ここの宿は煮込み料理が美味しいそうですよ? 最近は炒め料理を覚えてチャーハンも作っているのだとか」
「チャーハン? この世界にそんなのあったっけな……」
「炒め飯という名前でなら東方のほうにあるそうよ? そのうち行ってみましょう。何でも昔異世界から来た人が建てた国があるそうなのよ」
「へぇ~」
「たしか名前は、【龍国】だったかしら?」
「なんとなく中国的な感じのする名前ですね」
「まぁうちの兄的ポジションの精霊が侍スタイルだし、色々あるんじゃないかな」
「ほほぉ!!」
最近姿を見ない月影兄のことも気になるけど、その龍国についても気になるところだ。
おそらく中国系の転移者が建てた国なのだとは思うけど。
ちなみに日本風の国である【武蔵国】もあるので、いずれそっちにも行ってみたいと思っている。
「月影のいた国は【武蔵国】ね。月の女神様がお作りになられた国よ。懐かしいわねぇ」
しみじみとそう語るブラン。
ブランもその武蔵国方面の出身なのだろうか?
「ん。武蔵国の宮には月の都への転移陣がある。もう誰も起動させられない」
「月の都ねぇ。かぐや姫っぽい話だなぁ」
「ですねぇ」
「そのかぐや姫って何かしら」
「問題がなければ聞かせてほしいわ」
日本の古い物語に食いつくエリアとグレース。
「では僭越ながら私が!」
あいなが率先して竹取物語を2人に語って聞かせるのだった。
「へい、おまちぃ! 牛肉とトマトの煮込みだよ!」
「おぉー、おいしそうです! それにしてもトマトも流通してるんですねぇ」
「ほう? 嬢ちゃん詳しいのかい? こいつぁ何年前だったかな? 航海の果てに新大陸を見つけた船乗りが持って帰ってきた代物でな。まぁまぁ値段は張るんだが味が良くて人気があるんだ」
「へぇ~、地味に品種改良もされてるんですねぇ」
「品種……?そいつぁよくわからねえが、精霊様と異世界人が協力して美味しくしているって話だぜ」
「ほぇ~」
ちょくちょく話に出てくるが、この世界には異世界人がそれなりにいる。
誰もかれもがすごい能力を持っているわけではないが、結構一芸に秀でているらしい。
チート級の力をもっているのはせいぜい勇者くらいだろうか。
「この国じゃ異世界人にも相応の権利が与えられるからな。帰還の目途が立つなら帰還させ、そうでないなら住む場所と身分を与えてるんだ」
「それはすごいですね」
とはいえ、国やふるい習わしに囚われている人たちからの受けはよくないんだけどね。
「私もできることをしっかり頑張らないとですね!」
「そうそう、がんばってね! お手伝いはするわよ?」
「やったー!」
なんだかんだいってブランとあいなの仲も良好だ。
やっぱりあいなは愛され系の才能がある気がするな。
それにしても、この牛肉とトマトの煮込みは思った以上に美味しい。
牛肉が柔らかくて口の中で解けそうになるし良く味がしみ込んでいる。
味付けもおいしくてお代わりしたくなるくらいだ。
まぁ俺の胃にはそんなに入らないんだけど。
「これおいしいですね!」
「あらほんとう」
「人間、やるわね」
「想像以上よ」
「ん!」
あいなも精霊組も満足している様子だ。
これは拠点での食事のハードルが上がりそうだ。
「そういえばふと思ったんですけど、イリスさん。この世界にはお味噌やお醤油はあるんでしょうか?」
不意にあいながそんな言葉を口にした。
たぶん武蔵国の話が出たせいだろう。
「あるぞ? 月影兄からも定期的に送られてくるし」
月影兄の居場所は不明なものの、荷物は定期的に送られてくる。
その中にお米にお醤油、お味噌などが入っているのだ。
「なんと! ってそういえば拠点での食事にもありましたね、お味噌汁」
「自然すぎて気が付かないだろうけどな」
ただしぬか漬けはやったことがないので手を出せないでいる。
詳しい日本人を見つけたら弟子入りしたいところだ。
「さぁお次は炒め飯だ! ゆっくり食べてくれ」
「おぉ~。これが噂の炒め飯」
「普通に頼むとなかなか高いから気をつけろよ?」
「ぐぬぬ……」
炒め飯の見た目はやはりチャーハンであった。
使用する油もごま油を使っているようなので結構な高級料理に分類されるはずだ。
実際油をたくさん使えるのは貴族か料理屋くらいのものだしな。
「ぱらぱらチャーハンですね。おいしそうです。では早速。ん~~~~!!! んんま~い!!」
一口食べて足をばたつかせるあいな。
どうやらこっちもお気に召した様子だ。
「これはいけるわね」
「新鮮な感覚ね」
「新しい感覚だわ」
「ん!」
精霊組にも受けがいい様子だ。
ただアルテミシア? 全部「ん!」なのはどうなのかな。
「拠点でもこれくらい作れるようにはしたいなぁ。ちょっと本腰入れて頑張ってみますかね」
「おぉ~、楽しみです!」
あいなはなんでも美味しそうに食べるので結構作り甲斐がある。
料理店レベルは難しいかもしれないけど、ちょっと頑張ってみますかね。
そんなことを考えていると、にわかに店の前が騒がしくなってきた。
団体さんでもきたのだろうか? そう思い視線を向ける。
「店主。邪魔するぞ」
そこには1人のガタイの良い鍛え上げられた体の老人がいた。
「あぁいらっしゃい。ちょっと若い娘さんたちがいるのであまり羽目を外しすぎないようにお願いしますよ」
「あぁ、心得ている。っと、すまないが少し邪魔させてもらうぞ……。ん? イ、イリスではないか!!」
「げっ……」
そこにいたのは俺の父方の父、つまり祖父だった。




