第37話 閑話 あいなは物申したい
あいなです。
今日、私はどうしてもイリスさんに確認しなければいけないことができてしまいました。
えぇ、常々思っていることでもあります。
イリスさん、貴女、私をちょくちょく犬扱いしてませんか? と。
「それでですね、アルテミシアさん。イリスさんは私を犬扱いしているような気がするんです。どう思われますか?」
真っ先に相談したのはいつもイリスさんに付き纏っている謎の存在アルテミシアさんです。
本人はマスコットの地位でも狙っているのではないかと思えるくらいべったりくっついています。
「ん~。あいなはどちらかというと犬っぽいけど妹扱いされてる気がする」
「ふむふむ。なるほど。妹扱いは嬉しいですけど、そこに犬要素が絡んでくるんですね? なんというか不本意です」
どうやらアルテミシアさんから見ても犬扱いされているようです。
これは疑惑が確信に変わってきましたね。
待遇の改善を求めるべきでしょう。
「おーい、あいな~」
「あ、はーい」
何やらイリスさんが呼んでいます。
「魔法錬金で鉄作ってみたけど【武具錬成】で武器作ってみるか?」
「いいんですか!? すぐいきまーす!」
「お、おう。そんな急がなくてもいいと思うんだけど……」
イリスさんが私のために素材を用意してくれたようなのですぐに行かなければなりません。
では!
「おもちゃ貰って喜ぶわんちゃん……」
アルテミシアさんが何か言ってる気もしますがそんなことは後です。
それからしばらくしてなかなかいい感じのせいかが出ました。
嬉しいです。
「いい感じのショートソードが出来ました。前と違ってスムーズに作れましたよ」
私の扱うスキル【武具錬成】は2通りの作成方法があります。
1つは素材を使って魔法の鍛冶台を召喚、その上に素材を置いて魔法のハンマーで何度も叩くというやり方です。
微調整も可能で上手くいけばいい感じの物ができるのですが、知識が足りなかったり素材が悪いと失敗する確率が増えます。
今回使用したのはこっちです。
もう1つは素材をお手軽製作用魔法の鍛冶台の上に載せて魔法のハンマーで1回だけ大きく叩くというものです。
これはまさに魔法! という感じで一発でそれなりの品質の物ができます。
ただし素材に左右されるのでいい素材でないとなまくらになります。
さらに言えば同じ品質の物しかできないので性能を向上させたり付加価値を付けるならこの方法は使えません。
また鍛冶台の見た目も少し違っていて、作りたい武具を先に選ぶ画面のようなものが付いています。
と、このように【武具錬成】は2つの鍛冶台を使って武具を作ることになります。
最初の普通の魔法の鍛冶台は頭の中で作りたい武具を思い浮かべながら作るの正直少し難しいです。
でもどこを叩けばいいなどの誘導のようなものは見えるので普通の鍛冶師に比べれば楽をさせてもらっていると思います。
「お、やるじゃん。最初のなまくらとは比べ物にならないな」
「あぅぅ……。あの時は落ちていたくず鉄を使って作ってみたもので……」
「なるほどな。まぁこの調子なら俺の作った素材でもっといいものも作れそうだな。期待してる」
「えへへ。ありがとうございます」
なんとイリスさんが頭を撫でてくれましたよ!?
今日はずいぶんとご機嫌な様子です。
「よし、じゃあ俺はちょっと別の用事済ませてくる。またあとでな」
「あ、はーい」
私が返事をし終えるとイリスさんはどこかへ行ってしまいました。
少し寂しいですが仕方ありません。
再度誰かに相談するとしましょう。
次に見つけたのはエリアさんとグレースさんです。
双子の美少女精霊さんで、いわゆる精霊族と分類される職業精霊の子です。
ちなみに精霊と人間のハーフは精霊人と呼ぶそうですよ。
「あら、あいなじゃない。どうしたの?」
「ご主人様がいなくて寂しそう」
「あの、私犬じゃないんですけど」
「あらそうなの? いつもイリスに飛びついてる気がするんだけど」
「まるで大型犬のようよ」
2人から見ても私は犬のように見えているらしいです。
これは由々しき問題です。
「折り入ってご相談があります! その、犬っぽく見えるようなので改善したいなと思いまして」
せめて犬扱いは止めていただきたいわけですよ。
「なら適切な距離感が大事よ?」
「褒められてもすぐに嬉しそうな顔をしない、見かけてもすぐに近づかないとか」
「なるほど。たしかに猫も見知った人がいるからと言ってすぐには近寄らないですもんね」
「そこでどうして猫がでてくるのかしら」
「まぁある意味間違っていないと思うけど……」
何やら困惑しているお二人ですが、貴重な助言を頂いた気もします。
「あと、犬扱いしないでってイリスに頼んでみたら?」
「ちゃんと伝えることも大事よ?」
「たしかに! あとでしっかり伝えてみますね」
「えぇ。がんばってね」
「応援してるわ」
お二人の応援を受け、私はイリスさんにしっかり伝えることにしました。
「あ、ちょうどいいところに。あいなー」
「なんですか? イリスさん」
イリスさんが呼んでいるようなのでちょっと行ってきます。
「あれ? あいな、深刻そうな顔をしてどうしたんだ?」
「え? そんな顔してますか?」
「うん」
どうやら決意が顔に出てしまっていたようです。
これは覚悟を決めて伝えるしかありません。
「その」
「うん」
「犬扱いは止めていただきたいな~と思いまして……」
ついに伝えてしまいました。
おそるおそるイリスさんの顔を見てみると、何やら驚いたような表情をしています。
「あー。たしかに犬っぽいな~とは思ってたけど、嫌だったかぁ。なんか、ごめん」
「いいえ、犬っぽいのが嫌とかじゃないんです! むしろ好きですよ、犬!」
イリスさんが怪訝な顔をして考え込んでしまいました。
もしや言葉のチョイスを間違えましたか!?
「犬扱いは嫌だけど、犬っぽいって思われるのは問題ないってこと?」
「ですねぇ。あれ?」
「それ、結局変わってないんじゃ……」
「たしかに。いえ、少し待ってください。考えを纏めてみます。ところでイリスさんは何か御用があったのでは?」
私がそう口にするとイリスさんは1枚の白い布を取り出しました。
「ハンカチなかっただろ? 俺のおさがりになっちゃうけどあげようと思って」
「!!」
「な、なんだよ」
なんと、イリスさんが私にイリスさんのハンカチをくれるそうです!
どうしよう、なんかすごく嬉しいです!!
「あ、ありがとうございます!!」
思わずイリスさんに飛びついて抱きしめてしまうくらいに嬉しかったんです。
「ちょ、突然飛びつくなって……。本当に大型犬っぽいじゃないか」
「犬でもいいでーす! だって嬉しいんですもん!!」
「あーもうわかったから1回離れてくれ」
「はーい」
イリスさんの言葉に従い離れることにしました。
それにしてもイリスさんは抱き心地がいいなぁ。
「ほら。これあげるからもう俺の服で鼻かむなよ?」
「うへぇ。それは失礼しました……」
「まぁいいけどよ」
イリスさんには言えませんけど、イリスさんの匂いを嗅いでると何となく落ち着く気がするんですよね。
だからついやってしまったところはあります。
「あ、ハンカチからイリスさんの匂いがします」
「え? そうか? さすがに洗ったばかりだからわからないだろ?」
「ふふふ。それはどうでしょうね~? でも、ありがとうございます!」
「まぁよくわからないけど、嬉しそうならよかったよ」
イリスさんはそう言うとまたどこかへと去っていきました。
しかしあれですね、犬扱いしないでくださいって伝えたのに、結果的に犬っぽくなった気がします。
まぁもうしばらくは犬扱いでも甘んじて受け入れるとしますかね。
飛びついて抱きしめられなくなるとそれはそれで寂しいので。
「犬だったわね」
「犬だったわ」
エリアさんとグレースさんが遠い目をして私を見ていました。
やっぱり犬っぽい系女子なんでしょうか……。




