第36話 ターレスの街の拠点確保
「こちらがご案内する物件です。ドレア側の門に近く商品の搬入出もしやすい好立地です。問題があるとすれば門の壁が近いくらいでしょうか」
商業組合のジェームスさんに案内されてやってきたのは俺たちが入ってきた門から少しだけ離れた場所にある大きな白い外壁の石造りの建物だった。
3階建てとは言っていたけど屋上もある様子で結構広く敷地面積を取られているようだ。
「建売とは珍しいですね」
「はい。商会用がコンセプトで始めたものでして、まぁ実験的な要素を多分に含んでおります。居抜きとは違い完全新築なのでお売りする方は本来厳選を重ねるべきなのですが、お嬢様に付き従う顔ぶれを見る限り問題はなさそうと判断致しました」
「なるほど」
ジェームスさんに言われてみんなの顔を一瞬見てみる。
ブランはにこにことしつつも気品溢れる佇まいをしているし、アルテミシアは小さいけどどことなく威厳に満ちているような有無を言わせない説得力のようなものを醸し出している気がする。
あいなは口を開けて建物を見ているあほ面で、エリアとグレースは容姿雰囲気共に完全なるお嬢様のそれであった。
あれ? このメンツからすると俺って結構浮いてね?
改めて俺は俺自身を確認してみる。
最近肩口まで伸びて来た青銀色のきれいな母親譲りの髪に白い肌、手鏡を取り出して確認してみる限り変わらずきりっとしたエメラルド色の瞳にピンク色の唇。
そして小さい身長。
威厳もへったくれもないちんちくりんのちびであることを再確認した瞬間だった。
「お供の容姿が気品に溢れていすぎるのも問題だか……」
「いえいえ。容姿も気品もさることながら見ただけで恐縮ではあるのですが能力にも優れていらっしゃるご様子。特に精霊が信を置くというのもポイントが高いと思いますよ。私の判断としても申し分ないと」
「なるほどです」
ともあれ、建売を販売してくれる基準には達しているということはよくわかった。
「では中へご案内いたします」
建物の中は一言でいえば広かった。
いくつもの部屋、店舗にも最適な構造、広い荷捌き場、休憩スペースとキッチンとトイレとお風呂、そして居住可能なスペースと大きな倉庫、ワインなども保管できそうな広めの地下倉庫などなど、これでもかと詰め込まれていたのだ。
「とまぁこのように商会機能としても申し分ない設計にしているわけです。いかがでしょう?」
「なかなかいいんじゃないかと思います。ブラン?」
「そうね、これからのことを考えればこれでいいと思うわ。あとは資金が確保でき次第別の場所にも支店を出せばいいし」
「そうだなぁ。エリアとグレース、アルテミシアもここで大丈夫?」
「「えぇ」」
「ん!」
「みんな意見が出そろったので問題なさそうです」
というわけで精霊組は問題なしという回答を得られたわけだが、ここであえて聞かなかったあいなから物言いが入る。
「あの! 私は聞かれてないんですけど!!」
「よし、異議があるなら聞こう」
「ありません! みんなの意見に賛成です!!」
どうやら構ってほしかっただけらしい。
まぁあいなは嫌だったらすぐ口に出すだろうから、そんな予想はしていたけど。
話を聞いてもらえたせいか、あいなはとてもにこにこ顔になっていた。
尻尾が生えていたらすごい振ってそう。
「では意見も纏まりましたので、ブラウプラチナ貨払いでいいですか?」
「はい、問題ございません。契約書の作成については……」
「それなら私が担当するわ。私イリスちゃんの秘書とか侍女の役割だから」
「頼む。意見が必要なら聞くから」
「うん、お願いね」
こうして系や兎関係はとんとんと話が進んでいった。
今日はさっき取った宿に泊まるが、明日からはここになるだろう。
「はい、本日は誠にありがとうございます。鑑定結果は後日こちらにお届けいたします」
「えぇ。お願いするわ。あとこれはほんの気持ちよ。賄賂ではないけど貴方方には貴重な物でしょ?」
ブランがそう言って手渡したのは【精霊宝石】という宝石のような見た目をした精霊結晶だった。
等級的には雑な分類をすると、精霊石が一番低く、次いで精霊結晶、そしてその次に精霊宝石がやってくる感じだ。
精霊宝石は上級精霊以上が作ることのできる強力な力を秘めた結晶である。
お値段にして軽く1億ブラウを超える。
「!? いやはや……。まさかこれほどとは……。こちら組合長にも連絡をさせていただきます。組合長は現在王都に出ておりますが急いで遠隔通信で連絡したいと思います」
ブランから手渡されたそれは精霊からのある種の信頼の証である。
ちなみに根源精霊は相当仲良くならないとこれをくれないそうだ。
「では、改めまして本日は失礼させていただきます」
こうしてジェームスさんは戻っていった。
俺たちは今日拠点となる建物を1つ手に入れたことになる。
「ん。こっちでの拠点が手に入った。精霊にも依頼を出せるし新しい店舗の獲得を向こうの拠点から出せるようになる。あとでドレアと転移陣を繋ぐ」
「頼む。これでドレアとターレスの行き来が一瞬になったな」
7日ほどの旅程を減らせるのは非常に大きい。
途中の探索が必要であれば地の精霊の採掘場を経由すればいいしね。
あそこにも転移陣を設置済みだ。
「おー。これはまさにチート。いいなぁ、私も欲しいな~」
「お前の場合は仲間がチートだからもう持ってるじゃねえか」
「そうだった、私も持ってた」
チートにあこがれる少女あいなはにっこり微笑んだ。
その後、俺たちは一度拠点に戻るとさっそく錬金術室へと向かった。
やることはたくさんある鉄の処理だ。
「普通の鉄だけなら木炭と鉄鉱石を魔法液に満たした錬金釜に投入する。すると魔法錬金では素材に応じた成果物が産出されるっと。この辺りはなんかゲームっぽいなぁ」
ちなみに今まで錬金術系のスキルはなかったのだけど、最近初級スキルが生えてきた。
この初級スキルでは標準的な物を作る時に品質の影響を与えることができるようだ。
「イリスちゃん、鉄の方はどう?」
錬金釜の前で鉄を作成しているとブランが様子を見にやってきた。
「少しずつやってるよ。さすがに量が多いから時間はかかるけど」
「5kgのインゴットが20本ね。このまま続けてけば次のランクに上がるのもすぐね」
魔法錬金は素材が消費され、成果物が完成すると魔法液が蒸発して収束していく。
そして釜の底に成果物が残るのだ。
ポーション類は原液になるので瓶に移し替えたりするけどね。
鉄の製作はインゴットとして釜に残るので、作っては取り出し液を入れては素材を入れるという作業を繰り返す。
正直なかなか大変だ。
「もう向こうは夕方よ? 一度休憩してみてはどうかな?」
「ん~、もう少しやっておくよ。トルテさんのところの鉄鉱石の含有率が70%あるみたいだから他よりも多めに作れてるし」
ジェームスさんと別れた後、俺は錬金術室の精霊にお願いして含有率を調べてもらった。
結果最高品質の70%という結果を得た。
どうも話を聞いた限りでは、地の精霊は含有率の低いくず鉱石をなくすためにほかの鉱石に移す作業ができるらしい。
その結果がこの鉄鉱石の含有率なのだとか。
つまり俺が買い入れた鉱石はすべて最高品質ということになる。
「最高品質なら買取価格あがりそうね。明日が楽しみね」
「そうだなぁ。運営費をたくさん稼がなきゃだしな。お金はあって困ることはないしね」
その日、結局夕食までの間に5kgの鉄インゴットを50本作ることに成功した。
鉄鉱石はまだ山のように残っているが……。




