第35話 ターレス商業組合にて
市場調査に行こう! ということで早速全員で鍛冶屋街を尋ねてみることにした。
現在かなりの量の鉄鉱石を買い入れることに成功しているがどのくらいで鉄インゴットが売れるかを知りたいからだ。
「いくら鍛冶屋街とはいえ、鍛冶屋が直接鉄鉱石を仕入れたりはしてないよな?」
「商業組合を経由して販売しているはずよ?」
「なら目的地は商業組合か」
「そうなるわね~。まずは情報を集めましょう」
ブランの助言を元に俺たちは鍛冶屋街にほど近い商業組合に行き先を変更する。
ただ途中で鍛冶屋街を抜けるので状況を軽く見ておきたい。
「人は……多いけど店主はそれなりに暇そうね」
俺たちは宿屋からほど近い鍛冶屋街の鍛冶屋の1つを覗いてみることにした。
「こんにちはー。ドレアから仕入れに来たんですけど最近どうですか?」
俺は早速仕入れに来たという建前で情報を聞くことにした。
対象は若干暇そうな人間の鍛冶屋のおやじさんだ。
「おう、ターレスへようこそ。そうだなぁ、今はドレアのほうが品物は多いんじゃないか? あそこは取引量も多いだろ?」
「そうですね。他国からの流入もありますし」
「こっちは今はいいんだが、公爵様の鉱山が復旧しないことには手詰まりになるかもしれねぇ。なぁ、ドレアのほうから鉄鉱石を仕入れるルートとかしらねえか? 嬢ちゃんに聞いたところでってのはあるかもしれねぇけど」
鍛冶屋のおやじさんも俺が商人であると認識してくれたようで、情報を教えてくれた。
事前に仕入れた情報の通り鉄鉱石の供給に不安があるようだ。
「えぇ。懇意にしている採掘場から仕入れてますので伝手はありますよ? ご入用ということですか?」
「あぁ、あればあるだけほしいところだな。でもなぁ俺のところだけで取引するとやっかみがひどいことになるからなぁ」
「あぁ。では商業組合に卸した方が無難そうですかね?」
「そうだな。もしかしたら足元を見られるかもしれねえから、買い叩きそうな気配があったら鍛冶屋組合に売りに行ってくれ。いきなり鍛冶屋組合には行くなよ? ライバル同士ではあるんだが安く仕入れられそうなら安く仕入れたいのは変わらないからよ」
「ありがとうございます。一度商業組合に顔を出してみます」
「頼んだぞ」
ブラウプラチナ貨1枚で仕入れた鉄鉱石の量は結構なものだ。
とりあえず鉄鉱石として売る分と精錬して売る分、使う分を考えるとそれなりの金額で売れれば嬉しいところだけど……。
「とりあえず商業組合から見てみるか」
「そうね~。採掘場の地の精霊のトルテさん、こちらに好意的だったから結構おまけしてくれそうよね」
「だったらいいけど」
ブランとそんなことを話しながらあいなたちのほうに視線を移すと、何やら武器を手に取りはしゃいでいる姿が見えた。
手に持っているのは短剣なのだが鋼鉄製のためか重いらしく、「ちょ、おも!?」なんて言って騒いでいる。
元気だなぁ。
「嬢ちゃんは獲物は決めてるのかい?」
「あ、はい。自分で探したショートソードを使ってました。色々あって折れちゃったんですけど」
「折れた? なまくらでも掴まされたのか?」
「うぐっ!?」
鍛冶屋の指摘に思わず呻くあいな。
あのショートソードってあいながスキルで作ったものらしいからなぁ。
ダイレクトにダメージを受けた感じだ。
「イリズざああああん」
と思っていたらあいながこっちに走ってきて泣きべそかいた顔を俺の服に押し付けてきた。
鼻水付くから離れてほしい。
「あーはいはい。今度良い素材上げるからそれで腕を上げようね」
「ふぁい……」
まぁあいなのスキルには個人的に期待しているのでぜひ成長させてほしいところだ。
もしかするとスキルでしか作れないすごいものができるかもしれないしね。
「あいな、がんばれ」
「ぐすっ。アルテミシアさん、ありがとうございまふ~」
「おい、俺の服を鼻の付近に持っていくな!」
チーン……。
周囲に無情な音が鳴り響く。
「あ、うっかり」
「うっかりじゃないが?」
「あいなにはハンカチが必要ね」
「仕方ないからあとで買ってあげましょう」
「ほんとうでふか!?」
こいつ、周囲にすっかり甘やかされてやがる。
もしかして甘やかされる才能でもあるんじゃないだろうか。
「お姉ちゃん、どんまい」
「なんだか憂鬱な気分になってきたよ……」
あとで鼻をかまれた服は洗っておこう……。
と、少々の問題はありつつも俺たちは商業組合へとむかった。
「ここが商業組合か」
ターレスの街の商業組合もドレアの街の商業組合とあまり変わらない様子で、石造りの建物のようだった。
大きな木製の扉を開き、中へ入ると広めの室内にいくつかに区切られた小さな商談スペースや長椅子、相場関係の掲示板などが設置されているのが見える。
「ターレス商業組合へようこそ。ご商談でしょうか? それともご登録でしょうか?」
中へ入ると早速1人の男性職員が近づいてきた。
細身の金髪の、眼鏡をかけた真面目そうな男性だ。
「ドレアの街から鉄鉱石の販売にきたのですが、鉄鉱石の供給が少ないと耳にしまして、現状の相場の確認をと」
「なるほど、そうでしたか。もしお売りいただけるのでしたらぜひ当組合にお願い致します。ええっと、相場でしたね。現在は10キロあたり300ブラウとなっておりますね。ところでどちらで採掘されたものなのでしょうか?」
「あぁえっと、地の精霊の採掘場で仕入れたものですね」
「おぉ、よく仕入れることができましたね。私どもも何度か交渉しているのですが多くを売っていただけなくて困っていたのです」
「なるほど」
採掘場の集積所にはかなりの量の鉄鉱石が保管されていた。
一日にどれくらいの量を採掘できているのかはわからないけど、俺が仕入れた分でも一部だったように思える。
どのくらい仕入れたかというと……まぁ最低でも軽く1トンは超えている。
一気に販売すると一時的に供給過剰になって暴落するかもしれないのでとりあえず100キロ程度を売りに出して様子を見ることにしようと思う。
「とりあえず100キロ程度ならすぐ売りに出すことができますけど」
「おぉ! ありがたいです。さっそくサンプルを頂けますでしょうか?」
「はい、こちらです」
俺はカモフラージュ用の空間収納鞄からサンプルの鉄鉱石を取り出して見せる。
「空間収納鞄ですか。つい最近も精霊商人が売りに来ていましたけど、なかなかのお値段でしたね。おっと、話が逸れました。サンプルの鑑定に1日お時間を頂きますので明日またこちらにお越しください。地の精霊の採掘場産なら60%を超えるはずですので」
「えぇ、お願いします。一応このあと鍛冶屋組合にも顔を出してみる予定です」
両方にサンプルを出してから価格面を比べてみようという考えだ。
「なるほど。それは良い考えだと思います。慎重さは大事です。まぁもしこちらに販売していただけるとなりましたら、別のことでも便宜ははかれますのでご検討の程よろしくお願いします」
「わかりました。それと別件ですが商店用の建物の販売や貸借はありますか?」
ここでもう1つの目的である店舗の確保を切り出してみた。
「えぇ、ございます。ところで、店舗を構えた場合ですが、定期的な鉄鉱石の卸は可能でしょうか?」
一瞬職員の男性の目が光ったように感じられた。
好機と見たようだ。
「そうですね。交渉は必要ですが可能と思います。ブラン、どう?」
「えぇ、イリスちゃんが話せば問題ないはずよ」
ブランは俺の問いかけにすぐ首肯して返事を返す。
「それは素晴らしい。実はですね。新築の大きめ倉庫と馬車の搬入が可能な3階建ての物件がありまして、今後のお取引も考えて100万ブラウでお譲りしたいと思っているのですよ」
「今後の、ですか」
「はい。ちなみにお取扱いになる商品はどのようなものがございますか?」
「そうですね。今回のような鉄鉱石卸のほかはインゴットの販売や魔法薬などですかね。ドレアのグレモリー商店の人間でもありますので」
「ほう、グレモリー様の!! であればなおさらお嬢様にお譲りするのがベストだと感じます。あ、申し遅れました。私、主任土地建物販売責任者兼副組合長の【ジェームス】と申します。以後お見知りおきを」
「副組合長さんでしたか」
どうしてそんな人が一見のはずの俺に声を掛けて来たのか。
商人としての勘だろうか。
「はい。実は私、毎朝神殿に行くのを習慣にしておりまして、そこでお告げのようなものを聞いた気がしたのです。一瞬ですが女性の声で。私、そういういつもと違う何かを感じた場合大事にする性質でして……」
「なるほど。それで」
「はい。あ、長々と立ち話になってしまい申し訳ございません。さっそく物件を確認しに参りましょう。はい、こちらです」
流れるように俺は初日から物件を見に行くことになった。
またルナが俺の方をこっそり見ているようだし、物件も悪いものではないのだろうと思う。




