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第34話 一路ターレスへ

 翌日、俺たちは乗合馬車の停留所前に集合していた。

 昨夜はお風呂に入ったり錬金術室を見学したりといろいろな出来事があったが、食事や寝室での出来事は特筆すべきことはなかった。

 強いて言うならあいなが一緒に寝たがったくらいだろうか。

 ますます犬系女子になってないか?


「ところでイリスさんは異世界転移や異世界転生するならどんなことができたら嬉しいとかありましたか?」


 現在は馬車の乗車待ち中なのだが、あいながこっそり俺にそんなことを話しかけてきた。


「平凡でも平穏無事に過ごせたらいいな~くらいかな? 前世だって仕事はしてたけどこの世界で役に立つ情報は趣味のキャンプくらいしかないぞ?」

「なるほど。私はこうなんかもっと色々と楽ができるようなスキル貰えたらな~とか考えたことありますけどね」

「【武具錬成】と【植物の育成促進】だけでも十分すごいじゃないか。俺が素材用意するから武具作って売ればいいし、植物の育成促進効果で品質のいい薬草バンバン作ってくれれば十分だぞ」


 正直俺のスキルより素晴らしいだろ。

 俺のスキルは誰かと繋がっていないと何の役にも立たないスキルなんだから。

 だから誰かとの縁は大事にしなくちゃいけないって制約があるわけで……。


「精霊のスキルを自分のスキルとして使えるのは十分チートだと思いますけどねぇ」

「それこそ誰かがいてこそだよ。誰もいない世界にいたら俺なんか本当のスキルなしだぞ」

「な、なるほど……」


 なので今俺についてきてくれている4人には感謝してもしきれないところがある。


「これより運航を再開します! 順次ご乗車をお願いします!」


 乗合馬車乗務員の合図で各々馬車へと移動を始める。

 俺たちも一纏まりになってから馬車へと乗車した。


「トリエステ川を超えたあたりからあまり景色に代わり映えありませんね。イベントもないですし」

「なんだ? 乗車2日目でダウンか?」

「ひますぎです~」


 どうやらあいなはもう見慣れた景色に飽きてしまったようだ。

 まぁ最初に比べれば何かイベントがおきるということもほとんどない。


「ターレスよりはドレアのほうが色々あるからな。仕方ない」


 ドレア~ターレス間のおもな見どころと言えばほとんどトリエステ川までに詰まっている。

 トリエステ川からターレスまでは平原がほとんどなので正直そこまで見るものもないのだ。

 誰かターレスまでの間に街を作ってくれませんか?

 

「ひまひま~」

「あいな、うるさい」


 そんな感じで特に何もなく俺たちは2日を過ごすに至った。

 乗合馬車でもターレスに着くまでにはおおよそ4日から5日ほどかかる。

 徒歩だとほぼ一週間なのでなかなか恐ろしい話だ。

 そんな何もない日々をただ過ぎるのを待ち、夜は拠点に帰る日々を過ごしていると馬車はようやくターレスに到着するに至った。


「ドレア~ターレス行きの乗合馬車をご利用いただき誠にありがとうございます! 本車両はターレスでの整備後折り返し出発となります。またターレスの街への入街につきましては乗合馬車発着場脇の門からお願い致します。またその際乗車証の半券をご提出ください」


 ターレスに到着した乗合馬車はいわゆる営業所と同じ用途の建物にてチェックがされるようだ。

 次の運行のために色々な準備が必要なのだろう。

 乗客全員が下りた馬車が建物内に入っていく様子を見ながら、俺たちは街に入るための列に並ぶことにした。


「なんというか思ったよりも揺れませんでしたね。道がいいからでしょうか?」

「異世界の知恵を導入したりしているらしいから意外と先進的なのかもしれないね。道は定期的に整備しているみたいだけどかなりお金がかかるようだよ」


 俺もよくは知らないのだけれど、昔の馬車はよく揺れていたらしい。

 そんな馬車に長時間乗っていたら、きっと気が狂うことだろう。

 そうなると当然移動速度も人より少し早い程度になりかねないのではないだろうか。

 まぁ道次第だろうけど。

 

「ほへぇ~」

「次の方どうぞ」

「ほら行くよ」


 思いのほかスムーズに行列は掃けていく。

 ぼけ~っとしたあいなの頬軽く叩いて注意を向けさせ、アルテミシアの手を引っ張りながら俺たちは乗車券の半券、身分証を提出してチェックを通過した。


「ようこそ、鍛冶と工芸の街ターレスへ」


 門番の警備隊員に軽く挨拶をして俺たちは街へと入っていく。


「おぉ~、出鍛冶場!」


 あいながさっそく目を付けたのは門を抜けた先にすぐ現れる鍛冶屋の群れだ。

 一か所に鍛冶屋が密集している光景はこの街の名物と言えるだろう。

 

「この街は鍛冶の街でもあるだけあって買い手に合わせた色んな種類の鍛冶屋があるのよ。たとえば細身の剣がほしければ専門の鍛冶屋があるし、短剣がほしければ短剣専門の鍛冶屋なんかもあるの」

「え~? それだと競合したりしてくいっぱぐれたりしませんか?」

「ふふ、そうね。でもそれ以上にこの街は競合しても潰れないような取り組みがされているのよ。例えば鍛冶屋組合ね。大型の受注はまずこの組合に入って組合員に振り分けられていくの。他にも細かな部品の制作なんかも請け負ってたりするのよ。いい例が釘ね」

「ふむふむ。街全体で支えるような仕組みがあるってことなんですね~」

「そうなのよ。だからこの街の鍛冶技術は高水準なんて言われているのよ」


 あいなの疑問にブランが答えている。

 まぁ俺はこの辺りの事情をよく知らないのでしっかりとしたことは言えないんだけど。


「一見どこも困ってるようには見えないし、煙もあちこちから出ているな。炉が休むような状態ではなさそうだな」

「ん~、エイリスが提供した情報に間違いはないはず。余裕がないのは確かかもしれない」

「とりあえず、宿だけでも取ってから少し調べて、それから鉄の錬金を始めちゃうか」

「ん!」


 それから俺たちは軽く街を見ながら良さそうな宿の情報を仕入れ、宿へと向かった。

 宿屋【鍛冶屋の炉】といういかにもな名前の石造りの宿がそれだ。

 建物自体は灰色の石で作られているが、内部の床が木材で作られている。

 カウンターは石製でカウンター以外のテーブルとイスは木で作られていた。

 

「いらっしゃいませ! 宿屋【鍛冶屋の炉】へようこそ! 現在中部屋が空いておりますが6名様でご利用になりますか?」

「6人でも宿泊できる部屋があるんですね」

「はい。当宿は団体様向けもご用意しております。中部屋ですと一泊当たり2万5千ブラウとなりますが……」

「あ、それでお願いします。思ったより安いですね」

「当宿は一般向けですのでお値段はそれなりに抑えておりますので。ただお食事は別料金となってしまいますのでご了承ください」

「わかりました」

「ではご案内いたします」


 ドレアの街の宿屋の平均相場は一泊おひとり様7000ブラウなので6人で止まると部屋にもよるものの最低でも3万ブラウくらいはかかりそうなものだ。

 食事別料金にしても休む分には一人当たり4000ブラウなので結構安いほうだと思う。


「こちらがお部屋になります。ごゆっくりどうぞ」


 宿屋の店員さんに案内された部屋はなかなか質素な部屋であった。

 ベッドは木製のベッドが8つ並んでおり、8人までは泊まれる部屋であることが分かる。

 ベッドの間隔は狭く、掛けるものも薄めの布であった。


「寝心地悪そうですね」

「まぁ安いし、こんなもんじゃないかな」

「なんかがっかりです……」

「値段の割に清潔だからその辺りは妥協してもいいかもしれないわよ? もっといいところに泊まりたかったら1万から2万ブラウくらい必要だもの」

「夜は拠点。特に問題ない。でも防犯面は重要」

「軽く調べた感じ覗き穴もないから大丈夫ね」

「扉のロックもしっかりしてるから大丈夫よ」


 他のメンバーからも防犯面は問題ないとのお墨付きを頂いたので、今日の夜はいつも通りの拠点で過ごすことになるだろう。

 そんなことを考えつつ、さっそく外の状況を探ろうと一階食堂へと降りる。

 するとまだ昼間だというのに賑やかな声が聞こえてくるのだった。


「ふぅん。結構人いるんだな」

「そうみたいですね」

「ここはお料理は美味しいらしいわよ?」

「へぇ~」


 まぁ時間があったら食べてみるのもいいかもしれないな。

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