第33話 錬金術室と様々な機能
入浴も何とか無事終了し、俺は上はローブと下はズボンという服装に着替えていた。
このローブは上半身までは隠れて下半身は露出するタイプのもので、下にズボンを穿いて完成となるように作られている。
まぁズボンではなくスカートでもいいのだけど、俺は基本スカートを穿かない。
さすがに15年も女をやっているので今更感はあるのだけど、やはり前世が男だったこともあるせいかズボンの方がしっくりくるのだ。
「ん! 食事の前にお姉ちゃんを案内する。お姉ちゃんの錬金術室に色々呼び寄せてみた」
「呼び寄せる?」
「ん。必要な子たち。元々は私の従者。お姉ちゃんに配置替えしたから役に立ててほしい」
「え? あ、うん。ありが、とう?」
「こっち」
事情がよく呑み込めないまま、俺はアルテミシアに2階奥の扉へと案内された。
2階奥の扉は俺の2倍はあろうかという大きさのもので、ドアノブのようなものはついていなかった。
「中入る」
アルテミシアはそう口にすると扉の前に向かって進んでいく。
すると扉はひとりでに左右に開き、アルテミシアを迎え入れたのだ。
「自動ドアみたいなものなのか」
この世界での原理はわからないけど、おそらくそのようなものだろう。
「ま、いきますかね」
俺の後ろにはほかのみんなもいる。
とりあえず中に入ってみるのが先だな。
「ん。ここがお姉ちゃんの錬金術室。まだ色々置けるスペースだらけ」
俺が部屋内に入るとアルテミシアはそう説明してくれた。
前世の学校の体育館くらいは広いだろうか。
とにかくめちゃくちゃ広い上に錬金釜が設置されている前方には空っぽ棚がずらりと並んでいる。
棚自体は目の前にあるわけではなく、部屋の両脇と釜前に用意された階段を昇って棚まで行く仕組みになっていた。
段差があるのだ。
そのまま俺は釜の前まで歩いていき、階段の周囲を軽く調べてみると、下は明らかに床ではない謎の空間が広がっているのが確認できる。
軽く触れてみると硬質な、ガラスのようなものが設置されているのが確認できた。
「ここは色々使えるようにした。空間と空間の狭間にある特別な場所。錬金術にもいい影響与えると思う」
アルテミシアの言う通り、この部屋には奇妙な空気というか雰囲気が漂っている。
なんというか知らないはずなのに知っているような、そんな懐かしい雰囲気だ。
「なるほどな。俺たちの世界じゃできないことが出来そうだな」
「ん。材料商人も用意してある」
「材料商人……?」
アルテミシアの言葉で再度周囲を確認してみる。
全く気にしていなかったけど、部屋の両サイドに工房と商店みたいなのが存在していたようだ。
店員は全員女性の職業精霊。
「お、お初にお目にかかります! 材料仕入れ販売担当の【ミーシャ】です! 各地の精霊が仕入れてきたり採集した素材の買取販売を行っています!」
「イリス様。よろしくお願いしますわ。 わたくしは【エイリス】と申します。各地にいる精霊にこの場所から依頼を出したりする担当ですわ。人間界でいうところの探索者組合みたいなもものと思ってくださいませ。今は最低限の機能しかありませんが今後の投資次第で討伐依頼、採集依頼などどんな依頼でも遂行可能となると思います」
「イリスー! こっちこっち!」
気安く名前を呼ばれたので視線を向けてみると、そこにはルビーとシャーリーさんがいたのだ。
こちらは工房組らしい。
「イリスちゃん、こっちは工房よ。私はローブなどの布関係、ルビーのバカは金属製品担当よ」
「バカってなんだよバカって。アタシだってイリスのローブ作りたかったのによ」
「あなたがそれすると碌な事しないでしょ。やめなさいよね」
「えっと、まぁその、よろしく?」
2人に挨拶をしてから再度部屋を見回してみる。
すると誰もいないテナントが2つあったのだ。
「アルテミシア、あっちは?」
「ん。外部商人の場所と調整中の商会施設」
「外部商人ねぇ……。人間とか?」
「人間じゃない。外部の精霊商人とか妖精族商人とか」
「なるほどねぇ。商会施設ってのは?」
気になることは山ほどある。
例えばその外部商人はどんな商品を売りに来るのかとか商会施設ってなんなのかとかだ。
「ん。グレモリー様がお店を任せたいといってた件に関係してる。今人員選定中」
「あ、そういう関係かぁ」
今回の旅の目的の1つに各街に商店の支店を用意するというのがある。
どうやらこれはそれに関係があるもののようだ。
「ん。色々なことができるようになる。楽しみ」
「だなぁ」
現在ここにはいろいろな機能が集まり始めている。
1つめは商店機能。
2つめは探索者の精霊に依頼を出す機能。
3つめは工房機能。ここには俺の錬金術も含まれる。
4つめは外部商人招致機能。
5つめは商会として商店を運営していく機能だ。
「こうしてみるとここにいるだけで色々なことができるようになっちゃうんだなぁ。武具に関してはルビーもいるしあいなのスキルもあるからいくらでも用意できるし」
「ん」
「なんか色々と用意してもらっちゃってごめんな。ありがとう、アルテミシア」
「ん! 大丈夫。私は私にできることをするだけ」
ほんと、アルテミシアはすごい奴だと思うよ。
なんでこんなにしてくれるのかは正直まだよくわかってないけど。
さてほかに気になることだけど、なんかあいながルビーと話しているな。
あいなとルビーはスキルと職が似たようなものだから色々と聞いているのかもしれない。
エリアとグレースは商人が気になるようで2人してそっちにいっているし、ブランはブランでちょっと気になってる依頼を出せる精霊のところにいってるようだ。
俺もそっち見に行ってみるかな。
「あ、イリスちゃん。やっぱりこっちに来たわね? ところでエイリス。貴女、精霊の国のほうはいいの?」
「すでに引継ぎは完了致しましたわ。わたくしはイリス様のほうに付きたいと思っております」
「ふーん? あ、イリスちゃん。この小さいのは【エイリス】水の大精霊よ。こっちでいう探索者組合の総取締役をやってた子ね」
「以後お見知りおきを。ここは探索者組合のようなものです。イリス様からこちらに依頼を出していただければ、各地の精霊たちに依頼を掲示し、受注してもらうことが可能となるよう仲介いたします。現在はイリス様が拠点とされている聖域の森及びドレア地域のみが対象となっております。今後対象地域を増やすためにはイリス様がその地域の建物を購入し、組合としての機能拡張行ってもらう必要がありますのでご注意ください」
エイリスさんは師匠くらいの身長の水色の髪を背中まで伸ばした可愛らしい美少女の精霊だ。
どうやらこの人も長く生きているタイプのようだけど……。
「なるほど。ターレスで支店の建物を購入する予定があるから、あとは組合の機能拡張をすればターレス周辺の地域も対象になると」
「はい、その通りです。組合拡張の資金は私のほうにお預けください。投資した分だけ色々な整備を行ってまいりますので」
「了解。となると目下資金稼ぎを急がなきゃってところだな」
「はい。それと資金の工面についての情報ですが、こちらで仕入れた情報によると、現在ターレスでは鉄の需要が高まっているとの話です。鉄を売るのも手だと思われます」
「鉄かぁ」
少し前に鉄鉱石を大量に仕入れることができたのでそれを精錬して売るのも手だろう。
「でもなんで急に鉄が必要に?」
公爵領には良質な鉄鉱山もあったはずだけど。
「はい。どうやら所有している鉄鉱山が大規模な崩落事故を起こしたようでして、稼働が止まっているようなのです。それで需要が高まっているという状況です」
「なるほどなぁ。ここに来る途中で地の精霊の採掘場に寄っておいてよかったよ」
これにはエリアとグレースに感謝だな。
「トルテの採掘場でしょうか? 地の精霊トルテとその兄ザッハが管理する採掘場がドレアとターレスの中間にありますね」
「あ、たぶんそれ。名前までは聞いてなかったけど、トルテっていうのか。兄妹そろうとザッハトルテなのなんで……」
この場所に来てから1つの謎が解けた瞬間だった。




