第3話 スキルの進化
「ただいまー」
転移陣を通って小屋へと戻ってきたところ、店舗スペースから師匠と誰かの話す声が聞こえてきた。
ちらりと見てみると、大きなきれいな蝶のような羽根を生やしたドレスを着た存在と話し込んでいる。
「あっ、噂をすればよ」
「おかえり、イリス。こいつはあたしの知り合いでフェリシアってんだ。緑の園の女王さね」
「よろしくね。私はフェリシアよ。イリスちゃんって本当に貴女達にそっくりなのね」
「あぁ、そうだね。元々はルナが気に入ってた子がいてね。その子が不慮の事故で死んでしまったものだからってこっちの世界で転生させることにしたんだよ。ちょうどあたしの娘も妊娠していた時期でね。まぁ残念ながらその子には魂が宿らなかったんだが」
「あらそうなの? まぁ神族の子って魂がない場合もあるって聞くからねぇ。それでルナクルス様のお気に入りの子の魂の器にしたのね。イリスちゃんってその時のこと覚えてるの?」
不意に俺の話題になったからか、俺の過去の記憶について問いかけられてしまった。
「覚えていますけど、今となってはどうでもいいことだと思いますよ」
「昔は昔、今は今さね。この子もなかなかのじゃじゃ馬でね、本当にルナそっくりなやつなのさ」
「相性がいいんですね。だからルナクルス様の印が付いているのね」
それにして生まれてくる子に魂が宿らないなんてことがあるのだろうか? 神族ってその場合どうしてるんだろう。
「ん? もしかして神族の件が気になっているのかい?」
「ん、まぁ……」
もしかしたら俺が入ることで魂が消えたりしたんじゃないかと不安になってしまったわけだけど……。
「そう多くはないけどあることさ。別にイリスの魂を入れたから消えたとかじゃないから安心しな。宿らない時は転生待ちの魂から選ばれた魂が入るからね」
「そ、そっか……」
とりあえず俺のせいで誰かが消えたわけじゃないのなら安心だ。
「ほれ、とりあえず次はドレアの街の探索者組合に魔法薬の納品をしてきておくれ。ついでに新しい受注も聞いてきておくれよ」
「わかりました」
というわけで急遽ドレアの街の店までとんぼ返りすることに。
「あっ、イリスちゃ〜ん!」
「またそれかよ!?」
転移陣は店の中にしかないので移動すれば確実にミューズに見つかる残念仕様だ。
とりあえず抱きつかれる前に取り押さえられたので、いそいそと店舗を出て探索者組合に配達に向かう。
そういえば探索者カードの更新しなきゃいけない時期か。
俺1人でやったことないんだよね。
いつもは幼馴染4人が揃って俺の更新の手伝いしてくれてたから完成品しか俺は見たことないんだ。
探索者組合は各街に最低でも1つずつある冒険や探索という重要な部分を担う組合だ。
他にも魔術師組合や錬金術師組合、商業組合や傭兵組合など色々な組合が存在している。
今回行く探索者組合は地図とブーツの描かれた看板が目印になっている。
「ええっと、納品書は〜っと、ちゃんとあるな」
荷物は問題ないし忘れがちな納品書も問題ない。
ついでに言えば御用聞き用のメモもしっかり準備済みだ。
完璧だな俺。
と、そんな事を考えながら歩いているとお尻に何かがぶつかってきた。
「なんだ?」
「わー、やわらかーい。いいにおーい」
「うわっ、なんだこいつ!?」
慌てて振り返るとそこには俺の尻に顔を突っ込んでいる小さな女の子がいた。
身長から考えてまだ幼児だろうか。
「なぁちびっこ。なんで俺の尻に顔突っ込んで遊んでんだ」
突然現れた小さな存在に驚かさないように話しかける。
すると小さな存在は顔を上げてこっちをじっと見つめてきたのだ。
幼いながらに可愛らしい整った顔つきをしている。
さらにこのちびっこは精霊力を少ないながら纏っているのだ。
「ん〜? わかんなーい! ただなんとなーく惹きつけられっちゃったの〜」
「ふぅん。人さらいには注意しろよ? それにしてもお前の親はどこにいるんだ」
「あっちー!」
精霊族の幼女は俺の歩いてきた道を指差すとくいくいと手を引っ張り始める。
「こっちこっちー、きてー」
「いや、俺配達あるんだけど」
「こっちー」
「全然話聞いてねえな」
幼女の強引さは時に恐ろしい。
軽く戦慄しながら渋々引っ張られながら付いていくと、周囲をキョロキョロと見回しながら誰かを探している精霊族の女性を見つけた。
「ママー!」
「エミル! どこにいってたの!? 一瞬目を離した隙にいなくなるなんて思いもしなかったわ!」
どうやら本当に一瞬目を離した隙に消えてしまったようだ。
子供あるあるとは言えばそうかもしれないけど十分注意してほしい。
「あら? 誰か連れてるの?」
「うん~。わたしの彼女~!」
「ちげーだろ!」
この幼女、突然人のことを彼女呼ばわりしやがった。
一体どんな思考回路をしてんだろうか。
「えっ? 彼女!? ってあら!? イリス様!?」
驚いて慌てた母親がこちらに視線を向けると、二度びっくり。
なぜか俺のことを知っているらしく、挙句の果てに様付けまでされる始末だ。
誰だろう? 見たこともないし、なんなら様を付けられるような身分でもないぞ?
「ふふ~ん」
「そ、そう。イリス様がエミルの彼女様ならママ認めちゃおうかしら」
「いやまて、なんでそうなる」
さてはこの親子、混乱してるな?
「とにかく、俺は別に彼女でもなんでもないから!」
俺の頭の中にあったのはまずこのよくわからない状況を打開するということだけだった。
しかしそれはある意味で裏目に出る。
「ダメなの~?」
否定した瞬間、エミルの目に涙が浮かんだのだ。
今すぐにでも泣き出しそうな幼女の前に、さすがの俺でも冷静ではいられなかった。
「いや、だめってわけじゃねえけど、まだ俺には早いっていうか……」
「うぅ……」
だめだ、爆発寸前だ。
どうするどうする!? あっ、ひらめいた!
「じゃ、じゃあこうしよう。エミルが立派で素敵なレディーになった時ならってことで……。な?」
「う、うん……。わたし、がんばってお姉ちゃんに似合うような女性になる!!」
「おー、そうかそうか。もうすっごく応援するぞ? 待ってるからなー?」
どうやら爆発することだけは抑えられたらしい。
いやー、焦った焦った。
「くすくす。イリス様、それではもう逃げられないですよ?」
「なっ!?」
幼女を泣かせないために必死だったせいで自分が墓穴を掘っていたことにさえ気が付けなかったようだ。
うわー、やらかした……。
「お姉ちゃん、よーやくっと」
エミルはそう言うと、俺の指に自分の指を絡めたのだった。
『光の精霊見習いエミルと絆を結びました』
「えっ?」
その瞬間、俺の頭の中に昔聞いたようなないような、そんな声が響いたのだった。




