第2話 グレモリーの魔女の家にて
「知らない天井だ……。いや、なんか見たことあるわ……」
ふと目が覚めるとどこかの小屋らしき天井が目に入ってきた。
一瞬知らない場所かと思って焦ったものの、よくよく見てみると見知った場所であることを思い出す。
「ってここ、グレモリーのばばあの家じゃねえか!!」
「あら、イリスおはよう」
見知った親族でもある魔女グレモリー。
そのグレモリーの小屋にいることが判明した。
「おはよう、ブラン。グレモリーのばばあの小屋ってことは、ここ聖域の森か?」
「そうよ。グレモリーおばさまは『こっちに連れておいで』ってわざわざ念話で伝えてきたんだから」
「そうかよ。んと、あんがと」
「ふふ。グレモリーおばさまもイリスが心配だったのね。今はもうこの世界にはいないイリスのお母様のお母様だもの」
「……」
俺のこの世界での母親は俺が生まれた後、とある出来事によって命を落とした。
父親は一夫多妻だったから他にも母親はいたし、兄弟もいた。
でも母親の親族はグレモリーのばばあただ1人だった。
俺は母親によく似てるって言われるし、グレモリーのばばあにもそっくりだって言われる。
だからというわけじゃねえが、兄妹の中で1人だけ顔が違うんだよな。
さらに言えば他の兄弟と違って俺が生まれた時にはたくさんの精霊が見に来たしお祝いに来たらしいんだ。
そのせいか兄妹からは近寄りがたい子って目で見られてるっぽいんだよな。
「おや、もう目が覚めたのかい? だったらちょうどいい。こっちにおいで」
俺が考え事をしてしばらく、小屋の扉が開いたと思ったらグレモリーのばばあの声が聞こえてきた。
でも話を聞く気がなかったから俯いたままだったけど。
「まったく、どうしたってんだい。ほら、顔をお上げ」
「あっ……」
グレモリーのばばあはしびれを切らせたのかこっちに来て勝手に俺のあごに手を当てて顔を無理やりあげやがった。
目の前にはばあと言うには似つかわしくない幼げな美少女の姿が見える。
このばばあすごい年齢のくせして150cmしかないんだぜ?
まぁ俺も140しかないんだけど。
「ほら、後悔して涙流すもんじゃないよ。別にあの子が好きだったわけじゃないんだろ?」
「そんなんじゃねえよ。ただ悪友だったし、なくなったらそれはそれでなんか寂しいだけだ」
「ま、友達を失うってのは辛いもんさ。とりあえず考えに耽っていてもよくないだろ? あたしの仕事を手伝いな」
グレモリーのばばあはそう言うと俺の腕を軽く引っ張る。
俺は抵抗しなかったのでそのまま立ち上がった。
「まぁ失う状況ってのは様々さね。今のうちに慣れておきな。あんたがこの世界にいる限り何人もの仲の良かった人が失われていくんだから」
「……」
一見するとばばあはひどいことを言ってるように聞こえるかもしれない。
でもそれは事実で、俺はエルフ族だしそう簡単に死ぬことはない。
だからいずれソフィたちとも別れなきゃいけない時が来る。
「なぁ」
「ん? なんだい?」
俺は不意にあることを尋ねてみたくなった。
他意はないけど。
「もし俺が死んだら、母親にもまた会えるのかなって」
「はぁ。バカお言いでないよ。確かに死んだら会えるかもしれないけど、今は無理だ。あの子は今修行中だからね。あんたと違って」
「修行中って?」
「今は言えないよ。【ルナ】にでも聞きな」
ルナとはこの世界の女神の名前だ。
正確にはルナクルス。
俺をこの世界に連れてきて、今の両親のもとに転生させた張本人の女神だ。
そんな女神ルナクルスを【ルナ】って愛称で呼べるやつは数少ない。
親族か俺だけ。
つまるところ、グレモリーのばばあはルナクルスの親族ってわけだ。
「ほら、いつまでも泣いてないでこっちきな。錬金術を教えてあげるからそれで生活費を稼ぐんだよ」
グレモリーのばばあはそう言うと、俺を引っ張って備え付けの店舗内にある工房まで連れていく。
工房の中には様々な器具や素材が置いてあり、中央には大きな釜が置かれていた。
「いいかい、今から教える錬金術はいわゆる【魔法錬金】ってやつさ。乾燥させた素材を砕いたり成分を抽出したりして、魔法液の入った釜の中で煮詰める。魔法液が全部蒸発したら残留物が釜の底に残るから、それを取り出して瓶に詰めたり型に詰めたりするんだよ」
魔法錬金とは錬金術の中でも不可思議な分野に位置しているらしい。
グレモリーのばばあの話を聞く限りでは、魔法錬金は創造に近いそうだ。
なので使える人は限られているらしく、ちゃんと使えるのならチート級の活躍もできるそうだ。
まぁその中でも色々とランク分けされているらしいけど。
「なんとなーくはわかった」
「イリス。今日からあんたはあたしの弟子だよ。今日から師匠と呼びな。ついでに言葉遣いも少しは直しな。あたしらはいいが客にその言葉遣いはちょっとよくないからね」
「うっ……。はい……。師匠……」
「すぐにとは言わないからちょっとずつ直しな。それだけでイリスは大化けするんだから」
そんなこんなで数日ほど言葉遣いを徹底的に教え込まれてしまった。
結果……。
「師匠、この材料はここでいいですか?」
「あぁ、そこでいいよ。それとこの魔法薬を転移陣を使ってドレアの街の店舗に運んでおくれ」
「はい」
グレモリー師匠に指示され、備え付けの転移陣からドレアの街にあるグレモリー商店の店舗に魔法薬を配達する。
この魔法薬はいわゆるポーションというもので、等級によって傷などへの効果と値段が違ってくる。
「こんにちはー。魔法薬の配達に来ましたー」
「あっ、イリスちゃ~ん! 配達ありがとう~!」
甘く緩い声を出しながらこちらに駆け寄ってくるのはグレモリー商店ドレア支店の店長である水の職業精霊である【ミューズ】さんだ。
精霊とはいっても感触や生活は人間と特に変わったりはしない不思議な存在である。
そんなミューズさんは俺に抱き着くと、くんくんと臭いをかぎ始めてしまった。
この精霊、匂いフェチらしいんだよね。
「ハァハァ。イリスちゃんの匂い~」
こわっ! だんだんと息が荒くなってるから逃げ出したいんだけど、異様に力が強くてちっとも逃げ出せない。
「ミューズ、いい加減にしなさい!」
「あいたー!」
そんな俺のピンチに颯爽と現れたのは風の精霊の職業精霊である【ウィル】さんだ。
どちらも女性型の精霊だけど、ウィルさんのほうが若干身長が小さい。
「あんた、またイリスちゃん困らせてるでしょ。最近他の精霊からも「あの子そろそろやばいんじゃない?」って相談受けてるんだけど。不審者として突き出すわよ?」
「ひぇ~ん。精霊警察だけはご勘弁を~」
ミューズさんの口から出てきた精霊警察とは、職業精霊たちで組織された精霊を罰したり指導するために組織された警察組織だ。
そもそも職業精霊という存在が特殊なため人間たちでは制御できないという問題があるので、それに対応する形で組織したという背景がある。
この世界の精霊は2種類に分かれている。
1つ目は根源精霊。
こちらはいわゆる属性の力をそのまま宿した実体を持たない精霊で、前世の日本などではすぐに思い至る精霊の姿だろう。
2つ目は職業精霊。
こちらは人間のような身体と生活感を持つ人間に近い精霊だ。
精霊の国にたくさん住んでおり、世界の様々な調整に出向いている。
精霊力を直接行使できる人間のようなものと思ってもらえればいい。
ただし、職業精霊は人間と精霊のハーフとは異なり、世界を渡る能力を持っているのが特徴だろう。
「ともかく、イリスちゃん。配達ありがとうね。グレモリー様にもよろしくね」
「わ、わかりました。それじゃあ失礼します」
こうして師匠からの依頼である配達任務が完了した。




