第28話 乗合馬車の乗った、あいながはしゃいだ
「いええええい!!」
トリエステ川を渡って少し先にある乗合馬車の停留所。
そこで乗合馬車に乗ることができた俺たちは人よりは早く進む馬車の景色を見つつお尻の痛さを堪能していた。
なのに、あいながすごいテンション爆上がり中。
乗客の人が優しいからいいものの、内心めちゃくちゃ恥ずかしい。
「イリスさーん! 馬車ですよ! 私、初めて馬車に乗りました!!」
「あいな、恥ずかしいし迷惑だからやめなよ」
「あらいいのよ? 子供が元気な姿を見られて嬉しい人も多いもの」
「そうだな。地味で暇な馬車旅が少し賑やかになっていい。ま、うるさすぎたらそれはそれで注意はするが、これくらいならな」
「お嬢ちゃんたち、ドレアのほうからだろ? あっちにいたらターレスなんてあまり行く気も起きないだろうに」
「ドレアはここいらじゃかなり特殊な例だからなぁ」
なんだかんだ言ってあいなは可愛らしい見た目をした少女なので、乗客たちにも人気が高い。
あと純粋に子供だと思われてるようだからなおさらかもしれない。
「そういえばターレスってどんな街なんですか?」
「あぁ、そういえば説明してませんでしたね」
ターレスの街は職人の街であるといえるだろう。
それもエルフ、人間、ドワーフの3種族が強い都市ともいえる。
幅の広さではドレアが一番ではあるものの、3種族それぞれの大きな職人ギルドが存在しているのはこのターレスくらいなものだと思う。
ターレスの街近郊には鉄鉱石の産出量が豊富な鉱山が存在しているのでそれもあって賑わいを見せているのだ。
「ターレスは職人の街、鉱山の街さね。もし一品物の武具を求めたいならターレスは外せないよ」
「ほほぅ。技術の街なんですね」
「そうなんだよ。最近は異世界人からの情報提供もあって色々な部品の製造にも取り組んでいるらしいけどねぇ」
なんか馬車で同乗しているご婦人と仲良くなっているあいな。
コミュ力高いね? 俺にはそれ無理だわ。
「イリスお姉ちゃん、あいなすごいね」
「だなぁ。アルテミシアもやっぱりあれできないだろ?」
「うん、無理」
「あいなさんは愛されキャラなのですね~」
「あいなちゃんは愛されキャラよね~」
「あれは天然なのでは?」
エリアとグレースはあいなを愛されキャラと評価し、ブランは天然と評価している。
どっちにしても才能があるってことなのは間違いないかな。
俺もアルテミシアもこういうのは苦手だからわからないけど。
そんなこんなで馬車はどんどん先へ進んでいく。
歩きよりは断然早いので幾分か日程を短縮できそうだなぁ。
「そういえば聞いたかい? 今月公爵様があの街の館に滞在されるそうだよ」
「あー、話には聞いたな。またどこかの酒場にふらりと現れるのかねぇ」
「あの公爵様だしなぁ。庶民の酒場が大好きとかいう変わったお人だしありえるだろうねぇ」
馬車に乗っている間に不意に漏れ聞こえて来たそんな話。
どうやらタイミング悪くお偉いさんが街にやってきてしまうらしい。
お偉いさんが来るって聞くと意味もなく身構えちゃう俺としては若干憂鬱気分だ。
「そういえば聞いたかい? 国の末の姫様の話」
「姉を探してるって話か?」
「そうそう。考えてみればあれも奇妙な話だよな。名前や容姿を伝えればいいのに概要しか伝えてくれないんだぜ? 探しようがないだろうに」
「国の恥とか思ってるのかもしれないなぁ。だから特定されないようにあえて伏せてるとか」
「それじゃあ本当に探してるかなんてわかるわけもないか」
「どうだろうね~」
別の乗客の話。
どうやら神殿で聞いた件の姫様の件、まだ解決していないようだ。
だとしたらもう亡くなってるとかそういうことだと思うんだけどなぁ。
とはいえ、お家騒動が起きるような関係性ではなかったようだけど、はてさて。
「イリスちゃん……」
「ん~?」
「なんでもないわ」
「そ」
ブランは何か言いたげだったけど、俺にはどうしようもない話だよ。
「そういえば聞いたかい? 聖域の森に月の女神様の像を奉納するそうだ」
「太古の昔にいなくなってしまったっていう神様のことか? またなんで」
「さぁな。神殿が言うには女神様の考えらしい。そんな神託があったんだとか」
「神託ねぇ。そういえば聖女様はまだ勇者パーティーにいるんだっけか?」
「あぁ。幼馴染4人と一緒にいなさるらしい。近々城に来るっていう話もあるそうだ」
「あ~。人族の国側に現れた魔物の王討伐のためってやつか」
「王家の秘宝である【精霊の鏡】が必要ってことだな」
「ということはいよいよ決戦ってことか」
「そうなるな。早く解決するといいがね」
ふむ。
勇者パーティーは近々エルフの国に来るのか。
というかさっきから思ってたけどこの乗客、情報通過ぎない?
前世で昔やってたゲームにもすごい情報を知っている村人いたけど、もしかしてその類か何か!?
「ご乗車のお客様へご連絡です。まもなく夜になりますので、次の停留所で一晩停車致します。宿に宿泊される方は到着次第お手続きをお願い致します。出発は明朝6時となります」
と、ここで乗合馬車の乗務員から本日の運転終了の連絡がきてしまった。
どうやら今日はここまでらしい。
「イリスさ~ん。私たちはどうするんですか?」
ほかの乗客たちと楽しそうに会話をしていたあいながこっちにやってきた。
「俺たちは宿泊所脇の野営広場でテントだぞ」
「はーい」
まぁテントといいつつ家で寝るわけですがね。
そのことはその時まであいなには黙っておこう。




