第27話 異質で特別な地域ドレア近郊
「なんというか微笑ましい関係ですね」
地の精霊に生暖かい目で見られてしまった。
「さて、こちらが集積場です。インゴットにしたものと原石のままのがありますが、どちらがよろしいですか?」
やってきたのは地上でドワーフのドーレスさんに出会った付近にある大きめの建屋だった。
中には大きな炉があり、大量の石炭、木炭と大量の鉱物が積まれていた。
「鉄鉱石だけじゃなくて石灰とかもあるんですね〜」
「鉄鉱石と石炭や木炭、石灰石を使って作るんですよ。ここのは塊鉄炉なので塊鉄ができます。低温で作られるタイプの鉄です」
「なるほど~」
塊鉄炉は古くからあるタイプの製鉄炉だ。
塊鉄を作った後に職人が精錬して使える鉄にしていくという作業が必要になる。
これを更に発展させたのが高炉となっていくわけだけど、高炉になると塊鉄炉よりも規模が大きくなるので、この場所では厳しいのかもしれない。
「鉄精錬って面白いですね」
「青銅などは陶器でも作れるのでそちらも面白いですよ」
地の精霊は楽しそうに金属精錬について語る。
俺も正直興味はあるんだけど、しばらくは魔法錬金でインゴット化してしまうことになるだろう。
でもこういった魔法錬金があるせいで技術が発展しないのかもしれないと少し思ってしまう。
「うちでもこういうのは必要そうだよなぁ」
「色々やりたい。私も楽しみ」
「だな」
「いいな~。楽しそうです……」
「あとで案内するから安心していいぞ」
「やったー!」
羨ましそうにするあいなにもちゃんと声を掛ける。
あいなもスキルで武具作成するタイプだから普通の鍛冶屋というよりは魔法鍛冶屋なんだよね。
「それでどのくらい購入されますか?」
「あ~、ブラウプラチナ貨1枚分でお願いしても?」
「はい。アルテミシア様にお渡ししますね」
「ん!」
早速購入した鉄鉱石がアルテミシアによって収納されていく。
ブラウプラチナ貨1枚分なのでそれなりの量を購入したことになる。
これをあとで魔法錬金で精錬していく予定だ。
「ある程度お金がまとまってきたら他の資材も購入させてもらいますね」
「はい、お待ちしております!!」
というわけで、一旦この採掘場でのやりたいことは終了となる。
早速残りの時間でターレスの街に移動して、用事を済ませてからまたくればいいだろう。
「じゃあ俺たちは一旦ターレスの街に行きますね」
「ターレスの街ですか? そういえばターレスの街で仕事を探している精霊がいましたね。確か建築系だったと思います。探してみてはいかがでしょう?」
「建築系かぁ。ちょうど必要だったのでいいかもしれませんね。探してみます」
早速地の精霊から提供された情報をメモしておく。
アルテミシアのところに建物を建てるのに人材が必要だからね。
「では、また後程」
「はい、お待ちしております!」
こうして俺たちは地の精霊の採掘場を後にした。
まだ日が高いうちに少しでも先に進んでおこう。
しばらく進み、街道まで戻ってくる。
現在の街道の様子は特に異常はない。
早い時間帯のトラブルがまるで嘘のようだ。
「んじゃ今日は日が暮れるまでとことん歩いていくよ」
そんなわけで早速街道を歩き始める俺たち。
ちなみに、ドレアの街周辺には2本の川が流れている。
トリエステ川という名前の川で、昔いたらしいトリエステという探検家にちなんだ名前が付けられているそうだ。
ちなみにこの川、どちらも源流は同じだけど川幅がそれぞれ違うという特徴がある。
しばらく歩き続けているとやがて平原を越え、トリエステ川が見え始めてきた。
「川、ですね。結構川幅ありません?」
「うん。ターレス側の川って川幅が広いんだよ。ただこっちの川って若干浅いんだよね」
このトリエステ川は雨量が少ない時期であれば歩いて渡る人がいるくらいには広く浅いそうだ。
ただし、鉄砲水の際には突然増水することもあるので出来る限り橋を渡るのが無難だろう。
「そうなんですか。今の時期は川を歩いて渡れたりは……」
「しないかな? 今はまだ雨の多い時期だし」
「ちょっと残念です」
「まぁ俺もこっちのほうに来る機会あんまなかったしな」
ちなみに停留所は連絡塔ごとにあるので俺たちはいくつもの停留所をすでに通り過ぎている。
疲れはするけどなんか新鮮で歩き続けてしまった。
そのまま橋を渡ろうとすると橋の両サイドに警備隊の駐屯所が設置されているのが見える。
「こんなところに警備隊? なんでですか?」
「川を挟んで管轄が変わるからだよ。橋の向こうはターレスの街のターレス警備隊になるからね。その近くにも停留所があるからそこで馬車に乗り込む予定だよ」
「へぇ~」
ドレアの街とターレスの街の境界はこのトリエステ川で区切られている。
どっちの警備隊がどっちにいても問題にはならないが、盗賊や犯罪者の引き渡し先が変わってしまう点だけは注意が必要だ。
「あとは橋に問題が起きた時と川が増水して橋が沈んでしまった時とかの連絡のためでもあるね」
「あぁ~、そっかぁ。片方しかいなかったら情報が伝わらないかもしれないですもんね」
ちなみにターレスの街は自治区ではあるがエルフの国の公爵が治める公爵領の飛び地でもある。
これは聖域の森を管理するための措置なので例外的にそうされているそうだ。
この辺りは一応自治区なので各街で政策を決定しているんだけどね。
「エルフの国は辺境が自治区になっているパターンが結構あるんだよ」
「えっ? 人族の国とかと国境を接しているんですよね? 普通に侵略されません? いわゆる辺境を守る辺境伯とかそういう実力者が配置されているものじゃないんですか?」
ちなみにドレアから少し行った先にある人族の国境はあいなの言う通り辺境伯という爵位の貴族の領地となっている。
ではなぜ彼らがいてもここは自治区なのか。
「それは結局聖域の森があるからだぞ。あの付近で争うとどうなると思う?」
「え~っと、神様が怒……る?」
「不正解。精霊たちが牙をむくんだ。狩猟やある程度の伐採、採掘や農耕なんかは許可されているんだけど、戦争行為は禁止されてるんだよね。まぁすべては太古の昔の盟約に従っているという感じらしいけど」
そんなわけであの場所を侵略しようとすれば隣接している辺境伯領が滅びることになるというわけだ。
だからだろうか、年に数回その辺境伯自身がドレアの街と交流をしにきている。
実際自分の家の土地に自分たちを滅ぼせる爆弾が埋まっていたら相当嫌だろうし気を遣うだろうしね。
「ということは、ドレアには軍は置かれていないと」
「そ。だから警備隊なんだ」
「そうだったんですね」
「なのでターレスの街にも軍はいなくて警備隊が設置されているというわけ。まぁ大公領になっているのは説明した通りだけど、祭祀の場所みたいに思ってくれていいよ。実際供物なんかをターレスで用意したらドレアに運んでそこから聖域の森に運ぶみたいな動きをするから」
「はぇ~……」
というのがドレアとターレスの街の、そしてこの地域の関係性となっている。
ゆえに非常に平和なのだ。




