第14話 アルテミシアは甘えん坊
意図せず自分の土地を手に入れることになってしまったわけだけど、俺自身どうすればいいかわからない。
とりあえずアルテミシアに投げておこうかな。
なんとなくここにいるときくらいは素の話し方でもいいような気がしたので、丁寧に話すのは一旦やめにしてみた。
「でも俺って土地の管理とかやったことないんだよね。どうしよう?」
「手配は任せて。私やる。まず家用意する。そのあと工房。結構すぐできる」
「おぉ、そうなんだ」
アルテミシアはそう口にすると何もない中空に指を置き、真下まで一気に指を滑るように下ろす。
するとそこにはぽっかり黒い空間が開いてしまった。
そしてその空間に手を突っ込むと、次の瞬間何やら家のようなものを取り出したのだ。
「ふむ……」
思考を放棄した俺はその家のようなものを見上げる。
中々に大きい建物で3階建ての洋風の屋敷に見えるものだった。
「私の家。イリスお姉ちゃんと共同で住む。完璧。無限図書館にも繋がってるさらに完璧」
「俺の迷子フラグが立ったわ」
どう考えてもうっかり入って無限の世界に迷い込むフラグだろ。
「大丈夫。私が助ける。それに空間転移があるから1人でも戻ってこられる」
「おぉ、たしかに! でもさ、他の人間が迷い込んだらどうするんだ?」
一番の問題は万が一ほかの人間が迷い込んだ場合だろう。
まぁないと思うけど。
「知らない。人間に興味はない」
アルテミシアはばっさり切り捨てた。
「対価を払えるなら助ける。払えないならグッドラック」
俺を見てサムズアップする幼女である。
というか今更だけど、この世界って日本語と英語が混ざったようなそんな話し方をするんだよね。
でも言語のほとんどは英語みたいな感じの文字なんだけど。
「そういえば俺ってアルテミシアにどんな対価を払えばいいんだろ? すごく今更だけど」
不意にアルテミシアの口から出た対価という言葉が気になってしまったのだ。
俺、対価払える?
「これ」
そんなことを考えていると、アルテミシアは俺にぴったりとくっついてお腹に顔を埋めてきた。
そしてスーハースーハー呼吸音が聞こえ始めてきたのだ。
「く、くすぐったい……」
「イリスお姉ちゃん成分が対価。いい匂い。あと甘やかしと構ってくれる」
「あ、あぁ……」
どうやらアルテミシアの中では俺自身が対価になっているようだ。
それにしても、俺ってそんなに独特の匂いがするのかな?
神殿とかでも匂ってたりする?
そういえばエミルも俺を嗅いでたな……。
「お姉ちゃんも私を嗅ぐ」
「え? いやいいよ」
「嗅いで」
「う~……。はい……」
なんだこれ。
なし崩し的に俺もアルテミシアを嗅ぐことになった。
まるで動物の挨拶みたいだわ。
しかしアルテミシアはなんかこう、甘いような落ち着くような匂いがする気がする。
まぁよくわからないんだけど。
「パワー百倍。世界運営頑張る」
「とりあえず他の家と工房が必要かな。薬草農園もほしいけど、結構時間かかるよね?」
あっちの世界ではまぁそれなりにかかる。
早いものは早くて1週間とか2週間というのもあるけど、それはそういう植物なだけだからね。
「ん~。用地ごとに管理するからできるだけ早く収穫できるように調整する」
「おぉー。ならもっといろいろと作れるかもしれない」
「ん。必要そうな薬草類は野生のならいくつか生えてるはず。しばらくはそれ使って」
「ありがたい」
どうやら俺の今の職業に合わせて世界を作ってくれているらしい。
であるなら、とことん収穫してやろうじゃないの!
「イリスお姉ちゃんのためなら問題ない。一旦向こう戻る」
「そうだね」
そんなわけで俺たちは一度元の世界へと戻ってきたわけだけど……。
「おや、帰ってきたねぇ」
「どこいってたんだよ」
「イリスちゃあああん、お姉ちゃんショックで~!」
なぜかそこには師匠と負けヒロイン2人の姿があったのだった。
「何してるんですか?」
「面白いだろう? 2人ともイリスがいない間に目覚めたんだけどね、ずっとこんな調子なんだよ。それにしても、アルテミシアと契約するとは思いもしなかったよ。まぁ好かれるだろうとは思っていたんだけど、なにせこの子は引きこもりで出不精で人見知りだからねぇ」
「外に面白いことがないだけ」
師匠はアルテミシアの頭を撫でながらそう口にするが、アルテミシアはなんだか不満そうな顔をしていた。
「おや。あたしじゃだめかい。そっくりなんだけどねぇ」
するとアルテミシアはするりと師匠の手から逃れて、俺のお腹に顔からダイブしてしまった。
「違和感なし」
「やれやれ」
どうやら俺の親族ではあるけど好き嫌いがあるらしい。
てっきりルナの関係者なら問題ないのかもしれないと思っていたんだけど。
「なぁブラン」
「言わないで、ルビー」
「あんたらはいい加減におし。普通にしていればそのうちちゃんと契約できるようになるだろ。焦ったって絆は深まらないよ」
「「ぬぬー!」」
う~ん、ルビーもブランも好きだけど、やっぱりまだ俺の心に距離があるのだろうか。
それとも小さい子にはガードが緩いだけ?
俺は俺自身の気持ちがよくわからなくなっていた。
「さて。日が暮れないうちに、イリスには学園に魔法薬の配達に行ってもらおうかね。西地区のドレア都市学園へ行っておいで」
「へーい」
どうやらまだ今日の仕事は終わらないようだ。
ところでルビーは引っ越しの話はちゃんとできたのだろうか。




