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 クルスはそのふてぶてしい態度を崩すことなくソファーに寄りかかっている。B級冒険者。目の前の男はそれを納得させるだけの存在感を放っていた。その身のこなし、佇まい、そしてその胆力、どれをとっても一級品である。


「B級冒険者……そんな者まで」


 自分と同じ級位の者が、まさか例の薬物に関わっているとは思ってもいなかったのだろう。エルティナはあからさまに顔をしかめる。その露骨な態度に、しかしクルスは悪びれる様子もなく肩をすくめてみせる。


「嫌な顔をするなよ嬢ちゃん。お前さんも冒険者みたいだしよ、仲良くしようや」


「……馴れなれしく話しかけるな」


 怒りを顕にするエルティナであるが、クルスはやはり態度を変えるようなことはしなかった。


「まぁそう怒るなって」


「クルスさんが怒らせているんでしょう」


「俺は何も悪くないぞ」


「その態度が原因だと言っているんです」


「そんなもん知らん」


 クルスとエルティナの間にユリウスが割って入る。そして宥めるようにエルティナに向き直る。


「すみません。あの人は昔から人の神経を逆撫でするような人なもので……。後で説明すると言っていますし、ここは一旦抑えて頂けると私もとしても助かります。どうかここは」


 そういってユリウスは皆に頭を下げる。


「別にユリウスさんが頭を下げる必要はないです。……、わかりました」


 いってみればユリウスもこちら側であるにも関わらず、場を治める為に頭を下げるその姿勢に、さすがのエルティナも引かざるを得ない。


 重苦しい空気が室内に流れる中、部屋の扉をノックする音が。そしてその扉の向こうから、バスチアンの声が聞こえてくる。


「失礼します」


「おっ、やっとお出ましか」


 扉が開かれ、バスチアンが入室してくる。そしてさらにその後ろから入室してくる者が数名。一人はこの家の女中と思われる女性。そしてもう一人はバスチアンと同じような格好をした執事。そして最後に入ってきた人物――――


「本日は我がエヴィル家にお越し頂き、ありがとうございます。我が父ジルクが娘、オリヴィアが、心より皆様を歓迎致します」


 オリヴィアと名乗る女性は、その洗練された動きでキース達に挨拶をする。


「なぜオリヴィアお嬢様がこちらに?」


 現れたオリヴィアに戸惑いを見せるユリウス。しかしそれはキース達も同じである。唐突に屋敷に呼ばれたと思ったら、いざ現れたのが現当主のエヴィル卿ではなくその娘のオリヴィアであった。


「お久しぶりですユリウスさん。以前お会いしたのは、確か五年ほど前でしたでしょうか」


 にっこりと笑うオリヴィアに、ユリウスは慌てて頭を下げ礼をする。


「そんな畏まらないで下さい。ユリウスさんは名実ともに一流の冒険者。対して私は、ただの未熟者でしかありません」


「そのようなことっ!」


 勢いよく顔をあげるユリウス。そんなユリウスにオリヴィアは笑顔を浮かべて手をのばす。


「それに、私としては以前のようにもっと親しみをもって、砕けた感じで接して頂けると嬉しいのですけどね」


「それは……お嬢様は当時まだ八つでしたし、堅苦しいのは嫌だとごねられたものでして……」


「あら、でしたらまたごねれば良いのですね」


「っ?」


 目を見開き驚くユリウス。その様子を笑って見つめるオリヴィアに、観念したのかユリウスは苦笑いしながら立ち上がる。


「……まったく、大きくなられたのにお嬢様は相変わらずのご様子で」


「人間そう簡単には変わらないものです」


「そんなことはありません。始めてお会いした時はまだ小さな子どもでしたのに、今ではこのような素敵な女性になられて」


「あら、ということは、昔の私は素敵ではないということですか?」


「あっいえ!! そのようなことは!!」


 慌てふためくユリウスを見て、無邪気な笑みを浮かべるオリヴィア。まるでイタズラが成功して喜ぶような、そんな屈託のない笑顔に、ユリウスは本日何度目かわからないため息をつく。


「本当勘弁して下さいお嬢様」


「うふふ」


 一通りからかって満足したのか、オリヴィアはその視線をユリウスからキースらへと向け直す。


「他の冒険者の皆様も、よければ楽にして下さい」


 にっこりと笑顔を向けるオリヴィアに、戸惑いをみせるキース。そしてそれは他の面々も同じようで、どう接してよいか迷っているようだ。


「にゃっ! ミィーケだにゃ!」


 そんな他の仲間の様子などまったく気にする素振りも見せず、ミィーケがオリヴィアの前に直立し手を差し伸べる。


「まぁっ! 猫さん!! 私、猫人さんに始めてお会いしましたっ! うふふ、オリヴィアって言います。よろしくお願いしますねミィーケさん」


「にゃっ!! よろしくにゃ!!」


 差し出されたミィーケの小さな手を握り返すオリヴィア。


 相手が誰であろうと変わることのない態度をとるミィーケにキースは冷や汗をかく。しかし、そんなミィーケの態度に気を悪くする様子もないオリヴィアに、ほっと胸をなでおろす。


「ったくお前は本当に……。  ご紹介が遅れて申し訳ありませんでした。 イデアラン冒険者組合所属、キースです。本日は御屋敷にお招き頂き有難うございます」


「同じく、冒険者のソフィアです。本日は有難うございます」


「ミルディア冒険者組合所属のエルティナです」


 一人ひとりの自己紹介に、オリヴィアは丁寧に握手をして応えていく。その飾らない人柄に、キースたちは好印象を抱く。貴族としては誤りなのかもしれないが、ただの一般人であるキース達からしたら、どうしてもそちらの方が好ましく思ってしまう。


 一通り挨拶を終えた所で、ミィーケがオリヴィアに話しかける。


「オリヴィアに聞きたいにゃ! オリヴィアのとうちゃんは何処にいるにゃ!」


「え、お父様ですか?」


「そうにゃ!!」


 突然のことに驚いた様子をみせるオリヴィア。


「えっとお父様は……。 お父様にどのようなご用件が……」


「にゃ! 思いっきり顔を引っ掻いてやるにゃ!!!」




 スパコォーーーーーーン!!!




「にゃぁぁっ!!! 痛いにゃ!!! にゃにするにゃキース!! なんで頭引っ叩くにゃ!! 」


「馬鹿だろお前っ!!!」


「にゃあっ!! バカはキースだにゃ!!!」


 飛びかかってくるミィーケの頭を再び引っ叩く。


「痛いにゃ!! なんで叩くにゃ!! いい加減にするニャ!!」


「いい加減にするのはお前だ!!!!」


 突然の事に目を白黒させるオリヴィア。しかしそんな彼女を他所に、キースは暴れるミィーケを取り押さえるのに手一杯なのであった。


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