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ミィーケの行動はとても褒められることではない。しかしその気持は分らなくはない。とはいえ、だからといって暴れていい理由にはならないのだが。
「うちのバカ猫が申し訳ない」
深く頭を下げる。しかしそんなキースの態度にオリヴィアはただ笑顔で応えるだけであった。どうやら不敬罪で即処刑ということは回避出来たらしい。
「ミィーケさんは少しやんちゃな所がありますからね。仕方がないことだと思います」
「あれをやんちゃで済ませたら駄目だろ……」
相変わらずユリウスはミィーケにあますぎる。
「でも、ミィーケさんの考えも理解出来るは本当です」
笑顔をみせるユリウスではあるが。その瞳はクルスを、そしてオリヴィアを見据えていた。
「オリヴィアお嬢様、なぜ私達を屋敷へ招いたのでしょうか」
その真意を確かめるために、ユリウスはオリヴィアに真っ直ぐ向き直る。その視線をオリヴィアは真正面から受け止める。まだ小さな少女であるはずのオリヴィアだが、その立ち振舞は高位冒険者にひけをとらないものであった。
「本日ユリウスさんを、そして他の冒険者の皆様方をこの屋敷に招待したのは、他でもありません。皆様が調べていた事についてです」
「……」
オリヴィアの様子に、ユリウスは、そしてキース達は確信した。
「例の薬にエヴィル家が関わっている……というのは、事実のようですね」
「はい」
オリヴィエは迷いなく告げる。
再び飛びかかろうとするミィーケをキースは押さえつける。そしてオリヴィアをまっすぐ見据え言葉を投げかける。
「私は辺境のイデアランから薬の出処を調査するためにこの街まで来ました。そして捜査を進めていく内に、この街でも例の薬の存在が明るみになりました。そしてエヴィル様は、自身がその薬に関わっていると仰られた」
キースの言葉を、オリヴィアこれまで浮かべていた笑顔でなく真剣な表情で聞いていた。
「疑問に思うことは色々とあります。ですが、これだけはどうしても聞いておかなければならないと、そう思いました。エヴィル様、もしよければ教えて下さい。なぜあの薬をイデアランに広めたのですか」
オリヴィアの表情が僅かに動いた。
「そこが私には納得出来ないんです。この街では薬は徹底して管理されていた。表沙汰になることはありませんでした。エヴィル家が関わってると知り得たのもただの推察に過ぎません。証拠もありませんでした。ですが、イデアランでは、薬は安易に捌かれ、そして一部に蔓延した。明らかに状況が違います。イデアランに薬を持ち込まなければ、私達もこの街にくることは無かったと思います。でも実際は違った。それはいったい、なぜなのか。それが私にはわかりません」
「……」
オリヴィアは黙ってキースの言葉を聞いていた。キースが話し終えた後も、しばらく無言でキースを見つめていた。これまで黙ってキースの話を聞いていたオリヴィアは、しかし、静かに口を開く。
「イデアランでは、どうなったのですか?」
「――若い冒険者が、犠牲になりました」
「…………そうですか」
オリヴィアは目をつぶる。その顔はどこか悲しみをおびているようにキースには見えた。いや、実際そうなのかもしれない。目を開けたその瞳には、悲哀が浮かんでいた。
「犠牲になった方々には、大変申し訳ないことをしてしまったと思っております。エヴィル家から正式に謝罪するということは出来ませんが、私個人として、オリヴィアがお詫び申し上げます」
そうして静かに、ゆっくりと頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
その姿にキースは面食らう。貴族のご令嬢が頭を下げる。その行動は決して軽く受け流してよいものではない。いくら個人的にとはいえ、立場としてはオリヴィアは紛うことなき貴族である。そんな者が、冒険者相手に頭を下げる。
突然のことにキースを始め、他の面々も戸惑っている。それはユリウスも同じであった。
皆が戸惑い、どうしてよいか困惑しているところに、クルスが声を上げる。
「嬢ちゃんが頭を下げる必要はねぇよ。別に嬢ちゃんは悪くねぇんだからな」
「クルスさん。ですが――」
「そもそも、嬢ちゃんみたいな年端も行かない小娘があれこれ背負うこと事態間違ってんだよ。確かに嬢ちゃんの立場からしたら、いや、嬢ちゃんの立場だからこそなのかもな。だったらなおこのと頭を下げる必要はねぇ。嬢ちゃん、お前は少し優しすぎる。そんなんじゃ貴族としてやっていけねぇぞ。―――まぁそんな嬢ちゃんだからこそ、俺は嬢ちゃんを気に入ってるんだがな」
クルスは豪快に笑ってみせる。そしてその視線をオリヴィアからキースへ向けなおす。
「キース、だったか。まず初めにはっきりさせときたいんだが、嬢ちゃんにあの薬をばら撒こうって意思はねぇ。そもそもアレは、外には出すつもりはねぇ代物だ。それがお前さんの町に薬が流れたのは、ある意味偶然だ。事故といっていい」
「それは、どういう意味だ」
「そのままの意味だ。そもそもあの薬は――」
そこでクルスは一旦言葉を止め、オリヴィアの方を見る。
「こいつらに話しちまうが、それでいいんだな?」
少しの沈黙の後、オリヴィアはゆっくりとうなずく。
「はい、そのためにユリウスさんや他の皆様を屋敷へと招いたのですから」
「ということだ。だが、これから話すことは気軽に触れ回っていいもんじゃねぇ。事情は話す、だがお前らには口を噤んでもらう、他言無用だ。それが出来ないってんならここから立ち去ってもらう。勿論今日この場での出来事も秘密だ。もしそれを漏らそうというってんなら……」
「……口封じですか」
「そう物騒なものじゃねぇさ。無闇矢鱈に言いふらすなって言ってるだけだ。ユリウス、お前は組合から調査を命じられているんだろが、依頼の中には守秘を課されるものもあるだろう。それと同じだ。組合長には俺から話す。だが、そこで終わりだ。他の職員にも、冒険者内にも、話を広めさせることはしない。それだけだ」
そしてユリウスはキースの方を向く。
「そっちの組合にも話は通す。だからそれ以上は話を広めるな。理解したか?」
「……もしこの件が大規模な犯罪に関わるようなら、それを見過ごすことは出来ない」
「安心しろ、そんな大層なことではない。ただ秘密にしなきゃならねぇことには、理由があるってだけだ」
キースはソフィア、そしてエルティナの方を見る。
二人は戸惑いながらも、しかしその意思をキースに伝える。
それを受けキースはクルスへと向き直り応える。
「了解した。安易に触れ回らないと約束しよう」
「そうか。ユリウス、お前もそれでいいな」
「もとより、ここで引き返すという選択肢は私にはないですよ」
この場の全員の意思を確認したクルス。
そうしてクルスはキース達にことの顛末を話し始めるのであった。




