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バスチアンに案内され向かった応接室にて腰を下ろす。室内に置かれている様々な調度品は、そのどれもが逸品のように見える。さすが貴族とでもいうべきであろうか。
ジルク・ララ・エヴィル男爵
この王国にて高名な武人として名高いその貴族に屋敷へ招待された。形だけ見れば、これは名誉なことなのかもしれない。だがそれをそのまま受け取る者はこの中に誰もいないであろう。
キース達は例の薬物を調査しにノーリウスにやって来た。そして薬の行方を調べていく内に、その背後にいるエヴィル家の存在に気がついた。
そしてその直後、その当の本人であるエヴィル家から直々に屋敷に招待。これで警戒しない方がどうかしている。言ってみればここは敵の本拠地、何が起こっても不思議ではない。
キースらが警戒して待機している中、ノックもなく応接室の扉が開かれる。そしてその扉から一人の男が入ってきた。
身の丈は成人男性よりも頭二つ分大きい、そしてその横幅もそれに見合うだけの厚みがある。一目見て常人のそれを凌駕する体躯に、しかしキースはその男をみて眉をひそめる。
あまりにも貴族らしくない。いくらエヴィル卿が武人だとはいえ、今目の前にいる男は貴族それとは程遠い。どちらかといえば、荒事を生業とした、そう冒険者のような、そんな雰囲気を感じさせるそれであった。
疑問を浮かべるキースであったが、そんなキースよりも、より困惑の表情をする者がいた。そしてその者は目の前の男のものと思われる名前を口にする。
「なっ!? なぜクルトさんが此処に……?」
ユリウスが目を見開き目の前の男、クルトへと問いかける。名を呼ばれたクルトは、その凶暴な顔を歪め口角を上げて歯を見せる。
「ようユリウス。お前が来たっていのを聞いてな、こうして顔を見に来てやったぜ」
豪快に笑うクルトは、ユリウスに近づきその背中を力強く叩く。その大きな躯体を生かした一撃に、並の人間なら簡単に吹き飛ばされそうなものだが、それを受けたユリウスはさして動じることなくその場に留まる。
その音に驚いたミィーケが後ろへひっくり返っていたが、そんなミィーケを笑うことは出来ないだろう。近くにいたソフィアも若干顔をひきつらせていた。
「……いい加減その馬鹿力なんとかしてくれませんか……。こっちの身が持たないんですけど」
「はっはっは! かたいこと言うなっ!」
クルトは悪びれる様子もなく笑う。そして更に背中を叩こうとするが、流石にうんざりしたのだろう、ユリウスはその軽やかな身のこなしでそれを回避する。
「ったく、相変わらずだなユリウス。男ならもっとどっしり構えろ」
「相変わらずなのはクルトさんです。もっと静かにいられないんですか」
「俺は俺だ。変えられんし、変えるつもりもない」
「はぁ……」
ユリウスが深い溜息を吐き諦めたように俯く。そしてゆっくりと顔を上げると、その瞳には、冗談が消えていた。
「それで……なぜクルトさんがここに居るんですか」
「言っただろう、お前の顔を見に来たってな」
「答えになっていません」
より一層鋭い視線を向けるユリウスを見て、クルトはさらに口角を上げる。
「腕ずくで聞いてみたらどうだ?」
「……」
ユリウスの顔から一切の表情が消える。しかし、その内から漏れ出る圧力に場の空気が一瞬で変化する。その本気の姿勢に、しかしクルトはその態度を変えることなく、ただ笑ってみせるのみであった。
「お前は本当に変わらんな。もっと肩の力を抜けと言ってるだろう。真面目なのはいい事だが、真面目過ぎるのはいかん。自身に余裕を持て。でなければさらなる高みには行けんぞ」
「……」
「まぁ、今更言ったところで簡単には変わらんか。でも覚えておけ、お前はもっと上に行ける人間だ。そしてその為には強くならねばならん。それは腕っぷしだけではない。その精神力もだ」
ユリウスの鋭い視線を気にするでもなく平然とするクルトは、その悠然とした態度でどさりとソファに腰を下ろす。
「なに、後で説明することになるだろうからそん時まで待ってろ。二度手間は面倒だ」
「……」
鋭い視線を向けていたユリウスだが、ソファでくつろぐクルトをみて、少しだけ表情を柔らかくする。
「納得のいく説明をしてくれるんでしょうね」
「お前が納得するかどうかは知らん。自分で納得しろ」
「……なんですかそれ」
諦めたように肩を落とすユリウス。だが、先程までの威圧は消えているので、ユリウスの中でひとまず置いておくことにしたのだろう。
そこで皆のことを思い出し、ユリウスは慌ててキースたちに謝罪する。
「お騒がせしてすみませんでした」
「いや、それは構わない――――」
「本当そうだぞー。騒がしくするなー」
「クルトさんは黙っていて下さいっ!」
「はっはっは」
不遜な笑い声を上げるクルトに、ユリウスは声をあえげて文句を言う。
「あっ、本当にすみません!」
「……色々と大変そうだな」
「……はい」
肩を落としゲンナリするユリウス。しかしこのままただ呆れるままではいけないと判っているのだろう、気を取り直し、改めてキースたちの方へと向き直る。
「いきなりの事で私も詳しい状況はわからないのですが……」
ユリウスはちらりとクルトの方を一瞥する。
「あの人はクルトといって――――ノーリウス冒険者に所属する、B級冒険者です」
「よっ! ご紹介に預かったクルトだ! よろしくなっ、お仲間さん!」
B級冒険者クルトは、その凶暴な笑みをより深くし、片手を軽く上げキースたちに挨拶するのであった。
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