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79 人選

 真剣な眼差しで仕事の内容を告げる補佐長。そこに冗談のようなものは一切感じ取れない。そんな補佐長の態度に、だからこそキースは自身の疑問を投げかける。


「出どころを探る、ですか。それは調査ということですか」


「そう取ってもらって構わない」


「お言葉を返すようですが、何故自分なのでしょうか。補佐長も知っているとは思いますが、私はD級冒険者。長年冒険者をしていたというだけが取り柄の、たいした実力も持ち合わせていない下っ端です。そんな私に組合から直接の依頼。正直力不足かと」


 そう、明らかにおかしい。先の話をするならば、この件はかなり重要な案件である。それをこんな下っ端に任せるなど本来ありえない。重要な仕事にはそれに見合うだけの力が必要なのだ。残念ながらキースでは力不足。そして何より、キースは冒険者としては二流のD級冒険者。冒険者という枠組みでみても、なんら権限を持ち合わせていない。


 例の薬の出どころはノーリウスとのことだが、他所の街で活動するとなると、ある程度の実力、そして権限が必要になるだろう。その全てがキースには足りていない。イデアランであればこれまでに築き上げた人脈などので、キースでもある程度動くことは出来る。だが他所の街ではそれすら無理である。


 勿論個人的に調べるのであれば、それでも構わないのかもしれない。出来る範囲でちまちまと調べればいい。だが補佐長が言う調査はそういった事をいっているのでない。組合として調査しろと言っているのだ。そこには成果が求められる。明らかな人選的誤りである。


「キース、お前の言いたいことも分かる。だがこれは既に決定したことだ。冒険者である以上組合の決定には従ってもらう」


「決定云々の前に、ご説明願えますか。何故自分なのか」


 キースの発言を受け、一呼吸の間を置き、補佐長が説明を始める。


「今回の件に関して帝国から流れてきた薬はこの国では馴染みのない物だ。そのためその薬物に精通しているものが組合には存在しない。だが、例の薬に精通していないまでも、それなりに薬学に詳しい者が関わる必要がある。キース、お前は薬学に関して言えば冒険者の中でそれなりの知識を持ち合わせている方だ。今回の件は薬絡みである以上、知識を持ち合わせた者が対応するのが自然の流れだ」


 補佐長の言うことは確かに一理ある。キースはこれまでの経験から薬学に多少なりとも知識があり、これは長年培ってきたものだ。それらは今回の調査をする上では多少は役に立つだろう。しかし、だからといってそれで全て決めて良いものではない。


「だが、何も全て一人で抱える必要はない。今回の調査では複数の人数で向かわせるつもりだ」


「他にも、ですか。その人物とは」


「キース、お前のところに一人、転がり込んでいる人物がいるだろう」


 キースの眉がピクリと動く。


「そう構えるな。別に彼女をどうこうするつもりはない。過去はどうあれ、そもそも彼女にはなんの落ち度もない。今回彼女には組合から正式に依頼を出すつもりだ。そしてキース、お前には組合からの人員として彼女に付き従って調査してもらう」


 どうやら既に補佐長にはミィーケの事をある程度知られているらしい。彼女が薬学に詳しいことも、彼女の兄が例の薬を作り上げた事も。そしてそれらを知った上で、あえてミィーケに調査の依頼をするということか。


「……ミィーケがこの依頼を受けるかどうかまだわかりませんよ」


「引き受けてもらえるように交渉はする。そして彼女の事情を鑑みるに断るという選択はとらないだろう。だが今直ぐに、というわけにもいくまい。彼女も気持ちの整理が必要だろうからな。十日を目処に動いてもらおうと思っている」


 補佐長は真っ直ぐに、キースを見据えて口を開く。




「そして組合からはお前の他に、ソフィア(・・・・)にも調査に加わってもらうつもりだ」




 補佐長の言葉にキース表情が強ばる。


 やはり補佐長はソフィアの(・・・・・)能力に(・・・)感づいている(・・・・・・)


「……何故、ソフィアを?」


「キース、お前が(・・・)話したくない(・・・・・・)と言うのであれば、無理に詮索するつもりはない。だが今は少しでも人手が欲しい。不本意かもしれぬが、使える者は使う」


「ですが……」


「今回はあくまでも出どころの調査であり、流通経路を調べ、そしてそれを組合に報告するのが目的だ。その行商人とやらを見つけて捕らえろと言っている訳ではない。わざわざ危険に首を突っ込む必要はない」


「それならば、なおさらソフィアには関係ないのでは」


「用心に越したことはない。彼女がいれば万が一に備えることも出来るだろう。それに彼女は現在治療院で働いている。それなりに薬学に詳しいだろう。それも加味しての人選だ」


「……」


 そう言われると反論するのは難しい。彼女は冒険者にしては珍しく、荒ごとではなくそちらを主に活動している。薬学に関して言えばむしろキースよりも造詣が深いだろう。人選としては間違ってはいない。


「……彼女にはこの話を」


「いやまだだ。先ずはお前に話を通しておこうと思っていたからな」


「……そうですか」



 暫くの沈黙。



 目をつぶって何かを考えるキース。そして己の中で決断をしたのか、キースが目を開けそしてその意を伝える。


「……彼女には俺から話をしておきます」


「――――そうか、わかった。では詳細などは後日改めて伝える。下がっていいぞ」


 キースは頭を下げ、そして部屋を後にするのであった。


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