80 返答
日が沈み、街は暗い闇に包まれる。人々は思い思いに行動する。あるものは家族の元へ、あるものは夜の街へと繰り出す。
そんなある部屋にて食事をするキース。そして目の前には机を挟んだ反対側にて同じく椅食事をするこの部屋の住人。
部屋の住人――――ソフィアは食事をしながらキースに話しかける。
料理を口にしながら、キースは先程補佐長から受けた話をソフィアへと説明していく。このイデアランに帝国から流れてきた危険な薬が出回っていること。それにより既に実害が出始めていること。それを受けその薬の出どころの調査を薬学に造詣のあるキースに話が回ってきたこと。そしてソフィアもこの調査に同行するように言い渡されるであろうことを。
「これは組合からの正式な調査依頼。だがもしソフィアがこの依頼を受けたくないのであれば断ってくれても構わない。無理に受ける必要はないさ」
これまで淡々と話を聞いていたソフィアは、なんでもないといった風に応える。
「出立はいつ頃なのですか?」
「十日を目処にといったところか」
「十日ですか、思ったより時間があるんですね。わかりました。シルビァーナさんにはそのように伝えておきます」
あっけらかんとした様子にキースは思わず呆然とす。
「……断ってもいいんだぞ?」
「キースさんは私と行動を共にするのが嫌なんですか?」
「いや、そういう訳ではないが」
「なら別に問題ないかと」
あいも変わらずといった様子のソフィアに、キースは苦笑いするしかなかった。
「なんとまぁ、逞しくなったもんだ」
「それはもう、ええ。シルビァーナさんの下でお仕事させて頂いていますから」
「これはシルビィに文句を言わなきゃな」
声を上げて笑うキースに、ソフィアもクスクスと笑みを浮かべるのであった。
「それでミィーケさんも調査にと言ってましたけど、お伝えしたんですか?」
「いや、まだだ。帰ったら伝えるつもりだよ」
「ミィーケさん……引き受けるのかな……」
「どうだろうな。だが、もし受けたくないと言うのであれば、無理強いにするつもりはない。今回の一連の出来事、確かに事の発端はミィーケの兄なのかもしれない。しかし、だからといってミィーケがその責任を取る必要はない」
ミィーケにとってはあまり掘り返したくない過去であるはず。それを無責任に踏み込むことはキースはしたくなかった。
「もし断ったとしても、俺はミィーケの意思を尊重するよ。ミィーケには調査の間家の留守を頼むとするさ」
「またアンブロシアを使っちゃったりして」
「爺さんの腰がより一層元気になっちまうな」
アンブロシア腰痛薬はそれはもう見事な効果を見せ、薬を使用した爺さんは今では若者以上に元気でだったりするのだが。その姿を思い出しキースはクククと腹を抱えて笑いだす。
「まぁ誰かが元気になるのであれば、使っちまってもいいかもな。薬なんて使ってなんぼだ」
「そんな気軽に言えるのキースさんだけですよ。他所では滅多に手に入らないんですから」
「そんなもんかねぇ」
「そんなもんですよ」
その後も二人は軽い雑談を交えながら食事をしていく。食事自体はさして豪華という訳ではないが気の置けない人物と一緒にするというだけで満足出来るものである。
食事を終えた二人は後片付けをし、その後ゆったりとした時間を過ごす。椅子に座り寛ぎ、今日何があったかなどの他愛のない会話をする。
そうして安らかな時間を過ごした後、キースは椅子から立ち上がり、腕を上にし身体を伸ばしていく。
「さてと、もう良い時間だしそろそろ帰るよ。ミィーケに説明もしなきゃならんしな」
扉へ向かうキースを見送るようにソフィアも扉へと歩いていく。
「夜道に気をつけて下さいね」
「心配はいらんさ」
笑って応えるキースに、ソフィアも微笑みをもって返す。
「キースさん、また明日」
「ああ、またな」
ソフィアの肩に手を添え、そして別れを告げるキース。
歩き去っていくキースの後ろ姿をソフィアは手を振って見送るのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――――というわけだ」
「……」
部屋に戻ったキースは、組合で言われたことをミィーケへと伝える。話の途中もミィーケは布団にくるまり、じっと動くこと無く丸まっていた。
無理に受ける必要はないことは既に知らせている。後はミィーケ自身の問題、自分の意志で決断するべきだ。
「今すぐに返事をしなくてもいい。まだ時間的猶予はあるしな。ゆっくりと考えてるといいさ」
伝えるべきことを伝え終えたキースは、明日の仕事に向けて支度をしはじめる。装備類を整備し道具や薬草などを整理する。こういった準備は地味ながら仕事をする上では欠かすことの出来ない大切なことである。大きな冒険をするわけではないが、キースはこういった下準備を疎かにすることはこれまで一度もなかった。
入念な準備を終えたキースは、未だ布団にくるまっているミィーケを横目に自身も就寝の用意をする。上着を棚に置いた後、濡らした手ぬぐいで身体を軽く拭いてゆく。
「ほら、寝るから端にのけ」
寝床の中央に一度っているミィーケを手で押しのけ端へと寄せる。そしてその隣に身体を滑り込ませて横になる。布団にくるまっているミィーケから無理やり布団を引っ剥がし、そして自身に被せるように布団を掛け直す。
「……寒いにゃ」
「自前の毛皮があるんだから寒くないだろ」
「……猫人差別にゃ」
「人間族は布団がないと風邪を引くんだよ」
「……キースは風邪引かないにゃ」
「言ってろ」
しばらくし、ミィーケがもぞもぞと動き出しキースの布団の中に潜り込んでくる。それに対し何を言うでもなく、ただ無言でミィーケを受け入れる。
「…………ウチも行くにゃ……」
「……そうか」
小さな声でつぶやくミィーケ。
キースも小さな声で返事をするのであった。
いやはや、投稿に結構時間がかかっちゃいましたね……
これからはもう少し投稿頻度が上がると思いますので、引き続きお付き合い頂けますと大変うれしく思います。
評価や感想なども広く募集しておりますので、そちらの方もよろしくお願いいたします。




