78 調査
「まさかこの強化薬を作ったのがあの猫人の兄だったとはねぇ」
「何か知っているのか?」
治療院が破壊された事により、一時的に建てられた仮設の治療場にて椅子に座りながら手にした強化薬を眺めながら、なにやら意味深げに話すシルビァーナ。
「特別詳しいって訳ではないさね。ちょっとばかり関わったことがあるってだけさ」
「関わりがあるって。……もしかして以前帝国に行った時のことか」
シルビァーナは数年ほど前に帝国に足を運んでいた時期があったのだが、その時になにかしら接点があったようだ。
「この薬が帝国で確認され始めた時、これが厄介なものだといち早く察知した人物がいてね。そいつが私に助言を求め連絡を寄こしてきのさ。その話を受け私は帝国まで赴いて色々と動いていた感じさね」
「なるほどな。それで、具体的にどういったことをしてたんだ」
「これに依存性があるってのは猫人から聞いたかい」
「ああ」
「なら話は早いさね。これを使い続けた者はその依存性から使用を自ら止めることができない。そして後に来る後遺症に苦しめられる。私が行ったのは主にそこさね。依存を和らげ後遺症を軽減するための薬剤を調合し、それを患者に処方する手伝いをしたのさ」
「治療師として赴いたって訳か」
「そういうことさね」
それならばシルビァーナがこの強化薬のことを知っていても不思議ではない。そしてその話が本当ならこれらの対処法も知っているということである。
「組合の方では、これについての情報を集めているらしい。これが現在どれほどイデアランに蔓延しているのか、そして出処なども調べているとも。今のところそれほど多くは流れていないらしいが。より詳しく調査しないと実際のところはまだわからんといったところみたいだな」
「こっちでも少しばかり情報を集めてみるさね。まぁ、幸いなことにそれほど根深くは入り込んでいないみたいだし、今すぐ町がどうこうなるといった事は起きなさそうさね」
「念の為その治療薬ってのをある程度揃えて置いた方がよさそうだな」
「言われなくてもそいするさね。こっちは出来次第組合に渡しておくさ。しっかりと費用を納めてもらうけどね」
それほど広まっていないのであれば、そこまで多くは必要ないのかもしれないが、備えるに越したことはないだろう。まぁまずは状況を把握することの方が先決ではあるのだが。
「それで。その後の猫人の方はどうさね」
「まだ部屋で丸まっているよ」
「随分とショボくれてるさね」
「自分の兄が原因とはいえ、落ち込むのも仕方がないだろう」
そこでキースは、気になっていた事をシルビァーナに尋ねる。
「シルビィ」
「なにさ」
「ミィーケの兄は……その後どうなったんだ」
帝国では皇帝直々に薬の排除に動いた。であればその薬の調合者である者が平穏無事というわけにはいかないだろう。おそらくは――――
「処刑されたさね」
「……そうか」
「仕方がないとはいえ、猫人からしたら未だ想うところがあるのかもしれないさね」
「まぁ、こればっかりは本人の中で区切りをつけるしかないだろう。他人がどうこうするのは違うだろうしな。さてと、そろそろ行くわ。ついでに組合に顔を出して色々話を聞いてくるわ」
シルビァーナに別れを告げ、キースは建物の外へと足を運んでいくのであった。
―――――――――――――――――――――――――
冒険者組合に辿り着いたキースはそのままの足で受付へと向かう。昼過ぎということもあり特に混み合っているということもなく、待ち時間なく話をすることが出来た。
「キース」
受付で話をしていると、組合の奥から現れた人物に声をかけられる。しかしそれは自分が想像してた人物と違っていたので、キースは若干の疑問を感じつつその物に返事をする。
「補佐長自らお出迎えですか」
キースとしては今回の件で現場にいたハインズが出てくると思っていたのだが、補佐長自らキースに話があるとは。
補佐長は視線で奥に来るようにキースに促す。キースは受付に別れを告げ組合の奥へと進んでいく。
「わかっているとは思うが、部屋に呼んだのは例の薬の件についてだ」
部屋へ着くと前置きもなく補佐長が話題を切り出してくる。椅子に座って手を前に持ってくる形で話をすすめる補佐長。それに対しキースは部屋の中央で立ったまま話を聞いていく。
「全て把握している訳ではないが、イデアランの冒険者で例の薬を使っていた者の数が判明した。使用者は三名。皆若い冒険者だ」
「三人ですか。思ったよりも少ない……いや、これがこれからもっと増えると思った方がいいか」
「こちらもそう想定している。引き続き、比較的経験の浅い、若い冒険者を中心に調査していくつもりだ」
「古参連中は今さらそんな薬に手を出すとは思えないですからね。それにそんな年寄りどもが急に力をつけてきたら嫌でも目立ちますし。冒険者以外での広がりはどうなんですか?」
「そっちは管轄外故それほど踏み込んで調査することはできん。一応こちらでも調べて入るが、商業・生産組合などにも話を通し、方々で調べてもらっているところだ。それと領主にもこのことは伝えてある。そのうち何かしら指示が出るだろう」
「領主にまで話が進んでいるのですか。では他の街や王都にも」
「いや、どうだろうな。うちの領主は比較的まともな部類だが、他の貴族どもはすぐに動くとは思えん。あいつらは自身の損得でしか物事を測れないからな」
「随分な物言いですね。聞かれたら処罰もんですよ」
「下らん。私は事実を言ったまでだ」
補佐長は吐き捨てるように言ってのける。かなり辛辣な物言いだが、おおよそキースも同じ意見であった。どうにも権力者というものは好きになれない。
「話を戻すぞ。例の薬だがイデアランで作られた訳ではない。ということは当然のことながら他所から流れてきたというわけだ」
「大元の出どころが判明したのですか?」
「いや、だが行商人から入手したところまでは判明している。その行商人はノーリウスからこの町に来たらしい」
「ノーリウスですか」
ノーリウスといえば、ここから十日ほど離れた位置にある比較的大きな街だ。それこそこの辺境であるイデアランより何倍もの人口を誇る規模の街である。そこでキースにある疑問が生じる。
「ノーリウスから来たとなると、少し変ですね。行商人から流れたとなると、金銭が目的のはず。ならばこんな辺境で捌くよりもっと大きな規模の街、それこそノーリウスで捌いたほうが何倍も利益になるはず。それなのに何故イデアランに……」
「それはまだわからん。だがその行商人がこの町に持ってきたことは事実だ。その行商人が正規の商人かどうかは別としてな」
「……別の目的があると?」
「それはこれから調べることだ。そこでキース、お前に一つやってもらい仕事がある」
「仕事、ですか?」
「ああそうだ。正確に言えば組合から正式な依頼と言った方が正しいだろう」
「組合から直接の指名依頼ですか。こんなくたびれたD級冒険者にいったい何を依頼するんですか」
補佐長はその鋭い視線をキースに向け、そしてその依頼となる内容を口にする。
「キース、お前には例の薬の出どころを探ってもらう」
評価、感想、ブックマークお待ちしております。




