ディアンの友達
魔法学園と言われて想像していたものと、実際の学園はずいぶん趣が違った。
もっと博物館的な建物を想像していたんだけど。
実際には実用オンリーの装飾のない建物だ。
学園は長い平屋が延々と続く回廊のようになっている。
幾つもの教室が片側に並び、丸く繋がっていた。
中央には中庭が設けられていて、校庭の役割を果たしているようだ。
そして何より、学生と呼ばれる人たちの年齢が様々で、学園というより職業訓練校を思わせる。
振り分けられたカリキュラムに従って教室を移動し、必要な授業を受けるようだ。高校というより、大学や専門校の授業進行に近いように思えた。
私は特殊な立場上、午前中はシルビアさんから講義を受けて、午後からディアンに合流するらしい。
まあ、そうだよね。ディアンには彼の授業があるんだしね。
私が受けるシルビアさんの講習というのは、ディアンに借りて読んだ魔法書に近かった。魔法という曖昧なものを、ロジックに落とし込んで教える。
この世界の魔法というのは、四大元素の組み合わせで作られ、組み合わせ方で様々に応用していくモノらしい。そのために精霊とコンタクトを取る。幻獣というのは、四大元素を象徴する獣型の精霊と理解していいようだ。
町の方から鐘の音が響いてきた。
この町では時間ごとに合図の鐘がなるみたい。
「さて、これで午前の授業は終了だ。昼休みを取って、またここに戻ってきて。ディアンを呼んでおいたから、彼に食堂へ案内してもらうといい」
シルビアさんが静かに教科書を閉じる。
「なんか、すみません」
「何を謝ってるの?」
「お忙しいだろうに、個人授業とか」
彼女は面白そうに笑った。
「そんな事を気にする必要はないな。私も久しぶりに授業ができて楽しいし、リンは飲み込み早いしね」
「そうですか?」
「優秀だね。これなら、いくらも講義を続けなくて済むんじゃないかな」
その時、扉をノックしてディアンが顔を出した。
「ああ、ディアン。リンを食堂に案内して上げて」
「はい。行こう、リン」
私はディアンに連れられて、学園の食堂というものに行った。
まあ、学食。他に言いようもない感じに、学食。
トレーを持ってカウンターに並び、好きなものを取っていく形式らしい。
「学生は好きなの選んで食べていいことになってる。料金は掛からないから気にしない」
私はマッシュポテトとパン、そしてスープに。
「こ、これ……プリン?」
「プティングだな」
「卵とミルクとお砂糖? 蒸したヤツ?」
「まあ、そうだと思うけど」
なんと、この世界にはプリンがあった!
う、嬉しい。
ちゃんと甘みのある世界。
私がホクホクしてプリンを手にしたので、ディアンが笑った。
「リン、プティング好きなんだ」
「そりゃもう。バケツで食べたいくらい」
ディアンがちょっと引く。
「そんなに?」
「そんなに」
実は私とディアンは、物凄く人目を集めていた。
そうなんでしょうね。
ええ、私が召喚された人間なのは周知の事実でしょうから。
しかも、シレッと学校に通って来てるし。
とりあえず席につくと、赤毛に茶色の目でソバカスが浮いてる少年がやって来てディアンに聞いた。
「ここ、座っていい?」
ディアンが疲れた目で少年を見る。
彼と同じ歳くらいだから、友達なのかな。
「好きにしろよ」
「なんだよ、紹介くらいしてくれたっていいだろ」
「自分で名のれ」
美形率という点でアイアン家の人には劣るけど、それはアイアン家が特殊なんだよね。この子、すごく懐こい表情で愛らしい。目に優しくて大変に和む。
「あなた、召喚された人でしょ? 僕はマイケルっていいます。ディアンとは同級になるんだ」
彼は手を差し出して私に笑いかける。
「リンです」
彼と握手するのを、ディアンは溜め息混じりに見てた。
マイケルくんはディアンの隣に座ると、対面の私を見てニコニコ笑った。
「うわあ、近くで見ると、やっぱリンさん綺麗ですね。召喚された時、僕もそばにいて、美人だなって思ったんですよね。すごい、タイプだなって」
思わず笑ってしまうくらい、分かりやすいヨイショだなあ。
「ディアンはブスッ垂れてて、何にも教えてくれないんですよ。女性に向かって失礼かもしれないけど、気になってるんで聞いていいですか? リンさんって歳はいくつなんですか?」
「私ですか? 十九です」
彼は目を瞬かせて首の後ろを掻く。
「うわあ。年上かぁ」
この子は、なぜ赤くなってるんだろう。
「年上の女性か。いいなあ。アイアンさんの家にいるんですよね?」
「そうですね」
「おいおい、ディアン。こんな女性と同居なんて、くそ羨ましいじゃんか」
本当にノリのいい子だなあ。
「ここに居るってことは、魔法が使えるってことですよね?」
「ディアンがいればですけど」
「え?」
「ディアンがいないと使えないんです」
マイケルが口をあんぐりと開けた。
「リンさんは、ディアン専用ってことですか?」
なるほど。
そういう言い方もあるわけか。
「そうなりますね」
マイケルがガバッとディアンを向く。
「なんだ、お前、絞め殺したいくらい羨ましい」
「マイケルくん。それは止めて下さいね。彼がいないと私が困るので」
軽口を叩いたつもりだったのに、ディアンの顔が赤くなってしまった。
なんか、ごめん。
ディアンの様子を見たマイケルは、ガックリ項垂れてから言った。
「はああ。世の中って不公平に出来てるよな。こいつ、こんだけ美形でしょ? もう女の子にモテまくりなんですよ。羨ましいでしょ? なのに、面倒だっていうんです。ムカつきますよね。いらないなら、僕に分けろっていいたい。それが、今度は美人の年上女性が専用魔法使いでつくわけですか? どんだけ優遇されりゃ気がすむんだって感じ」
あんまり軽妙に喋るもんだから、私は思わず吹き出して笑ってしまった。
マイケルくんは、笑った私に親指を立ててウィンクする。
「おう。リンさん、笑顔もすげー可愛い!」
そうか。
ディアンはこんな子と友達なのね。
お姉さん気分で少しホッとしてる私がいた。




