制服
ライアンと分かれて自分の部屋に戻るとララさんがやって来た。
何やら大荷物を持っている。
「それで、ライアン坊ちゃんに何を買っていただいたんですか?」
何を買ったか……。
「ジュースを買ってもらいました」
正直に言ったら、ララさんが笑い出した。
「そんな事だと思いましたよ。あの方に女の子の欲しい物が分かるわけないんですから。心配ないですよ。私がちゃんと旦那様に頼まれて揃えましたから」
彼女の持って来た荷物には、数枚の着替えや靴、カバン、櫛と鏡、髪留めなんかが入っていた。ありがたいんだけど、なんか、少しヒラヒラし過ぎの物が多い気がする。
でも、その中に白いブラウス数枚と黒いスカートが入ってて、ほっとした。
これなら気恥ずかしくなくて着れそう。
「ああ、それは魔法学園の制服ですよ。飾り気もなにも、ないですけどね」
「そこがいいですね」
「そうですか? 汚れは目立ちませんけどね。さ、そこに腰掛けてください」
私を椅子に座らせたララさんは、髪を梳いてオイルを刷り込み、三つ編みを作ってまとめた。
そこに青い細めのリボンを結ぶ。
「本当に懐かしいですね。娘がいた頃は、毎朝のように髪を結ったもんです」
「そうなんですか? ララさん器用ですね」
「髪と肌の手入れは欠かさないでくださいよ。女性の嗜みですからね」
彼女はそう言って、化粧水とオイルの瓶を私に渡す。
「……面倒ですね」
「毎日の継続が美人を作る秘訣なんですよ。面倒がってはいけません」
目尻に皺を寄せて笑っているけど、ララさんの目は真剣だ。
毎日か、厳しいなぁ。
☆
本の小屋に行くと学校から帰ったディアンが、相変わらず難しい本を読んでた。
「おかえり、ディアン」
「……ライアンと町に行ったんだって?」
彼は本からチラッとだけ目を離して私を見上げた。
開口一番がそれなの……。
「うん。欲しいものがあったから」
私はララさんにもらったカバンから、紙とペン、それにインク入れを出した。
ふふ。
ちょっとホクホクしてるのよね。
これがあれば、図案の模倣も、レタリングの練習もできるしね。
「図案を真似してみたいから、本を借りてもいいかな?」
「いいけどさ」
ディアンが苦笑を浮かべて私を見る。
「もしかして、欲しかった物ってソレ?」
「そう」
彼は苦い顔になった。
「大丈夫。絶対に汚したりしないから」
「………そうじゃなくて。紙とかなら、俺に言えばあげたのに」
「え? そうなの?」
「そりゃ、学生だし。紙やインクの予備くらい持ってるよ」
私は額に手をやって悔やむ。
だって、そうなら、最初の日から模倣遊びができたって事じゃないの。
「先に言ってよ」
「いや、リンが欲しがってるの知らなかったし」
「だって、紙って高い物だと思ってたんだもの」
「まあ、割と高いけど」
「でしょう? 子供にねだる物じゃないじゃない」
ディアンがムッとしたように私を睨んだ。
「子供で悪かったな」
「別に悪くはないけど。私だって子供なわけだし」
そうですよ。親掛りでお金だしてもらって学校に行ってたんだし。
バイトする時間もなくて、お小遣いだってもらってた。
うううん。今更、親って偉大。
「だからって、ライアンにねだる事はないんじゃない。父さんに言えば済む事なんだし」
「別にねだったわけじゃないよ。欲しいものあるかって聞かれただけで」
ディアンは横目で私を見て、ふんっと本に目を戻した。
この子、もしかして私がライアンと出かけたから拗ねてるのかな。
お兄さんにコンプレックス持ってそうだし。
その気持ちは、出来の良い兄を持ってた私にも少し分かる。
「ねえ、ディアン。今日は学校で何を習ったの?」
私が彼の事に話を振ると、彼は本から目を上げて面倒そうに話しを始めた。
あくまでも、面倒そうに。
でも、彼の話は五分以上は続いたと思う。
そして最後に。
「その髪、どうしたの?」
「え? 髪? ああ、これね。さっき、ララさんがしてくれたの」
「さっき?」
「そう。部屋に学園の制服とか持って来てくれたから、その時」
彼は少し目を細めて。
「ふぅん」
とだけ言った。
なんなんだい、君は。
似合わないって言いたいのかい。
ディアンは、しばらくしてから、ボソッと。
「その髪型、似合うね」
そう言った。
なんだろうね。思春期の男の子って難しいなぁ。
☆
翌朝、私は自分で髪を三つ編みにした。この世界には髪留めのゴムはない。ゴム編みにされた糸を丸くして使うみたいだった。ララさんは本当に器用だよね。ピンもないのに、三つ編みお団子は私には無理。
一本三つ編みがせいぜい。ぞれでも、肩甲骨あたりまで伸びてしまってる髪は、まとめるとスッキリした。向こうではカットに行く時間もなかったから、伸ばしっぱなしだったしなあ。
そして学園の制服を着込む。白いブラウスと踝まであるフレアスカート。ブラウスには細い黒のリボンを結ぶんだそうだ。昨日、ララさんに教えてもらった。
もう一回、制服のある学校に通うことになるとはなぁ。
少し緊張してる。
本当に、ここに来てから新しいことだらけ。
食堂に行くと、アイアンさんが少し笑って私を見た。
「制服が似合うね、リン」
「ありがとうございます」
なんか、気恥ずかしい。本当にお父さんに愛でられてる気分。
「なにヤニ下がってんだ、親父」
ライアンさんが笑いながら食堂に入ってきた。
「いやあ、娘っていいね。男と違って華がある」
アイアンさんが嬉しそうに言うもんで、私はますます居心地悪い。
「野郎には華がなくて悪かったな」
ライアンはそう言って、私を見ると、ちょっと目を開いた。
上から下まで、しみじみ見ないで欲しいな。
なんか品評会に出されてるみたいで、恥ずかしいじゃない。
彼は甘いマスクを崩して笑った。
「確かに、可愛いや」
思わず私の顔に血が上っていくのが分かった。
もう、なんか、消え入りたい。
ララさんが茶器を揃えながら、二人を横目に笑う。
「はいはい。リンさんが可愛いのは今日に始まったことじゃないですからね。皆さん、早く席についてくださいな。遅刻しますよ。あら、ディアン坊ちゃん、遅いですね」
そこに欠伸しながらディアンが入ってくる。
「お前、また夜中まで本を読んでたのか? 目が悪くなるぞ」
アイアンさんが苦笑して眠そうな息子を見る。
「見てみろ、ディアン。リンは学園の制服がよく似合う。今日から学校だ、お前ぐらいしか知り合いはいないんだからな。彼女を頼むぞ」
ふっと私に目線をよこしたディアンが、欠伸を飲み込んで目を瞬かせた。
「あ……うん」
父親に曖昧な返事をして、すぐに私から目を逸らす。
まあ、十代の男の子なんて、そんなものよね。




