公衆の面前で?
ニコラが言うには、魔法暴走という状況に陥る所だったんだそうだ。
「すごく危険なんだよ。特にリンみたいに魔法エネルギーが強いと、魔法エネルギーが自我を傷つけてしまうことがあるんだ。そうなったら、社会復帰できない。廃人になる」
……廃人って。
怖いこと言わないでよ。
ニコラがホウッとため息をついた。
「メドヴェーチがベーズキャンプを襲って来たじゃん? 進行を阻止しようとして、ライアンが怪我をした。それで君は逆上したんだろうね。魔法力を一度に放出して、赤いライオンにシンクロした」
……ああ。シンクロ。
そういう言い方をされれば、とても納得がいく。
「覚えてるかい、リン。君は全身から赤い閃光を放って、メドヴェーチどころか、辺りに居た魔物を切り裂き続けたんだよ。君の体が燃えるように熱くなってて、止めようとしても近づけなかった」
ライアンが静かに頷く。
「ニコラが、リンを止めろって叫んでくれたんだぜ?」
ニコラはクスッと笑った。
「誰にも止められなかった。シルビアや、ディアンも、君に近づこうとしたけど、無理だったんだよ。近づけたのはライアンだけだ」
そして、悪戯そうに笑って私達を見た。
「ちょっと、劇的な光景だったよ。赤い閃光が燃えるように熱くて、誰も君に近づけない。しかも、誰が呼んでも無反応で突っ立ってたのに、ライアンだけが閃光を放つ君を抱きしめることができた。その上、呼んでも反応しない君に……」
ライアンがクッと息を飲むのが分かった。
ニコラは面白そうに続ける。
「キスしたんだ」
私がビックリしてライアンを見ると、赤くなって目を泳がせる。
ニコラは笑いながら言った。
「そしたら、リン。君の暴走はピタッと収まって、ライアンの声に反応した。しかも、彼の傷を心配してたよね。まあ、そのまま意識を失っちゃったけど。ライアンが崩れ落ちる君を抱き上げて、そのまま、このテントに運んできたんだよ」
私は何も言えないで、ただ、赤くなってるライアンを見つめてた。
ニコラは、そんなライアンを見て優しく微笑む。
「あの光景を見て、リンに言い寄ろうなんて男がいたら正気を疑うよ。二人の絆を見せつけられた」
ライアンは片手で赤くなってる顔を覆って、少し困ったように言う。
「他に方法が思いつかなかったんだよ。揶揄わないでくれ」
ニコラは真顔でライアンに言った。
「いや。揶揄ってなんかない。ライアンがリンを呼び戻さなかったら、彼女はここでこうして居ない」
私はやっとの思いで言った。
「……ありがとう。ライアン」
でも、キスって。
ええと。
あの人数の前でですか?
剣士も魔法騎士も、ほぼ、全員が参戦してませんでしたか?
ライアンの赤面が移ったみたい。
なんか、もう。
私も真っ赤になってしまった。
でも、私には気になる事が、もう一つ。
「ニコラ。赤いライオンは?」
ニコラは軽く微笑んだ。
「ライアンに戻ってる。たぶん、自分が側に居ると、リンに負担が掛かるって思ったんだね。まあ、リンをすごく気に入ってるのは変わらないから、また、リンのそばに来ることもあるかもしれないけどね」
私は納得して頷いた。
「意識を失ってる間に、ライオンが立ち去って行く夢を見たの」
ニコラは、私の不安を感じたのか、慰めるように言ってくれた。
「大丈夫。居なくなったわけじゃないよ」
それから、彼は微笑んで立ち上がった。
「さてと。まあ、リンが軒並み切り刻んだから、大した魔物は残ってなかったけど。後処理してる皆んなを呼んで来ていいかな? たぶん、心配してるから」
ライアンが頷く。
「ああ。頼むよ」
ニコラがテントを出ると、ライアンが私を抱きしめた。
「目を覚まさないから……心臓が止まるかと思った」
私は彼を強く抱きしめ返す。
「……ごめんなさい」
それから、彼は甘い瞳で私を見つめて、口付ける。
彼の呼吸が私の呼吸に重なって、頭の奥がジンッと痺れた。
唇を離して、ライアンが困ったように笑う。
「……言い訳もできねぇな。ディアンにもミリアンにも、話さなきゃなんないか。遠征から帰ったらのつもりだったんだけどな」
私は彼の甘くて優しい目に、小さく頷いた。




